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HTRICワールドチャンピオンシップ開幕!
第26話 これがタンデムライドの極意!?
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とにもかくにも、おれたちの大会出場が決まったからには、勝つための特訓をしなくちゃならない。おれはともかく、アカネが一週間でジョージたちと互角に戦えるレベルにする必要があるのだ。自分でいっておきながら、ちょっと無謀かもと、やや前のめり気味だった自分を反省する。けど、やるからには絶対勝つ。
まずはアカネを台車に乗せて、坂道を下る練習をするものの、軽くカーブを曲がろうとするたびに、アカネは「おおぉっ」と大声をあげる。腰も引けていて、なんだか見ていて可愛らしいけど、様にはなってない。
何度か走ってみたが、思ったよりも操縦が上手くいかないことに、アカネもしゅんとしてと肩を落としていた。
「す、すみょらんやぁ……シュン君。わん、全然上手く走りきらんやぁ……」
「大丈夫。まだ、時間はあるよ。大会までに何とかなる方法を考えよう」
そうはいったものの、どうすれば彼女の操縦手としてのスキルをあげることができるのか、さっぱり見当がつかない。おれ自身、初めてタンデムしたときは、完全に感覚で乗っていたし。
マイクロに頼んでドラトラをお願いしようかとも思ったが、そもそも、想定する対戦相手が大熊高校だ。第一、あの過酷な特訓をアカネにさせるわけにはいかない。
どうしたもんかと、ボリボリと頭を掻くも、結局、いい練習方法も思い浮かばず、最初のカーブでさえ100%のスピードで突っ込むことができないまま、この日の練習が終了した。
尾上山を下りて部室に戻ると、アカネはすっかり気落ちして、大きなため息を連発していた。
「そんなに気にすることないよ、アカネちゃん」
着替え終わったカオルがアカネのことを励ます。
「ありがっさまりょん……」
うっすらと微笑みながら口ではそういうものの、アカネの表情は暗い。なんとかしてあげたいけど、彼女が落ち込む理由は速く走れない自分自身への苛立ちであるわけで、それをおれがどうこうできるかといえば、難しい。
「ねえ。このあと、みんなでお茶でもしながらミーティングしてみない?」
そう提案したのはテイブン先輩だった。
「いいね、テーブン! アイデアを出し合えば何かいい練習方法が思い浮かぶかもしれないし!」
カオルが同調する。エンツォとコウバン先輩も異論はなかった。
そこで、着替えを済ませると、全員で『カフェ あしびば』に行くことにした。以前に、アカネにつきまといをしていた大熊のジョージを嵌めたお店だ。そのことを知っているのはおれとアカネ、カオルの三人だけだ。
「ボクはアイスミルクティ、テーブンは?」
席に座り、注文を取りに来た美人の店長にカオルがいう。Tシャツの袖から伸びる、透き通るような白い肌をした腕が、すらすらと伝票に注文を書き込んでいく。たったそれだけの動作でもつい見惚れてしまいそうになる、丁寧で無駄のない所作。
「アタシ、オリジナルハーブブレンドをホットで」
相変わらず女子力高いな、テイブン先輩。
「僕はアイスコーヒーを。パヤオ君とアカネちゃんは?」
「じゃあ、おれたちオレンジジュースでお願いします」
アカネもこくりとうなずく。おれたちがデートでお店に行くとと大抵ふたりともオレンジジュースなのだ。
「では、赤ワインをもらおうか」
うぉい! なにサラッとアルコール頼んでるんだよ! あんた高校生だろうがっ!
「あれ? パヤオ君って知らなかったっけ? エンツォって三留してるから、今、二十歳だよ」
ハタチ!? つうか、三留!? そんなに留年してたのこの人!
「正確には休学だ。オレは三年間、山籠もりをしていたからな」
山籠もり! 現代社会で山籠もりって! 熊か? 熊を倒そうとしていたのか!?
