僕は魔法が使えない

くさの

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1、話がズレる、魔術

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 やっぱり彼は、どこかズレているのだ。
 ふとした瞬間、そう思うことがある。
 まあ、自分から魔術師だのなんだのいってる人に、ズレているも普通じゃないという言葉も、たいした意味を持たないのだろうけれど。

 これは、この前よりもう少し前の話。私が思いに気づく前で、けど出会ったころよりは会話もマシになってきた頃だったかな。


  *


 彼と親しくなり、周囲の目が前みたいに魔術は大丈夫なのかという心配よりも、二人の関係はもしや、と怪しむようになったころ。
 回りに怪しまれる事なんて……あながち外れてはいないが、二人は前より親しくなっていた。
 私が彼について考えることが多くなってしまったこと。仕草のひとつひとつにドキンドキンと寿命を減らすような真似をしながら、それをまだ彼に誤魔化せている自信があった頃。
 けれどある日を境にして全く隠せてなど居なかったことを知るが、それはまた別の話で。

「き、昨日のドラマみた?」
「みましたけど?」

 手にしていた黒表紙の本をコトリと小さく音をたてて机に置き丁寧に朝の挨拶を言ってから彼は答えた。
 その本について聞いても良さそうだけど、あまり白熱されるとついていけなくて淋しいので今日は避けておく。
 何かのきっかけがなければやはり会話しにくいのは相変わらずで。

「あれは演出濃すぎ」
「僕もそう思います、あのシーンは……」

 彼は本当に見ているのかたまに怪しく思うけれど、わざわざ話を合わせるためだけにみているとは思えないので、こうやって会話出来るだけどこか他の人より得した気持ちになる。

 たまに、勘違いした人が何かの妖術やら魔法で操られているとか目を覚ませだとか言うけれど、そんな事はないと思う。彼はマジで語るから出来そうだけど別に人を操ったり呪ったりはできない。勝手にみんなが彼にイメージを貼付けただけだと、会話するようになって解った。
 曰く「僕のは妖術でも魔法でもありません、魔術です」なんて真顔で反論するものだからそれがおかしくて仕方ないけれど。
 こんな面白い人を遠巻きに怪しんで見てる人の方がよっぽど怪しいし、何より彼は何もしていない。口でこそ大きく言うときもあるが総てが嘘ではないと思う。魔法だか魔術だって、使えるなら使えばいいじゃないか。頭がいい人が要領よく手順よく人や物を使い物事をこなすのと同じだ。
 そういえば以前「そんなもの本当に使えるの?」と聞いたことがある。その時は、「もちろん」と嬉しそうにいわれたけれど、どうして魔法じゃないのかは聞いていないなあ、なんて事を思い出したついでに聞いてみる事にした。

「話は変わるけどさ」
「はい?」
「どうして魔法じゃないの? 辞書で引いたら似たような事が書いてあったよ」
「うーん……、理由ですか? その方が面白いからです」

 なんて呆気ないんだ。そのことに私は、座っていた椅子からずり落ちそうになった。

「え、駄目ですか? 冗談ですけど」
「……いや、何かもっとこだわりとか理由があるのかと思ってたから……って、冗談なんだ?」
「面白いから、というより魔術しか使えないのです」

 内容にではなくて、もっと芯のある理由があるのだと思っていたものだからその呆気なさに笑ってしまった。
 馬鹿にした訳じゃない、と理由を伝えると「解ってますよ」と彼は微笑んだ。

「僕の先生は、魔法も魔術も使い方を間違えたら全部同じだ、って言ってましたけどね」
「えっ、先生いるの」
「居ますよ? ……変ですか?」
「いや、そんなことは」

 やっぱり彼は掴めない。
 たまに話をぽんぽんと変えてしまう、私に言えた義理ではないけれど。

 どんな人が先生なのだろうかと考え始めている辺り、私も彼の魔術にかかっているのだろうな、なんて。
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