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少しずつ変わりゆく日常

10話

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ガッチャ、バン!、と乱暴にドアを閉める。

その性で何事だ、と薬師のお爺さんが裏から出て来た。

「なんじゃい、お前さんか。そんなに慌ててどうしたんじゃ?」

「あ、…すみません。外で変な人に会いまして…」

苦笑で答えると、お爺さんは溜め息を付く。

「スラム街に近いからのぉ。変な人間も出るわ」

「そうなんですね、気を付けます」

この薬屋は知名度こそ低いが、腕は確かなのだ。

「で、今日は何を買いに来たんじゃ?」

「火薬を下さい。あと、爆薬に調合して下さい。」

お爺さんは頷くと裏へ行った。
何時も買っているのでこれだけで通じるのだ。

『ミシェ。ピカ、お腹減ったー』

「もう少し待っててね。」

ピカを撫でながら和む。
この店の薬品の匂いは嫌いじゃない。

『おーなーかー減ったー』

「んー。何かあるかな?」

僕はショルダーバックの中を探る。
今日もフード付き黒パーカーに黒ズボンだ。
口元も隠れるタイプ。

場合によっては僕が変な人に間違われそうだ。

だが、この格好だと話掛けられなくて楽だ。

(城にいた頃より、寒くないしね)

『お腹減ったー』

「ちょっと待っててね」

「誰、喋る?」

??

声がしたので後ろを向いた。
そしたら、貴族がいた。

上等な青色の羽織、刺繍が入ったシャツ、そして金のボタン。手入れの行き届いた髪と爪。

(あの子と似た服装だ)

僕は暫くその子を見ていた。

僕より五歳程若い少年。
灰色の髪にオレンジ色の瞳をしている。

「?」

「あ、えっと、……どうしたの?」

「?」

少年はきょとん、とあどけない瞳で僕を見る。

「誰、喋る?」

1、小人と話してたんだ→変な人
2、気のせいじゃない?→??
3、一人言→変な人

僕は即決した。

「気のせいじゃない?」

「??気の、せいじゃ、ない、よ?」

………どうしようか。

「気のせいじゃない?」

もう一度繰り返した。

「おにーさん、ゆーれ、見える?」

ゆーれ?人の名前かな?それとも種族名?

魔族・エルフ・ドワーフ・人族・精霊族・竜族

(ゆーれ、に当てはまる物はないな)

「ゆーれ、見える?ボク、いる?」

少年がパーカーの裾を掴み揺らす。

「シル坊。何やってるんだ?」

裏から使用人の服を着た青年が出て来る。

「「あ」」

僕と青年はお互いに驚いた。




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