僕は魔法が使えない

くさの

文字の大きさ
3 / 5

3、懐かしむ、魔術

しおりを挟む
 先生は、僕の勉強の先生でもあり、魔術の先生でもある。

 声は実際の年齢よりももう少し歳をとったように穏やかでゆったりとしていた。容姿はいつまでも二十……という訳でもなく普通に歳を重ねていたが、三十~四十代の美しさが五十を越えても継続しているような人だった。
 色素の薄く長い髪が、いつのときも後ろできちんとまとめられていた。

「先生」
「はい、なんでしょう?」
「この前教えていただいた魔法は」

 今でこそ魔術だと言い張っているが、あの頃は子どもだったから、そう深く考えていなかった。
 魔法と魔術なんて、魔法のほうがかわいらしいしキラキラしている気がして憧れもあった。

 すると彼女はそっと、僕の唇に人差し指を乗せてウインクした。
 ドキン、と大きく跳ねた心臓が、勢いで口から飛び出してしまうのではないかと思った。

「私は貴方に魔法は教えていませんよ」

 叱るでもないただただ謎掛けをするようなその口調は微笑みと共に僕の視界いっぱいに広がった。
 その言葉で僕が気づいた事を知ると、そっと人差し指を離し優しい口調で続けた。

「魔法は、確かに魔術と同じモノです。けれどその魔法に対する対価を渡すことは少ない。そもそも素質ですから、出来る人と出来ない人がいます」
「でも、魔術はその人が魔法の力を使えなくても、それに見合ったものを渡せば使うことができる、ですよね」

「はい、そうです」

 先生はそういうと、すっかりお茶が冷めてしまいましたね、と立ち上がりキッチンに向かった。
 僕は、先生のいれるハーブを使ったお茶が好きだった。

 キッチンを、椅子に座ったまま少し伸びをするようにして覗く。ふわり、と小さな光が先生の手元をチカチカと照らしていた。
 それは、魔法なのか魔術なのか解らなかったけれど、とても優しい光だった。

 甘い香りを漂わせながら戻ってきた先生の手にある透明のカップの中で、花びらのような桃色と薄い緑色をしたモノがふわふわと踊っていた。
 どうぞ、と置かれたカップをまじまじとみつめ、それからそっと両手で包むようにして持ち上げてふうっ、と息を吹き掛けた。
 軽く波立つ水面に合わせて中の葉や花びらが揺れ色が様々に変化していくようだった。

 カップに口をつけ含むと、優しさや暖かさが溢れるような、胸がいっぱいになる感覚で満ちる。

「ふはぁ」
「ふふふ、いつも美味しそうに飲んでくれてありがとう」
「先生、これは魔法ですか? 魔術ですか?」

 いっぱい、いっぱいに、嬉しいやしあわせ、ありがとうの気持ちが溢れて来る。そう伝えたら、先生も自分用にと持ってきていたカップに口をつけた。

「そう感じてくれるのね、ありがとう。貴方がとても優しい子でよかったわ」
「??」

 僕は頭の中にハテナが沢山浮かんだけれど、それをとりあえず横に置いて、思い切って聞いてみる事にした。

「先生は」

 一瞬息を飲むけれど、喉にかかった言葉はこのハーブティーのおかげなのかするりと出てきた。

「先生は、魔術じゃなくて、魔法が使えるんですよね」

 先生は僕に、魔術は覚えたり考えたりさえすれば使えると言っていた。逆に魔法は、生まれた時から持っているものだって。

「……いつの間にか習得していたんですよ。私の周りにはたくさん魔法を使える人が居たから、きっとその人達に分けてもらったのでしょうね。なぜだかは今もずっと解らないの」
「先生」
「ごめんなさいね、こんな半端者に教えてもらっていたなんて、嫌でしょう」

 先生は眉をカタカナの「ハ」の形にして困ったように笑った。
 先生は僕に、「貴方は魔法使いにはなれないのよ」と言ったことを言っているのかもしれない。

「ううん、先生でよかったです。先生は僕に嘘を付いたことがない……、それだけで充分です」

 あらあら、と目を丸くして先生は口元に手を当てていつもより少し高めに声をだす。
 その声が心地好くて小さく笑ったら、先生もつられて笑った。

 僕の先生は、魔法と魔術、両方使える。
 それはきっと、先生が、優しくておおらかだからだ。

 僕が中学校にあがる頃に、どこかへ引っ越してしまった先生。
 先生は今も、どこかで誰かに魔術を教えているのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...