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HTRICワールドチャンピオンシップ開幕!
第25話 これがハントラの世界大会!
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一学期の期末考査をなんとか無事乗り切って、あとはいよいよ夏休みを待つばかりとなった。クラスの空気もどこか浮ついていて、夏休みにどこに遊びに行くか、という話題があちらこちらで上がっていた。海やら山に行くやつ、都会に遊びに行くやつ、フェスに行くやつと、千差万別。みんなすっかり始まったばかりの夏に浮かれている。
「シュン君、一緒に部活行こう」
ホームルームが終わり、アカネが席まで呼びに来た。その横を帰宅組の女子たちがアカネに手を振って通り過ぎ、教室を出ていった。
カオルとの勝負のあと、大熊高校のジョージに一泡吹かせたり、カオルがプロ格闘家を腕相撲で打ち負かせて自信喪失させたりと、いろいろとあった。でも、一番大きな出来事は、花咲里さんがおれのことを好きだと告白したことだった。
とはいえ、おれも混乱したのと舞い上がったのとで、彼女にどんな返事をしたのかさえちゃんと覚えてない。カオル曰く、
「同じ男として恥ずかしいくらいかっこ悪い告られ方だった」
らしい……だってしょうがないじゃない! 人に告られるの初めてだったんだもの!
そういうわけで、おれと花咲里さんが付き合うことになり、おれは彼女のことを「アカネ」と名前で呼ぶようになり、アカネもおれのことを「シュン君」と呼ぶようになった。うふふ、恋人っぽーい。いや、ちゃんと恋人同士なのだ!
さらに、最近のアカネは方言のコンプレックスがなくなってきたのか、さっきみたいにクラスの女子たちとは気さくに話ができるようになったみたいだ。
「お疲れ様です!」
「あ、パヤオ君とアカネちゃん。お疲れ」
部室のドアを開けて挨拶をすると、すっかり着替え終わって女の子モードのカオルが顔をあげて返事した。テイブンとなにやら旅行雑誌のようなものを眺めている。この二人、とても仲良しなのだ。
「二人で旅行ですか?」
「まだ決めたわけじゃないんだけど、ちょっと興味があってさ。一度、海外とか行ってみたいんだよね」
「へえ、海外ですか……」
英語が苦手なおれにはハードルが高そうだと思いながら、ふとテイブン先輩を見る。なんとなく税関で止められそうな顔してるなと、ついプッと吹き出した。
「カオルちゃん、パスポート写真撮るときは女の子の恰好しちゃダメですよ!」
アカネは相変わらず妙な心配をしている。わかってるよ、とカオルも苦笑いを浮かべてぱたぱたと手のひらをあおいだ。
「でも、やっぱり海外旅行は憧れますね」
「パヤオ君ならどこに行きたい?」
「行くならモータースポーツの本場アメリカとか、あとモナコでF1観戦とかしたいですね。モンテカルロ市街地をF1マシンが走るんですよ! 一度生で見てみたいなぁ……カオルさんは行きたいところ、あるんですか?」
「フィリピンとかいいなって話していたんだ。あっちで女装愛好者コンテストとかやってるんだって」
うん、カオルならぶっちぎりで優勝しそうだわ。というか、そのために海外旅行いくとか、どんだけ女装好きなんだよ。テイブン先輩もノリノリだけど、あなたはちょっと自重したほうが……
そんな話で盛り上がっていると、部室のドアが爆発したのかと思うほど豪快に音を立てて開かれた。
「待たせたな!」
エンツォが派手なアクションで飛び込んできた。別に待ってないです。
エンツォに続いてコウバン先輩もやってきて、自然と全員で部室の真ん中の長テーブルを囲む。
「みんな、これを見ろ」
バシンと音を立てて、エンツォがA4サイズの紙をテーブルの上に叩きつけた。おれはそこに書いてある文言を読み上げる。
「HTRICジュニアワールドチャンピオンシップ2018 開催のお知らせ?」
「そうだ。喜べ。我が入舟高校荷車検査部のハンド・トラック・ライド・インターナショナル・コミッショナー公式世界大会への出場が決まったぞ」
胡散臭ぇ!
