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決戦の尾上山!
第38話 これが必殺のカーニー・ターン!
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「第三走者、タンデム。入舟高校、来道君、花咲里さん。鬼界高校、犬山君、猿渡君」
選手紹介の放送があり、おれとアカネはスターティングゲートにつく。スタートの練習はこれまでも何度も行ってきた。あのエンツォにだって認められるレベルになっている。加速とコーナリング。そしてあの悪魔の道の攻略。
やれることはすべてやった。あとは、それを練習通りに発揮するだけだ。
「シュン君。大丈夫だりょっと。あれだけ頑張ったんだから、必ず勝てるよ」
装着した無線から、アカネの声がした。荷台の上の彼女は振り向くと、ヘルメットのシールドをあげ、その愛くるしい大きな瞳を細めて笑った。いつも通りの彼女の笑顔に、緊張で張り裂けそうな胸が少しだけ落ち着いていく。
「ああ。絶対に負けない。エンツォや、みんなのためにも」
おれの返事に、アカネはサムアップしてシールドをおろし、正面を向いてすっと姿勢を低くした。
そのとき、隣から小さく鼻で笑う声がきこえた。
「はは。驚いたな。取っ手が二つもついてやがる。こいつは、とんだお子ちゃまライダーだな。そんなに落ちるのが怖いんならお家に帰ってねんねしてろよ」
視線を横にむけると、隣のゲート内で犬山は台車の上で正面を向いたまま腕を組んで仁王立ちしている。加速手《スラスター》の猿渡はその犬山の股の下でクラウチングスタートのように、低く構えて両手でドーリーのグリップを握ってこちらに粘着質な視線を向けている。どうやら挑発してきたのは猿渡のようだ。
「そっちこそ、お馬さんごっこが好きなら保育園にでも行ったらいいよ」
「なんだと……!!」
「よしな、もうスタートだ」
犬山が猿渡をなだめる。やつらを挑発しようと思ったけど、犬山のほうは冷静みたいだ。
「ふん、まあいい。勝負なんざ一瞬でつく。オレたちの無双破並《むそうはな》でな」
むそうはな!? 何、その飛んで回りそうな技名! ひょっとして、あの奇妙なコーナリングのやつか!?
「シュン君。わんきゃの技の名前、あれで良かったのかな!?」
大丈夫だから! なんでレース前にそんなこと気にしてるんだよ!
なんだよ、アカネのやつ、レース直前でもいつも通りかよ!
……そうか。いつも通りでいいんだよ、おれたちは。
いつも通り、やってきたことを出し切る。それでいい。それまでオレの中でガッチリと凝り固まっていた塊が、角砂糖のようにすっと溶けて崩れる。
「サンキュー、アカネ」
「ん? なに?」
「なんでもない。さあ、もう始まるぞ」
そういったところで、スタートシグナルに赤い光がともる。心の中でカウントをとる。取っ手を握る手にぎゅっと力が入る。
3、2、1……
「ライド・オンッ!!」
アカネと掛け声を合わせ、おれは全身全霊で台車を押し出す。台車重量がある分、鬼界の犬山たちにやや遅れをとったものの、スタートのタイミングは上々だった。犬山たちとほとんど差がないまま、スピードに乗って最初の右コーナーを通過して、まずは前半の四連続ヘアピンに突入する。
「最初の左コーナーはギリギリインを狙う。アカネがいった通り、外側から加速重視だ」
「はい!」
これはアカネと喧嘩しながら何度も走って見つけたおれたちのベストライン。この走りでコウバン先輩たちとの勝負にだって勝った。アカネのハンドリングにも迷いはない。しっかり練習通り、外から目一杯切り込んで、コーナーの最も内側を確実にとらえた。
そのまま、おれは加速ゾーンいっぱいまで左足に渾身の力を送り加速する。