「オレはハントラを学ぶために、ダイシャライドの第一人者である『藤尾嘉博、』先生のもとに、三年間弟子入りしていたのだ」
藤尾嘉博、って、この前大熊の奴らに盛大に釣られていたあのフィギュアの人? つうか、よりにもよってなぜ弟子入り志願するのにハントラを選んだんだ、この人!?
「藤尾先生は初代仮面ダイシャ―として、あの特撮映画の撮影でスタントマンを一切起用せず、すべてのアクションシーンを先生自ら演じられた伝説。その姿に感銘を受けたオレは、先生の元に弟子入りを志願したのだ。その三年間はまさに血を吐くような日々だった。巨大蛇と格闘したり、殺人蜘蛛のいるジャングルで一週間を過ごしたり、時には無人島でナイフ一本で生き延びたりもした」
やりすぎ! 藤尾先生やりすぎ! おまけに台車、全く関係ない!
「その経験のおかげでオレは決して諦めることのない不屈の精神を手に入れたのだ。そして、ついにオレは先生からダイシャライドの極意を伝授して頂く約束を取り付けた。しかし、約束の一週間前……先生は、ヒマラヤ山脈台車滑降の最中に滑落事故に遭われて、帰らぬ人となった」
先生ーー!! 何やってるんですかっ! いや、亡くなった方にいうのは忍びないけれど、でもいわせて! あんたホンモノの馬鹿だよ!!
「結局、オレは藤尾先生のライドを伝授してもらうことはかなわなかった。しかし、三年間の厳しい修行の末、先生の不屈の闘志を受け継いだオレは、先生の残した秘伝書を頼りにダイシャライドを研究し、このハンドトラックライドという競技を完成させたのだ」
「エンツォさんっちば、そんな血のにじむような努力を……」
あの、アカネさん。なに涙ぐんでるんですか? どう考えてもおかしいですよ、それ。
あれ? ていうか、エンツォがハントラを完成させたってことは……?
「そうして、おれはHTRICを設立し、初代理事長となった」
あんたの組織かよ、そこ! どうりで世界大会を名乗る割には規模が小さいと思ったよ!
「もっとも、現在HTRICの理事長は外山トラスコの外山源太に譲っているがな」
……誰だよっ!?
「一流工場用機器メーカーの現社長だよ」
カオルが耳打ちした。
マジで!? なんでそんな人と交流あるんだよ、このおっさん!
「あの、エンツォさん!」
彼の思い出話に何故か感激しているアカネが、身を乗り出して声を張った。
「どうすれば、エンツォさんみたいに速く走れるようになるんですか!」
「簡単なことだ。己の力を信じ、台車の声を聞けばいい」
いや、曖昧過ぎるだろ、それ。
エンツォは運ばれてきたワインの香りを楽しんだ後、グラスを傾けうまそうに息をついた。よく考えたら、成人してるけど制服着てたらダメじゃん。ちらり、とあしびばの美人店長を見遣ると、おれの視線に気づいたのか、彼女は人差し指を唇にあてがって「内緒ね」のポーズをしてウィンクしてみせた。
はい、誰にもいいません!
「逆に、タンデムを走る上で何が障壁になっているのかを洗い出してみたらどうだろう。それを一つずつクリアしていければ、自然とタイムも伸びるんじゃないかな?」
コウバン先輩の提案で、おれとアカネの聞き取り調査が始まった。
「まず、アカネちゃんがライドしていて、気になることとか、難しいと感じることなんかはある?」
アカネは人差し指を頬にあてがいながら、中空に視線を彷徨わせ、今日の練習を思い返す。
「えっと、加速するポイントがいつもあやふやで、どこで荷重移動したらいいのかわからんこと、かな。あと、加速が急すぎてバランスがとりにくいとか……。あ、それから、コーナー進入時のスピードが突っ込みすぎとって、体重移動が間に合わんことも……」
全部おれのせいかよ!