なんで世界大会開催のお知らせがA4のコピー用紙で回ってくるんだよ。そもそも、予選なかったじゃん! つうか、おれが入部してから公式の大会にすら出場してないし!
「まったく、パヤオはひねくれていてダメだ。こうは考えられないのか? 『世界がオレたちを呼んでいる』と」
「ならないっすね。一切。それで、そのワールドチャンピオンシップってのはいつの話なんですか?」
「来週末だ」
近い! 開催日近すぎ! なんでこの人、毎回毎回、行事ごとの発表を直前でするんだよ!
「はげー、世界大会っちば、外国の人ともレースするんですか? わん、英語のテストの点数ちょっと悪かったし心配……」
「心配無用。出場するのはすべて日本の高校だ。日本語が通じるぞ」
それ、世界大会じゃなくていいとこ甲子園だ! 今すぐ大会名称を改名しろ! ていうか、アカネのピントが毎回大きくズレまくってる!
「それで、その大会ってどこで開催するんですか? ひょっとしてまた遠征ですか?」
ため息混じりにたずねると、エンツォは余裕たっぷりに笑った。
「聞いて驚け、今回のレース会場は……尾上山だっ!」
「地元かよっ!」
ワールド感ゼロだよ!
「まあまあ、いいじゃない。それに地元ってアドバンテージ大きいわよ。ホーム開催なんだもの」
テイブンが甲高い声でいう。ホーム開催といえば聞こえはいいけれど、ハントラそのものがどアウェイです! それに、合宿で大阪にいったときみたいな遠征の醍醐味も味わえないじゃないか。せっかく彼女ができたのに!
「これが今回のトーナメント表だ」
どこから取り出したのか、今度はロール状になった大判のポスターサイズの紙を取り出し、それを端から紙を広げていくエンツォ。そこに書かれた出場校は……って、白紙?
「全然トーナメント表出てきませんけど、裏面じゃないんですか?」
「だから、毎回いっているだろう。どうしてパヤオはそう気が早いんだ。急いては事をシソンヌじろうだといってるだろう」
ため息をついて、エンツォはロール紙を広げる。つうか、シソンヌ関係ねぇし、前は志尊淳だったし。
やがて、B2ほどある大きな用紙のど真ん中に小さなトーナメント表があらわれた。出場校はたったの四校だった。
「トーナメント表、小っちゃ! なんですか、それ!」
「もちろん、今回の大会の出場校だ」
「世界大会なのに四校だけ!?」
この際、百歩譲って大会名称は許すわ! せめて各都道府県から参加しろよ!
「だから、どうしてお前はそうひねくれているんだ! こうは考えられないのか! あと二つで世界一だと!」
いや、確かにそうだけど! つうか、参加するだけでベスト4だよ! それより、紙が無駄! そのトーナメント表こそA4のコピー用紙で充分だ!
「あと二つ勝てば、この高校の校舎に大きく『祝 HTRICジュニアワールドチャンピオンシップ 優勝 荷車検査部』っていう垂れ幕が下がるんだぞ! 」
「それはそれで恥ずかしいわ!」
「まあまあ、ちょっと落ち着きなって」
コウバン先輩にたしなめられてしまった。
「どっちにしても、この大会にエントリーしていることは事実なんだから、出るからにはベストを尽くそう。まず出場校の確認をしておこう」
出場校はおれたち入舟高校の他には、前に一度、尾上山で因縁を吹っかけられたジョージ率いる大熊高校ハンドトラックライド部。そして、なぜか浪速のブルドーザー、逢坂太郎率いるI-1グランプリ常勝軍団、浪速工業高校事務椅子競技部の名前もあった。しかも、おれたちの一回戦の相手はその浪速工業高校だった。そういえば、前の合宿のときにも「今度はお前らハントラのルールで勝負してやる」みたいなことをいっていた気がする。やつらにとってはリベンジマッチになるのだろうか。
一方の大熊高校は別ブロックで一回戦の対戦相手は『鬼界高校』だった。ちなみに、おれはこの高校名は初めてきいたけど、なんだか悪役感満載な学校名だ。
「ちなみに、この鬼界高校って強いんですか?」
「去年は僕たちと対戦したんだけれど、それほどでもなかったよ。オーソドックスな優等生なライドだったよ」
優等生かよ! なんか、名前とのイメージかけ離れすぎ!
