緑の城塞、迫る鉄の波濤 ~大森林国バルグの英雄譚~

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第一話:森の守護者たち

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ドォォォォォン!!  

早朝の霧が立ち込める王家専用の鍛錬場に、地響きのような轟音が轟いた 。


「ふんっ!!」 

気合一閃。

身長二メートルを超える巨漢が、自らの背丈ほどもある巨大な岩塊を軽々と放り投げた 。  

岩は放物線を描いて落下してくるが、巨漢――重戦士ガルドは逃げない。

愛用の鉄盾を構え、正面からその衝撃を受け止めた 。  

ガィィン!  

鼓膜を破るような衝撃音が響く。

だが、ガルドの丸太のような足は、地面にめり込みはしても、一歩も下がることはなかった 。


「……うむ。今日の筋肉の張りは悪くない」

ガルドは満足げに笑い、岩のような上腕二頭筋を撫でた 。 

「どうだリン。俺の『骨格特化』の天賦は。岩肌よりも硬い自信があるぞ」 




その横で、風を切る音と共に涼やかな声が返ってきた。

 「硬いだけでは、ただの的ですよ」  

槍使いのリン 。  

銀色の髪をポニーテールに束ねた彼女は、この国の民にしては小柄だが、
その体躯はしなやかな鋼のように引き締まっている 。  

彼女が操る長槍は、まるで生き物のように空間を支配していた 。  

ヒュン、ヒュン、ヒュパパパッ!  

舞い落ちる木の葉を、地面に落ちる前にすべて突き刺す 。

瞬きの間に十回の突きを繰り出した彼女は、音もなく残心を行い、乱れぬ呼吸のまま槍を収めた 。


「……まだ、甘いですね」 

リンは自身の掌を見つめ、独り言のように呟く 。

 「風の抵抗を読みきれていません。私たちの『神経速度』はもっと速くなれるはず」 



彼ら「ヴァジュラ」は、生まれながらにして規格外の肉体を持つ種族だ 。  

男は見上げるような巨体、女であっても強靭な骨格と筋肉を持つ 。  
さらに個体ごとに特化した身体能力――天賦――を持ち、
ある者は岩を砕いて鉄を打ち、ある者は巨木を加工して暮らしている 。



「それにしても、腹が減ったな」  

ガルドが豪快に腹を鳴らした。 

「朝飯前だというのに、もう猪一頭分はエネルギーを使った気分だ」

 「私たちの燃費が悪いのは仕方ありません。その分、森が恵みを与えてくれますから」 


リンが視線を向けた先には、太古の巨木が空を覆う深緑の森が広がっている 。  

この国、大森林国バルグの大地は酸性が強く、南の国々のような農耕には適さない 。
だが、彼らにとってそれは欠乏を意味しなかった 。  
森には果実が溢れ、川には手づかみできるほどの魚が泳いでいる 。  
狩猟と採集。身の丈に合った暮らし 。  
そこには飢えもなければ、貧富の差による妬みもない 。




「五〇年前、今の国王陛下が部族をまとめ上げるまでは、縄張り争いで小競り合いばかりしていたのが嘘のようだな」 

ガルドが感慨深げに言うと、高台からよく通る声が降り注いだ 。


「過去を忘れぬことは良いことだ。だが、平和ボケは感心しないな」

 「殿下!」   

リンとガルドが即座に姿勢を正す。  

そこに立っていたのは、第一王子ジークだった 。  
統一王の血を引く彼は、北の民特有の武力に加え、突然変異とも言える高度な知性を持っている 。


「お早いお着きで」

「ああ。……どうも、南の風が生臭くてな」

 ジークが鍛錬場に降り立つと、
瞑想しながら、岩を空中に浮遊させていた術士のセラも静かに立ち上がった 。



「南の『アウリア』ですね」   

セラが嫌悪感を隠さずに言う。

「彼らは森を焼き、地面を平らにして、自分たちの都合の良い作物だけを植えようとする。足るを知らない貪欲な連中です」 


ジークは頷き、南の空を鋭く見据えた 。 

「彼らは世界すべてを、自分たちの定規で測り、管理しようとする 。
……だが、ここは我々の庭だ。一本の木、一匹の獣たりとも、彼らの欲望には渡さない」 

ジークは腰の剣に手を置いた 。 

「我々四人で、森の平穏を乱す者たちを追い払う。……準備はいいか?」

 「御意」 


最強の遺伝子を持つ若き戦士たちは、迫りくる文明の足音に備え、牙を研ぎ澄ませていた 。



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