「なるほど、パヤオの加速手としてのスキルが低すぎるということだな」
エンツォ、核心突きすぎ。おれの心がめった刺しにされちゃうよ!
「そ、そうじゃなくて……」
慌てて手を振るアカネ。いまさらフォローされても、おれのHPはゼロよ!
「なんちゅうか、テンポがずれるみたいな。こう、ひとつになりきらん感じがして……」
「ちぐはぐになってる?」
「そう、ちぐはぐになってる!」
カオルがきくと、我が意を得たり、とばかりにアカネも同じ単語を繰り返し、カオルを指さした。
「パヤオと赤いソニックはまだ一心同体になれていない、というわけか」
エンツォが渋い顔をつくったまま腕組みをして考え込んだ。
一心同体……おれとアカネが一心同体に……うふふ、なんかちょっとエロい響き! 残り一週間で二人が一心同体になるために、より濃蜜な関係を……
「よし、残り一週間で二人が一心同体となるために、今すぐ特訓だ! オルディネ・ペル・ファヴォーレ!」
エンツォは高々と右手を掲げ、指をパチンと鳴らす。てか、なんでイタリア語なんだよ。
「シニョリーナ・マコト、このパヤオのためにアレを用意してやってくれないか、アツアツでな」
注文を取りに来た美人店長にエンツォがいう。店長の名前、マコトさんっていうんだ、覚えておこうっと。ところで、アレってなに?
「わかりました。アツアツでね」
陽だまりのような笑顔でマコトさんは注文を受けると、カウンターの奥へと引っ込む。エンツォって何気に交流範囲が広いな、などとぼんやり考えていると、
「パヤオ、赤いソニック。こっちに座れ」
と、一つ隣のテーブルに座るようにエンツォに指示される。何をするつもりだろうと、二人して隣のテーブルに移動して、向かい合わせに座ろうとすると、突然、
「馬鹿野郎!」
と、エンツォに平手打ちをくらわされた。もちろん、おれだけ。
「向かい合わせに座ってどうする!」
「いや、何するのか聞いてないでしょう!」
「まったく、お前ってやつはとことん無知だな。藤尾先生の秘伝書に記されたタンデムライドでの一心同体になるための極意といえば、二人羽織しかないだろう!」
は?
ににんばおり?
訳がわからず、おれとアカネが二人してきょとんとしていると、
「おまたせしました」
と、マコトさんが笑顔でテーブルに厚揚げと大根の煮物の入った大皿を持ってきた。それはそれは、うまそうな湯気が立ち上る、どこからどう見てもアツアツのやつ。
「ちょちょちょ、何ですか! これ!」
「ごめんなさいね、この時期は『おでん』やってないから、厚揚げと大根の煮物なの……」
そういう意味じゃありません!
「ちぐはぐなお前たちが大会で最高のライドをするために、身も心も一心同体になるための藤尾流奥義、それが二人羽織!」
それ、絶対違うと思う!
「はげー。これっちば、どうやるんですか!?」
しかし、隣でアカネはコウバン先輩から大きな半纏を受け取りながら、すっかり臨戦態勢に入ってる。なんでノリノリなんだよ! つうか、どこから出したその半纏!
「この半纏に袖を通して、アカネちゃんはパヤオくんの後ろから手を回して、あの煮物をパヤオ君に食べさせてあげるんだ」
「でも、そんな体勢じゃわん、前が見ららんことにならん?」
「その状態でもアカネちゃんとパヤオ君の気持ちが通じ合えば、このアツアツの煮物も上手に食べさせてあげることができるってわけだよ!」
ぐっと親指を突き立てるコウバン先輩。グッドラックじゃないですよ! 絶対楽しんでるでしょ!?
「はい! やってみます!!」
やるの!?
ふん、と鼻息荒く半纏を羽織ると、おれの背中にむぎゅっと密着するアカネ。
あ……
やばい、このむにょりとした柔らかな感触は……制服の下に隠れた秘密兵器、わがままフレッシュボディ!