「優勝するためには、浪工はとにかく、大熊か鬼界、その勝ち上がってきたほうと対戦だね」
浪工、すでに相手にすらされてない……
エンツォもコウバン先輩に同意するようにうなずく。
「要注意なのは大熊高校だ。オレたちとは因縁の相手といってもいいだろう」
実はおれ、その人たちに教わってました。まあ、あのときはジョージとプリンはほとんど役に立たなかったけど、マイクロのコーストーレス能力はチートレベルだし、実際に走らせたらジョージの加速力とプリンのハンドリングレベルは群を抜いているとマイクロからきいている。
「あの、大熊のジョージとプリンって間違いなくタンデムで出ると思います」
おれがいうと、エンツォが眉間にしわを寄せた。
「なぜ知っている」
「実は……あいつらのところにスパイに行ってたんです」
ということにしておこう。本当はカオルとの勝負のために特訓をつけてもらったんだけどね。しかも、アカネのことをエサにして。
「ほう。いつの間にかそんな高等技術を身につけていたとはな。偵察は試合前には欠かすことができない大事な作戦だ。でかしたぞ、パヤオ」
素直に騙されてくれた。ラッキー。
「大熊にはシングルで速いやつはいくらでもいます。試合で確実に一つとるためにはジョージとプリンはタンデムで勝負してくるはずです」
「なるほど。一理あるね。それじゃあ、こっちのタンデムは僕とテイブンで乗ったほうがいいのかな?」
コウバン先輩がいうやいなや、
「おれとアカネにタンデムをやらせてもらえませんか?」
と、その案を却下して、おれとアカネのライドを志願した。
「アカネちゃんと!?」
カオルが冷や水を浴びたような声をあげて驚く。アカネも突然の指名に目をぱちくりと瞬かせている。
「パヤオ、知っているとは思うが、公式レースにおいてタンデムの一勝はシングル二勝の価値があるんだぞ。それでも、お前たちで勝負するというのか?」
「はい」
エンツォの言葉におれはうなずく。
ハントラのルールにおいて、星勘定はライダーの数なのだ。つまり、タンデムで勝つと、2ポイントが加算される。最初のシングル2レースを負けたとしても、タンデムを取れば、最後のシングルレースで勝てば逆転できるのだ。裏を返せば、シングルに一つでも負けていたとしたら、タンデムレースの負けは、そのチームの負けを意味する。
ただ、おれがジョージの弱みをいくつか握っているのは事実だ。それに、奴はアカネに惚れている。それだって多少は心理的側面に影響はあるはずだ。
部室に短い沈黙が訪れる。エンツォもコウバン先輩も、テイブン先輩もおれの提案を受け入れるかどうか、悩んでいるようだった。
おれはその沈黙を裂くようにいう。
「エンツォさん、前にいいましたよね。アカネが大熊のやつらにつきまとわれていたとき『お前の力で大熊のやつらに自ら鉄槌を下すことも可能だ』って。ハントラというフィールドで、ジョージたちと決着をつけたいんです。アカネと、おれの力で。エンツォさんだって負けっぱなしが嫌だから、合宿で逢坂たちにリベンジした。違いますか? おれだって、ジョージに負けたままは嫌なんです!」
おれの真剣な様子にコウバン先輩とテイブン先輩は「いいんじゃない?」と賛成に回ってくれた。カオルにいたっては「パヤオ君ならジョージにも勝てると思うよ!」とノリノリでエンツォにダメ押しをしてくれた。
そして、最後にアカネがエンツォにいった。
「わん、この部に入って良かったっち、思ってます! 最初は、みんなに大熊の人たちから守ってもらえる、そんな気持ちでした。でも、今はわん自身が強くなりたい、速く走らんばっち思うんです! わんも部の一員として、ちゃんと強くなったところを、エンツォさんにも見てもらいたいんです! お願いします」
アカネは深々と頭を下げる。むぅ、とエンツォは腕を組んでしばし考え込んだあと、顔をあげてうなずいた。
「いいだろう。ただし、負けたらそのときは……」
そのときは?