軽量な犬山たちのドーリーは、猿渡の加速でおれたちの台車との距離をぐんと広げた。けれど、まだ慌てるほどじゃない。ちゃんと想定内だ。
続く第二コーナーは犬山たちのコーナリングを観察しなきゃならない。そのためにはなるべく真後ろにつく。アカネも心得ているようで、犬山たちのラインをきれいにトレースしていく。コーナーの右側は側溝になっているため寄りすぎないようにラインをとる。
おれは逢坂太郎がレース前におれたちにくれたあのアドバイスをもう一度思い出す。あの無双破並《むそうはな》とやらの、弱点が本当にあるのかどうか、もう一度よく確認しておかなきゃならない。
「ええか、ワシらの超絶射踏《グラン・シャトウ》はフィギュアのスピンのような縦軸回転に、強烈な加速のキック力があって初めて成り立つ技や。普通の台車やとそうはいかん。台車では事務椅子みたいに前後左右好きな方向に動けるわけやないし、座面があらへんから、縦軸回転そのものが不可能や。せやけど、あの鬼界高校の連中の平べったい台車は別や。戦車の超信地旋回みたいに、その場で方向転換できる。座面はあらへんけど、台車の旋回と加速をそれぞれ別の人間がやることで、それに置き換えられる。ただし、この超絶射踏《グラン・シャトウ》には唯一弱点がある。それは、ほんの一瞬だけ速度ゼロのポイントがあることや」
常に前にむいて走り続けている台車ならば、ゴールまで停止することはない。ただし、あいつらのように、まるで壁に反射するかのような極端なターンは、方向転換と同時に加速するそのほんの一瞬、速度ゼロになると逢坂はいうのだ。そして、それこそがその技の弱点だと。
「もしもや。そのゼロの瞬間にコースをブロックされてみい。そのままマックスパワーで加速したらどうなる? ぶつかってまうやろ? もしあの平べったい台車の上に立ってるやつがバランス崩したらどうなるか……まあ、お前らが一番ようわかっとるはずやろ?」
逢坂は自虐的な笑いを浮かべた。
あの合宿で逢坂自身がおれたちにされたこと、すなわち重心の高いキャスターは「転びやすい」という弱点を、おれたちに示したのだ。
もちろん、相手だって馬鹿ではないだろう。そんなことは百も承知なはずだ。だから、その対策をとってる可能性は大いにある。
だからこそ、おれたちは少ないチャンスで犬山たちの弱点が本当か、そして、それを狙い撃つにはどうすればいいのかを見極める必要があった。
「今の距離を保ちつつ、残り二つはあいつらを観察する。勝負は……」
「悪魔の道、だりょんや」
その通りだ。犬山たちを倒すにはそれしかない。
前半の第三コーナー。ノンブレーキでコーナーに突っ込むと、犬山は軽く膝を曲げ、股に挟んだ猿渡ごと全身で台車を大きくひねる。全輪が自在コマになっているドーリーは慣性で進行方向をまっすぐ保ちながら、犬山たちが乗っている平床だけが、進行方向の逆をむく。その瞬間、猿渡がジェット噴射のような強烈な蹴りを放って台車を一気にコーナー出口にむけて加速していった。無双破並《むそうはな》、何度見てもとんでもないターンだ。
しかし、確かに逢坂がいうように、反転から加速まで、ほんの一瞬のタメがある。それがどのタイミングでおこなわれるのか、見極められれば逢坂の助言通りに、奴らのターンを封印できるはず。
四連続ヘアピンは残すところあと一つ。次でやつらの動きを見切る!
離されないように食らいついていきながら、第四コーナーに飛び込む。犬山はふたたび軽く屈伸した姿勢から飛びあがるように膝のバネと腕の反動を使ってドーリーを回転させる。そして、視界の端にコーナー出口をとらえた瞬間、ロケット砲を射出するかのような超絶加速でコーナーを折り返した。
そうか。わかったぞ。無双破並《むそうはな》の秘密、そして弱点!