まさか、こんな合法的にこの感触をお楽しみできる方法があったとは! ありがとうエンツォ、ありがとう二人羽織!!
おれの頬がほわんとだらしなく緩む。
と、そのゆるゆるの頬に超アツアツの厚揚げがべちょりと張り付いた。
まずはアカネを台車に乗せて、坂道を下る練習をするものの、軽くカーブを曲がろうとするたびに、アカネは「おおぉっ」と大声をあげる。腰も引けていて、なんだか見ていて可愛らしいけど、様にはなってない。
何度か走ってみたが、思ったよりも操縦が上手くいかないことに、アカネもしゅんとしてと肩を落としていた。
「す、すみょらんやぁ……シュン君。わん、全然上手く走りきらんやぁ……」
「大丈夫。まだ、時間はあるよ。大会までに何とかなる方法を考えよう」
そうはいったものの、どうすれば彼女の操縦手としてのスキルをあげることができるのか、さっぱり見当がつかない。おれ自身、初めてタンデムしたときは、完全に感覚で乗っていたし。
マイクロに頼んでドラトラをお願いしようかとも思ったが、そもそも、想定する対戦相手が大熊高校だ。第一、あの過酷な特訓をアカネにさせるわけにはいかない。
どうしたもんかと、ボリボリと頭を掻くも、結局、いい練習方法も思い浮かばず、最初のカーブでさえ100%のスピードで突っ込むことができないまま、この日の練習が終了した。
尾上山を下りて部室に戻ると、アカネはすっかり気落ちして、大きなため息を連発していた。
「そんなに気にすることないよ、アカネちゃん」
着替え終わったカオルがアカネのことを励ます。
「ありがっさまりょん……」
うっすらと微笑みながら口ではそういうものの、アカネの表情は暗い。なんとかしてあげたいけど、彼女が落ち込む理由は速く走れない自分自身への苛立ちであるわけで、それをおれがどうこうできるかといえば、難しい。
「ねえ。このあと、みんなでお茶でもしながらミーティングしてみない?」
そう提案したのはテイブン先輩だった。
「いいね、テーブン! アイデアを出し合えば何かいい練習方法が思い浮かぶかもしれないし!」
カオルが同調する。エンツォとコウバン先輩も異論はなかった。
そこで、着替えを済ませると、全員で『カフェ あしびば』に行くことにした。以前に、アカネにつきまといをしていた大熊のジョージを嵌めたお店だ。そのことを知っているのはおれとアカネ、カオルの三人だけだ。
「ボクはアイスミルクティ、テーブンは?」
席に座り、注文を取りに来た美人の店長にカオルがいう。Tシャツの袖から伸びる、透き通るような白い肌をした腕が、すらすらと伝票に注文を書き込んでいく。たったそれだけの動作でもつい見惚れてしまいそうになる、丁寧で無駄のない所作。
「アタシ、オリジナルハーブブレンドをホットで」
相変わらず女子力高いな、テイブン先輩。
「僕はアイスコーヒーを。パヤオ君とアカネちゃんは?」
「じゃあ、おれたちオレンジジュースでお願いします」
アカネもこくりとうなずく。おれたちがデートでお店に行くとと大抵ふたりともオレンジジュースなのだ。
「では、赤ワインをもらおうか」
うぉい! なにサラッとアルコール頼んでるんだよ! あんた高校生だろうがっ!
「あれ? パヤオ君って知らなかったっけ? エンツォって三留してるから、今、二十歳だよ」
ハタチ!? つうか、三留!? そんなに留年してたのこの人!
「正確には休学だ。オレは三年間、山籠もりをしていたからな」
山籠もり! 現代社会で山籠もりって! 熊か? 熊を倒そうとしていたのか!?
「オレはハントラを学ぶために、ダイシャライドの第一人者である『藤尾嘉博、』先生のもとに、三年間弟子入りしていたのだ」
藤尾嘉博、って、この前大熊の奴らに盛大に釣られていたあのフィギュアの人? つうか、よりにもよってなぜ弟子入り志願するのにハントラを選んだんだ、この人!?