「罰ゲームが待っていると思え」
コウバン先輩が今まで見せたことがないような苦々しい顔を作った。そういえば、コウバン先輩も罰ゲームとやらをさせられた一人だった。この人、本当にエンツォに何されたんだろう?
「シュン君、一緒に部活行こう」
ホームルームが終わり、アカネが席まで呼びに来た。その横を帰宅組の女子たちがアカネに手を振って通り過ぎ、教室を出ていった。
カオルとの勝負のあと、大熊高校のジョージに一泡吹かせたり、カオルがプロ格闘家を腕相撲で打ち負かせて自信喪失させたりと、いろいろとあった。でも、一番大きな出来事は、花咲里さんがおれのことを好きだと告白したことだった。
とはいえ、おれも混乱したのと舞い上がったのとで、彼女にどんな返事をしたのかさえちゃんと覚えてない。カオル曰く、
「同じ男として恥ずかしいくらいかっこ悪い告られ方だった」
らしい……だってしょうがないじゃない! 人に告られるの初めてだったんだもの!
そういうわけで、おれと花咲里さんが付き合うことになり、おれは彼女のことを「アカネ」と名前で呼ぶようになり、アカネもおれのことを「シュン君」と呼ぶようになった。うふふ、恋人っぽーい。いや、ちゃんと恋人同士なのだ!
さらに、最近のアカネは方言のコンプレックスがなくなってきたのか、さっきみたいにクラスの女子たちとは気さくに話ができるようになったみたいだ。
「お疲れ様です!」
「あ、パヤオ君とアカネちゃん。お疲れ」
部室のドアを開けて挨拶をすると、すっかり着替え終わって女の子モードのカオルが顔をあげて返事した。テイブンとなにやら旅行雑誌のようなものを眺めている。この二人、とても仲良しなのだ。
「二人で旅行ですか?」
「まだ決めたわけじゃないんだけど、ちょっと興味があってさ。一度、海外とか行ってみたいんだよね」
「へえ、海外ですか……」
英語が苦手なおれにはハードルが高そうだと思いながら、ふとテイブン先輩を見る。なんとなく税関で止められそうな顔してるなと、ついプッと吹き出した。
「カオルちゃん、パスポート写真撮るときは女の子の恰好しちゃダメですよ!」
アカネは相変わらず妙な心配をしている。わかってるよ、とカオルも苦笑いを浮かべてぱたぱたと手のひらをあおいだ。
「でも、やっぱり海外旅行は憧れますね」
「パヤオ君ならどこに行きたい?」
「行くならモータースポーツの本場アメリカとか、あとモナコでF1観戦とかしたいですね。モンテカルロ市街地をF1マシンが走るんですよ! 一度生で見てみたいなぁ……カオルさんは行きたいところ、あるんですか?」
「フィリピンとかいいなって話していたんだ。あっちで女装愛好者コンテストとかやってるんだって」
うん、カオルならぶっちぎりで優勝しそうだわ。というか、そのために海外旅行いくとか、どんだけ女装好きなんだよ。テイブン先輩もノリノリだけど、あなたはちょっと自重したほうが……
そんな話で盛り上がっていると、部室のドアが爆発したのかと思うほど豪快に音を立てて開かれた。
「待たせたな!」
エンツォが派手なアクションで飛び込んできた。別に待ってないです。
エンツォに続いてコウバン先輩もやってきて、自然と全員で部室の真ん中の長テーブルを囲む。
「みんな、これを見ろ」
バシンと音を立てて、エンツォがA4サイズの紙をテーブルの上に叩きつけた。おれはそこに書いてある文言を読み上げる。
「HTRICジュニアワールドチャンピオンシップ2018 開催のお知らせ?」
「そうだ。喜べ。我が入舟高校荷車検査部のハンド・トラック・ライド・インターナショナル・コミッショナー公式世界大会への出場が決まったぞ」
胡散臭ぇ!
なんで世界大会開催のお知らせがA4のコピー用紙で回ってくるんだよ。そもそも、予選なかったじゃん! つうか、おれが入部してから公式の大会にすら出場してないし!