悪魔の道へと続く緩やかな右カーブを加速しながら、おれは無線でアカネに呼びかける。
「アカネ、聞こえる?」
「うん」
「あいつらののコーナリングの弱点がわかった。あのターンは射出する方向を一度しか変えられない。向きを変えたらその方向に飛び出すしかないんだ。そして、二度方向転換できないということは、進路であるコーナー出口が見えるまで加速できない! つまり、少なくともコーナーの半分までは加速はできないはず」
「じゃあ、やっぱり……」
「うん、おれたちのカーニー・ターンでインをついて、奴らの進路の真正面をふさぐ。恐らくチャンスは一度きり」
「それで、仕掛けるのはどこで?」
「仕掛けるのはやっぱり……」
悪魔の道の第三コーナー。ここしかない。
おれたちのカーニーターンが奴らの無双破並《むそうはな》と大きく違うのは、直角にしか方向が変えられない代わりに、短い距離で連続して二回ターンすることが可能なことだ。
つまり、おれたちは直角にコーナーに進入し、もう一度同じターンで直角に曲がってコーナーを抜けることが可能。
一方犬山たちが無双破並《むそうはな》を使うためには、少なくともコーナーの半分までは加速体勢に入れない。その間に、おれとアカネのカーニーターンで、あの第三コーナーの滑り台みたいなイン側のラインを、奴らが加速する瞬間を狙って攻める。
けど、おそらく同じ手が二回も通用する相手じゃない。
だから、この一発で決める。
「直角コーナーと次のヘアピンは、いつも通りに通過。その後の直線で、カーニバル・ライドにシフト。チャンスは一度!」
「わかった。わんの目をシュン君がサポートしてね」
「まかせろ。行くぞ!」
犬山たちにピタリとつけ、直角コーナーと、それに続く左のヘアピンカーブもクリアして、おれが加速体勢に入った瞬間、アカネは取っ手を軸にひらりと体を反転させ、平床《テーブル》前端の外側に立つ。カーニー・ターンでヨーモーメントを最大化するための特殊ライディング、『カーニバル・ライド』! 当然、進行方向に背をむけているアカネに見えているのはおれの姿だけ。
そんなアカネが確実にハンドリングできるのは、おれが見ている景色を、アカネはおれの挙動から感じ取っているからだ。これが、二人羽織の特訓で得たおれとアカネの合体奥義『ダブル・コーテッド・アイ』!
テール・トゥ・ノーズで突っ込む第三コーナー。思った通り、犬山たちはコーナーのもっとも深い位置を目指してラインをとった。
ここがお前たちのエンドラインにしてやる!
「くらえ! これがおれとアカネのカーニー・ドゥ・ラックだぁッ!!」
おれの叫びと同時にアカネは身体を後方にのけぞらせながら、一気に時計回りに振り出す。それに合わせて、おれも同じようにして目一杯左側に身体を倒し込む。すると、台車はくるりと90度方向転換し、さらに、おれの加速を受け、極端な前方荷重をとったアカネ側、つまり滑り台のようなコースのイン側に向かって進行方向を変える。
犬山は例のごとく、身体のひねりを使ったターンの動作を開始していた。
もう、奴らはそのコーナリングを止められない。あとは、おれのブレーキングのタイミングで奴らの真正面に出る!
猿渡がコーナー出口を視界にとらえて加速するのと、おれたちの台車がその進路に入ったのはほとんど同時だった。
ミサイルのような加速で二人がおれたちの台車に向かってくる。
これで衝突は免れない。
あとは、どちらが弾き飛ばされるかだ!