「藤尾先生は初代仮面ダイシャ―として、あの特撮映画の撮影でスタントマンを一切起用せず、すべてのアクションシーンを先生自ら演じられた伝説。その姿に感銘を受けたオレは、先生の元に弟子入りを志願したのだ。その三年間はまさに血を吐くような日々だった。巨大蛇と格闘したり、殺人蜘蛛のいるジャングルで一週間を過ごしたり、時には無人島でナイフ一本で生き延びたりもした」
やりすぎ! 藤尾先生やりすぎ! おまけに台車、全く関係ない!
「その経験のおかげでオレは決して諦めることのない不屈の精神を手に入れたのだ。そして、ついにオレは先生からダイシャライドの極意を伝授して頂く約束を取り付けた。しかし、約束の一週間前……先生は、ヒマラヤ山脈台車滑降の最中に滑落事故に遭われて、帰らぬ人となった」
先生ーー!! 何やってるんですかっ! いや、亡くなった方にいうのは忍びないけれど、でもいわせて! あんたホンモノの馬鹿だよ!!
「結局、オレは藤尾先生のライドを伝授してもらうことはかなわなかった。しかし、三年間の厳しい修行の末、先生の不屈の闘志を受け継いだオレは、先生の残した秘伝書を頼りにダイシャライドを研究し、このハンドトラックライドという競技を完成させたのだ」
「エンツォさんっちば、そんな血のにじむような努力を……」
あの、アカネさん。なに涙ぐんでるんですか? どう考えてもおかしいですよ、それ。
あれ? ていうか、エンツォがハントラを完成させたってことは……?
「そうして、おれはHTRICを設立し、初代理事長となった」
あんたの組織かよ、そこ! どうりで世界大会を名乗る割には規模が小さいと思ったよ!
「もっとも、現在HTRICの理事長は外山トラスコの外山源太に譲っているがな」
……誰だよっ!?
「一流工場用機器メーカーの現社長だよ」
カオルが耳打ちした。
マジで!? なんでそんな人と交流あるんだよ、このおっさん!
「あの、エンツォさん!」
彼の思い出話に何故か感激しているアカネが、身を乗り出して声を張った。
「どうすれば、エンツォさんみたいに速く走れるようになるんですか!」
「簡単なことだ。己の力を信じ、台車の声を聞けばいい」
いや、曖昧過ぎるだろ、それ。
エンツォは運ばれてきたワインの香りを楽しんだ後、グラスを傾けうまそうに息をついた。よく考えたら、成人してるけど制服着てたらダメじゃん。ちらり、とあしびばの美人店長を見遣ると、おれの視線に気づいたのか、彼女は人差し指を唇にあてがって「内緒ね」のポーズをしてウィンクしてみせた。
はい、誰にもいいません!
「逆に、タンデムを走る上で何が障壁になっているのかを洗い出してみたらどうだろう。それを一つずつクリアしていければ、自然とタイムも伸びるんじゃないかな?」
コウバン先輩の提案で、おれとアカネの聞き取り調査が始まった。
「まず、アカネちゃんがライドしていて、気になることとか、難しいと感じることなんかはある?」
アカネは人差し指を頬にあてがいながら、中空に視線を彷徨わせ、今日の練習を思い返す。
「えっと、加速するポイントがいつもあやふやで、どこで荷重移動したらいいのかわからんこと、かな。あと、加速が急すぎてバランスがとりにくいとか……。あ、それから、コーナー進入時のスピードが突っ込みすぎとって、体重移動が間に合わんことも……」
全部おれのせいかよ!
「なるほど、パヤオの加速手としてのスキルが低すぎるということだな」
エンツォ、核心突きすぎ。おれの心がめった刺しにされちゃうよ!