「まったく、パヤオはひねくれていてダメだ。こうは考えられないのか? 『世界がオレたちを呼んでいる』と」
「ならないっすね。一切。それで、そのワールドチャンピオンシップってのはいつの話なんですか?」
「来週末だ」
近い! 開催日近すぎ! なんでこの人、毎回毎回、行事ごとの発表を直前でするんだよ!
「はげー、世界大会っちば、外国の人ともレースするんですか? わん、英語のテストの点数ちょっと悪かったし心配……」
「心配無用。出場するのはすべて日本の高校だ。日本語が通じるぞ」
それ、世界大会じゃなくていいとこ甲子園だ! 今すぐ大会名称を改名しろ! ていうか、アカネのピントが毎回大きくズレまくってる!
「それで、その大会ってどこで開催するんですか? ひょっとしてまた遠征ですか?」
ため息混じりにたずねると、エンツォは余裕たっぷりに笑った。
「聞いて驚け、今回のレース会場は……尾上山だっ!」
「地元かよっ!」
ワールド感ゼロだよ!
「まあまあ、いいじゃない。それに地元ってアドバンテージ大きいわよ。ホーム開催なんだもの」
テイブンが甲高い声でいう。ホーム開催といえば聞こえはいいけれど、ハントラそのものがどアウェイです! それに、合宿で大阪にいったときみたいな遠征の醍醐味も味わえないじゃないか。せっかく彼女ができたのに!
「これが今回のトーナメント表だ」
どこから取り出したのか、今度はロール状になった大判のポスターサイズの紙を取り出し、それを端から紙を広げていくエンツォ。そこに書かれた出場校は……って、白紙?
「全然トーナメント表出てきませんけど、裏面じゃないんですか?」
「だから、毎回いっているだろう。どうしてパヤオはそう気が早いんだ。急いては事をシソンヌじろうだといってるだろう」
ため息をついて、エンツォはロール紙を広げる。つうか、シソンヌ関係ねぇし、前は志尊淳だったし。
やがて、B2ほどある大きな用紙のど真ん中に小さなトーナメント表があらわれた。出場校はたったの四校だった。
「トーナメント表、小っちゃ! なんですか、それ!」
「もちろん、今回の大会の出場校だ」
「世界大会なのに四校だけ!?」
この際、百歩譲って大会名称は許すわ! せめて各都道府県から参加しろよ!
「だから、どうしてお前はそうひねくれているんだ! こうは考えられないのか! あと二つで世界一だと!」
いや、確かにそうだけど! つうか、参加するだけでベスト4だよ! それより、紙が無駄! そのトーナメント表こそA4のコピー用紙で充分だ!
「あと二つ勝てば、この高校の校舎に大きく『祝 HTRICジュニアワールドチャンピオンシップ 優勝 荷車検査部』っていう垂れ幕が下がるんだぞ! 」
「それはそれで恥ずかしいわ!」
「まあまあ、ちょっと落ち着きなって」
コウバン先輩にたしなめられてしまった。
「どっちにしても、この大会にエントリーしていることは事実なんだから、出るからにはベストを尽くそう。まず出場校の確認をしておこう」
出場校はおれたち入舟高校の他には、前に一度、尾上山で因縁を吹っかけられたジョージ率いる大熊高校ハンドトラックライド部。そして、なぜか浪速のブルドーザー、逢坂太郎率いるI-1グランプリ常勝軍団、浪速工業高校事務椅子競技部の名前もあった。しかも、おれたちの一回戦の相手はその浪速工業高校だった。そういえば、前の合宿のときにも「今度はお前らハントラのルールで勝負してやる」みたいなことをいっていた気がする。やつらにとってはリベンジマッチになるのだろうか。
一方の大熊高校は別ブロックで一回戦の対戦相手は『鬼界高校』だった。ちなみに、おれはこの高校名は初めてきいたけど、なんだか悪役感満載な学校名だ。
「ちなみに、この鬼界高校って強いんですか?」
「去年は僕たちと対戦したんだけれど、それほどでもなかったよ。オーソドックスな優等生なライドだったよ」
優等生かよ! なんか、名前とのイメージかけ離れすぎ!