台車と台車がぶつかる、激しい衝撃音がおれの耳に届くと同時に、おれは二回目のターンをしようと、身体を大きく左に倒し込んだ。
しかし、台車はびくともしない。
まさか、アカネとのタイミングがずれたのか? おれが視線をあげたとき、そこにはあるはずのないものがあった。
おれたちの両袖台車の荷台に、衝突でドーリーから弾き飛ばされた犬山が乗っていたのだ。
選手紹介の放送があり、おれとアカネはスターティングゲートにつく。スタートの練習はこれまでも何度も行ってきた。あのエンツォにだって認められるレベルになっている。加速とコーナリング。そしてあの悪魔の道の攻略。
やれることはすべてやった。あとは、それを練習通りに発揮するだけだ。
「シュン君。大丈夫だりょっと。あれだけ頑張ったんだから、必ず勝てるよ」
装着した無線から、アカネの声がした。荷台の上の彼女は振り向くと、ヘルメットのシールドをあげ、その愛くるしい大きな瞳を細めて笑った。いつも通りの彼女の笑顔に、緊張で張り裂けそうな胸が少しだけ落ち着いていく。
「ああ。絶対に負けない。エンツォや、みんなのためにも」
おれの返事に、アカネはサムアップしてシールドをおろし、正面を向いてすっと姿勢を低くした。
そのとき、隣から小さく鼻で笑う声がきこえた。
「はは。驚いたな。取っ手が二つもついてやがる。こいつは、とんだお子ちゃまライダーだな。そんなに落ちるのが怖いんならお家に帰ってねんねしてろよ」
視線を横にむけると、隣のゲート内で犬山は台車の上で正面を向いたまま腕を組んで仁王立ちしている。加速手《スラスター》の猿渡はその犬山の股の下でクラウチングスタートのように、低く構えて両手でドーリーのグリップを握ってこちらに粘着質な視線を向けている。どうやら挑発してきたのは猿渡のようだ。
「そっちこそ、お馬さんごっこが好きなら保育園にでも行ったらいいよ」
「なんだと……!!」
「よしな、もうスタートだ」
犬山が猿渡をなだめる。やつらを挑発しようと思ったけど、犬山のほうは冷静みたいだ。
「ふん、まあいい。勝負なんざ一瞬でつく。オレたちの無双破並《むそうはな》でな」
むそうはな!? 何、その飛んで回りそうな技名! ひょっとして、あの奇妙なコーナリングのやつか!?
「シュン君。わんきゃの技の名前、あれで良かったのかな!?」
大丈夫だから! なんでレース前にそんなこと気にしてるんだよ!
なんだよ、アカネのやつ、レース直前でもいつも通りかよ!
……そうか。いつも通りでいいんだよ、おれたちは。
いつも通り、やってきたことを出し切る。それでいい。それまでオレの中でガッチリと凝り固まっていた塊が、角砂糖のようにすっと溶けて崩れる。
「サンキュー、アカネ」
「ん? なに?」
「なんでもない。さあ、もう始まるぞ」
そういったところで、スタートシグナルに赤い光がともる。心の中でカウントをとる。取っ手を握る手にぎゅっと力が入る。
3、2、1……
「ライド・オンッ!!」
アカネと掛け声を合わせ、おれは全身全霊で台車を押し出す。台車重量がある分、鬼界の犬山たちにやや遅れをとったものの、スタートのタイミングは上々だった。犬山たちとほとんど差がないまま、スピードに乗って最初の右コーナーを通過して、まずは前半の四連続ヘアピンに突入する。
「最初の左コーナーはギリギリインを狙う。アカネがいった通り、外側から加速重視だ」
「はい!」
これはアカネと喧嘩しながら何度も走って見つけたおれたちのベストライン。この走りでコウバン先輩たちとの勝負にだって勝った。アカネのハンドリングにも迷いはない。しっかり練習通り、外から目一杯切り込んで、コーナーの最も内側を確実にとらえた。
そのまま、おれは加速ゾーンいっぱいまで左足に渾身の力を送り加速する。