「そ、そうじゃなくて……」
慌てて手を振るアカネ。いまさらフォローされても、おれのHPはゼロよ!
「なんちゅうか、テンポがずれるみたいな。こう、ひとつになりきらん感じがして……」
「ちぐはぐになってる?」
「そう、ちぐはぐになってる!」
カオルがきくと、我が意を得たり、とばかりにアカネも同じ単語を繰り返し、カオルを指さした。
「パヤオと赤いソニックはまだ一心同体になれていない、というわけか」
エンツォが渋い顔をつくったまま腕組みをして考え込んだ。
一心同体……おれとアカネが一心同体に……うふふ、なんかちょっとエロい響き! 残り一週間で二人が一心同体になるために、より濃蜜な関係を……
「よし、残り一週間で二人が一心同体となるために、今すぐ特訓だ! オルディネ・ペル・ファヴォーレ!」
エンツォは高々と右手を掲げ、指をパチンと鳴らす。てか、なんでイタリア語なんだよ。
「シニョリーナ・マコト、このパヤオのためにアレを用意してやってくれないか、アツアツでな」
注文を取りに来た美人店長にエンツォがいう。店長の名前、マコトさんっていうんだ、覚えておこうっと。ところで、アレってなに?
「わかりました。アツアツでね」
陽だまりのような笑顔でマコトさんは注文を受けると、カウンターの奥へと引っ込む。エンツォって何気に交流範囲が広いな、などとぼんやり考えていると、
「パヤオ、赤いソニック。こっちに座れ」
と、一つ隣のテーブルに座るようにエンツォに指示される。何をするつもりだろうと、二人して隣のテーブルに移動して、向かい合わせに座ろうとすると、突然、
「馬鹿野郎!」
と、エンツォに平手打ちをくらわされた。もちろん、おれだけ。
「向かい合わせに座ってどうする!」
「いや、何するのか聞いてないでしょう!」
「まったく、お前ってやつはとことん無知だな。藤尾先生の秘伝書に記されたタンデムライドでの一心同体になるための極意といえば、二人羽織しかないだろう!」
は?
ににんばおり?
訳がわからず、おれとアカネが二人してきょとんとしていると、
「おまたせしました」
と、マコトさんが笑顔でテーブルに厚揚げと大根の煮物の入った大皿を持ってきた。それはそれは、うまそうな湯気が立ち上る、どこからどう見てもアツアツのやつ。
「ちょちょちょ、何ですか! これ!」
「ごめんなさいね、この時期は『おでん』やってないから、厚揚げと大根の煮物なの……」
そういう意味じゃありません!
「ちぐはぐなお前たちが大会で最高のライドをするために、身も心も一心同体になるための藤尾流奥義、それが二人羽織!」
それ、絶対違うと思う!
「はげー。これっちば、どうやるんですか!?」
しかし、隣でアカネはコウバン先輩から大きな半纏を受け取りながら、すっかり臨戦態勢に入ってる。なんでノリノリなんだよ! つうか、どこから出したその半纏!
「この半纏に袖を通して、アカネちゃんはパヤオくんの後ろから手を回して、あの煮物をパヤオ君に食べさせてあげるんだ」
「でも、そんな体勢じゃわん、前が見ららんことにならん?」
「その状態でもアカネちゃんとパヤオ君の気持ちが通じ合えば、このアツアツの煮物も上手に食べさせてあげることができるってわけだよ!」
ぐっと親指を突き立てるコウバン先輩。グッドラックじゃないですよ! 絶対楽しんでるでしょ!?
「はい! やってみます!!」
やるの!?
ふん、と鼻息荒く半纏を羽織ると、おれの背中にむぎゅっと密着するアカネ。
あ……
やばい、このむにょりとした柔らかな感触は……制服の下に隠れた秘密兵器、わがままフレッシュボディ!
まさか、こんな合法的にこの感触をお楽しみできる方法があったとは! ありがとうエンツォ、ありがとう二人羽織!!
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