「優勝するためには、浪工はとにかく、大熊か鬼界、その勝ち上がってきたほうと対戦だね」
浪工、すでに相手にすらされてない……
エンツォもコウバン先輩に同意するようにうなずく。
「要注意なのは大熊高校だ。オレたちとは因縁の相手といってもいいだろう」
実はおれ、その人たちに教わってました。まあ、あのときはジョージとプリンはほとんど役に立たなかったけど、マイクロのコーストーレス能力はチートレベルだし、実際に走らせたらジョージの加速力とプリンのハンドリングレベルは群を抜いているとマイクロからきいている。
「あの、大熊のジョージとプリンって間違いなくタンデムで出ると思います」
おれがいうと、エンツォが眉間にしわを寄せた。
「なぜ知っている」
「実は……あいつらのところにスパイに行ってたんです」
ということにしておこう。本当はカオルとの勝負のために特訓をつけてもらったんだけどね。しかも、アカネのことをエサにして。
「ほう。いつの間にかそんな高等技術を身につけていたとはな。偵察は試合前には欠かすことができない大事な作戦だ。でかしたぞ、パヤオ」
素直に騙されてくれた。ラッキー。
「大熊にはシングルで速いやつはいくらでもいます。試合で確実に一つとるためにはジョージとプリンはタンデムで勝負してくるはずです」
「なるほど。一理あるね。それじゃあ、こっちのタンデムは僕とテイブンで乗ったほうがいいのかな?」
コウバン先輩がいうやいなや、
「おれとアカネにタンデムをやらせてもらえませんか?」
と、その案を却下して、おれとアカネのライドを志願した。
「アカネちゃんと!?」
カオルが冷や水を浴びたような声をあげて驚く。アカネも突然の指名に目をぱちくりと瞬かせている。
「パヤオ、知っているとは思うが、公式レースにおいてタンデムの一勝はシングル二勝の価値があるんだぞ。それでも、お前たちで勝負するというのか?」
「はい」
エンツォの言葉におれはうなずく。
ハントラのルールにおいて、星勘定はライダーの数なのだ。つまり、タンデムで勝つと、2ポイントが加算される。最初のシングル2レースを負けたとしても、タンデムを取れば、最後のシングルレースで勝てば逆転できるのだ。裏を返せば、シングルに一つでも負けていたとしたら、タンデムレースの負けは、そのチームの負けを意味する。
ただ、おれがジョージの弱みをいくつか握っているのは事実だ。それに、奴はアカネに惚れている。それだって多少は心理的側面に影響はあるはずだ。
部室に短い沈黙が訪れる。エンツォもコウバン先輩も、テイブン先輩もおれの提案を受け入れるかどうか、悩んでいるようだった。
おれはその沈黙を裂くようにいう。
「エンツォさん、前にいいましたよね。アカネが大熊のやつらにつきまとわれていたとき『お前の力で大熊のやつらに自ら鉄槌を下すことも可能だ』って。ハントラというフィールドで、ジョージたちと決着をつけたいんです。アカネと、おれの力で。エンツォさんだって負けっぱなしが嫌だから、合宿で逢坂たちにリベンジした。違いますか? おれだって、ジョージに負けたままは嫌なんです!」
おれの真剣な様子にコウバン先輩とテイブン先輩は「いいんじゃない?」と賛成に回ってくれた。カオルにいたっては「パヤオ君ならジョージにも勝てると思うよ!」とノリノリでエンツォにダメ押しをしてくれた。
そして、最後にアカネがエンツォにいった。
「わん、この部に入って良かったっち、思ってます! 最初は、みんなに大熊の人たちから守ってもらえる、そんな気持ちでした。でも、今はわん自身が強くなりたい、速く走らんばっち思うんです! わんも部の一員として、ちゃんと強くなったところを、エンツォさんにも見てもらいたいんです! お願いします」
アカネは深々と頭を下げる。むぅ、とエンツォは腕を組んでしばし考え込んだあと、顔をあげてうなずいた。
「いいだろう。ただし、負けたらそのときは……」
そのときは?
「罰ゲームが待っていると思え」
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