軽量な犬山たちのドーリーは、猿渡の加速でおれたちの台車との距離をぐんと広げた。けれど、まだ慌てるほどじゃない。ちゃんと想定内だ。
続く第二コーナーは犬山たちのコーナリングを観察しなきゃならない。そのためにはなるべく真後ろにつく。アカネも心得ているようで、犬山たちのラインをきれいにトレースしていく。コーナーの右側は側溝になっているため寄りすぎないようにラインをとる。
おれは逢坂太郎がレース前におれたちにくれたあのアドバイスをもう一度思い出す。あの無双破並《むそうはな》とやらの、弱点が本当にあるのかどうか、もう一度よく確認しておかなきゃならない。
「ええか、ワシらの超絶射踏《グラン・シャトウ》はフィギュアのスピンのような縦軸回転に、強烈な加速のキック力があって初めて成り立つ技や。普通の台車やとそうはいかん。台車では事務椅子みたいに前後左右好きな方向に動けるわけやないし、座面があらへんから、縦軸回転そのものが不可能や。せやけど、あの鬼界高校の連中の平べったい台車は別や。戦車の超信地旋回みたいに、その場で方向転換できる。座面はあらへんけど、台車の旋回と加速をそれぞれ別の人間がやることで、それに置き換えられる。ただし、この超絶射踏《グラン・シャトウ》には唯一弱点がある。それは、ほんの一瞬だけ速度ゼロのポイントがあることや」
常に前にむいて走り続けている台車ならば、ゴールまで停止することはない。ただし、あいつらのように、まるで壁に反射するかのような極端なターンは、方向転換と同時に加速するそのほんの一瞬、速度ゼロになると逢坂はいうのだ。そして、それこそがその技の弱点だと。
「もしもや。そのゼロの瞬間にコースをブロックされてみい。そのままマックスパワーで加速したらどうなる? ぶつかってまうやろ? もしあの平べったい台車の上に立ってるやつがバランス崩したらどうなるか……まあ、お前らが一番ようわかっとるはずやろ?」
逢坂は自虐的な笑いを浮かべた。
あの合宿で逢坂自身がおれたちにされたこと、すなわち重心の高いキャスターは「転びやすい」という弱点を、おれたちに示したのだ。
もちろん、相手だって馬鹿ではないだろう。そんなことは百も承知なはずだ。だから、その対策をとってる可能性は大いにある。
だからこそ、おれたちは少ないチャンスで犬山たちの弱点が本当か、そして、それを狙い撃つにはどうすればいいのかを見極める必要があった。
「今の距離を保ちつつ、残り二つはあいつらを観察する。勝負は……」
「悪魔の道、だりょんや」
その通りだ。犬山たちを倒すにはそれしかない。
前半の第三コーナー。ノンブレーキでコーナーに突っ込むと、犬山は軽く膝を曲げ、股に挟んだ猿渡ごと全身で台車を大きくひねる。全輪が自在コマになっているドーリーは慣性で進行方向をまっすぐ保ちながら、犬山たちが乗っている平床だけが、進行方向の逆をむく。その瞬間、猿渡がジェット噴射のような強烈な蹴りを放って台車を一気にコーナー出口にむけて加速していった。無双破並《むそうはな》、何度見てもとんでもないターンだ。
しかし、確かに逢坂がいうように、反転から加速まで、ほんの一瞬のタメがある。それがどのタイミングでおこなわれるのか、見極められれば逢坂の助言通りに、奴らのターンを封印できるはず。
四連続ヘアピンは残すところあと一つ。次でやつらの動きを見切る!
離されないように食らいついていきながら、第四コーナーに飛び込む。犬山はふたたび軽く屈伸した姿勢から飛びあがるように膝のバネと腕の反動を使ってドーリーを回転させる。そして、視界の端にコーナー出口をとらえた瞬間、ロケット砲を射出するかのような超絶加速でコーナーを折り返した。
そうか。わかったぞ。無双破並《むそうはな》の秘密、そして弱点!
悪魔の道へと続く緩やかな右カーブを加速しながら、おれは無線でアカネに呼びかける。
「アカネ、聞こえる?」
「うん」
「あいつらののコーナリングの弱点がわかった。あのターンは射出する方向を一度しか変えられない。向きを変えたらその方向に飛び出すしかないんだ。そして、二度方向転換できないということは、進路であるコーナー出口が見えるまで加速できない! つまり、少なくともコーナーの半分までは加速はできないはず」
「じゃあ、やっぱり……」
「うん、おれたちのカーニー・ターンでインをついて、奴らの進路の真正面をふさぐ。恐らくチャンスは一度きり」
「それで、仕掛けるのはどこで?」
「仕掛けるのはやっぱり……」
悪魔の道の第三コーナー。ここしかない。
おれたちのカーニーターンが奴らの無双破並《むそうはな》と大きく違うのは、直角にしか方向が変えられない代わりに、短い距離で連続して二回ターンすることが可能なことだ。
つまり、おれたちは直角にコーナーに進入し、もう一度同じターンで直角に曲がってコーナーを抜けることが可能。
一方犬山たちが無双破並《むそうはな》を使うためには、少なくともコーナーの半分までは加速体勢に入れない。その間に、おれとアカネのカーニーターンで、あの第三コーナーの滑り台みたいなイン側のラインを、奴らが加速する瞬間を狙って攻める。
けど、おそらく同じ手が二回も通用する相手じゃない。
だから、この一発で決める。
「直角コーナーと次のヘアピンは、いつも通りに通過。その後の直線で、カーニバル・ライドにシフト。チャンスは一度!」
「わかった。わんの目をシュン君がサポートしてね」
「まかせろ。行くぞ!」
犬山たちにピタリとつけ、直角コーナーと、それに続く左のヘアピンカーブもクリアして、おれが加速体勢に入った瞬間、アカネは取っ手を軸にひらりと体を反転させ、平床《テーブル》前端の外側に立つ。カーニー・ターンでヨーモーメントを最大化するための特殊ライディング、『カーニバル・ライド』! 当然、進行方向に背をむけているアカネに見えているのはおれの姿だけ。
そんなアカネが確実にハンドリングできるのは、おれが見ている景色を、アカネはおれの挙動から感じ取っているからだ。これが、二人羽織の特訓で得たおれとアカネの合体奥義『ダブル・コーテッド・アイ』!
テール・トゥ・ノーズで突っ込む第三コーナー。思った通り、犬山たちはコーナーのもっとも深い位置を目指してラインをとった。
ここがお前たちのエンドラインにしてやる!
「くらえ! これがおれとアカネのカーニー・ドゥ・ラックだぁッ!!」
おれの叫びと同時にアカネは身体を後方にのけぞらせながら、一気に時計回りに振り出す。それに合わせて、おれも同じようにして目一杯左側に身体を倒し込む。すると、台車はくるりと90度方向転換し、さらに、おれの加速を受け、極端な前方荷重をとったアカネ側、つまり滑り台のようなコースのイン側に向かって進行方向を変える。
犬山は例のごとく、身体のひねりを使ったターンの動作を開始していた。
もう、奴らはそのコーナリングを止められない。あとは、おれのブレーキングのタイミングで奴らの真正面に出る!
猿渡がコーナー出口を視界にとらえて加速するのと、おれたちの台車がその進路に入ったのはほとんど同時だった。
ミサイルのような加速で二人がおれたちの台車に向かってくる。
これで衝突は免れない。
あとは、どちらが弾き飛ばされるかだ!
台車と台車がぶつかる、激しい衝撃音がおれの耳に届くと同時に、おれは二回目のターンをしようと、身体を大きく左に倒し込んだ。
しかし、台車はびくともしない。
まさか、アカネとのタイミングがずれたのか? おれが視線をあげたとき、そこにはあるはずのないものがあった。
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