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3、懐かしむ、魔術
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先生は、僕の勉強の先生でもあり、魔術の先生でもある。
声は実際の年齢よりももう少し歳をとったように穏やかでゆったりとしていた。容姿はいつまでも二十……という訳でもなく普通に歳を重ねていたが、三十~四十代の美しさが五十を越えても継続しているような人だった。
色素の薄く長い髪が、いつのときも後ろできちんとまとめられていた。
「先生」
「はい、なんでしょう?」
「この前教えていただいた魔法は」
今でこそ魔術だと言い張っているが、あの頃は子どもだったから、そう深く考えていなかった。
魔法と魔術なんて、魔法のほうがかわいらしいしキラキラしている気がして憧れもあった。
すると彼女はそっと、僕の唇に人差し指を乗せてウインクした。
ドキン、と大きく跳ねた心臓が、勢いで口から飛び出してしまうのではないかと思った。
「私は貴方に魔法は教えていませんよ」
叱るでもないただただ謎掛けをするようなその口調は微笑みと共に僕の視界いっぱいに広がった。
その言葉で僕が気づいた事を知ると、そっと人差し指を離し優しい口調で続けた。
「魔法は、確かに魔術と同じモノです。けれどその魔法に対する対価を渡すことは少ない。そもそも素質ですから、出来る人と出来ない人がいます」
「でも、魔術はその人が魔法の力を使えなくても、それに見合ったものを渡せば使うことができる、ですよね」
「はい、そうです」
先生はそういうと、すっかりお茶が冷めてしまいましたね、と立ち上がりキッチンに向かった。
僕は、先生のいれるハーブを使ったお茶が好きだった。
キッチンを、椅子に座ったまま少し伸びをするようにして覗く。ふわり、と小さな光が先生の手元をチカチカと照らしていた。
それは、魔法なのか魔術なのか解らなかったけれど、とても優しい光だった。
甘い香りを漂わせながら戻ってきた先生の手にある透明のカップの中で、花びらのような桃色と薄い緑色をしたモノがふわふわと踊っていた。
どうぞ、と置かれたカップをまじまじとみつめ、それからそっと両手で包むようにして持ち上げてふうっ、と息を吹き掛けた。
軽く波立つ水面に合わせて中の葉や花びらが揺れ色が様々に変化していくようだった。
カップに口をつけ含むと、優しさや暖かさが溢れるような、胸がいっぱいになる感覚で満ちる。
「ふはぁ」
「ふふふ、いつも美味しそうに飲んでくれてありがとう」
「先生、これは魔法ですか? 魔術ですか?」
いっぱい、いっぱいに、嬉しいやしあわせ、ありがとうの気持ちが溢れて来る。そう伝えたら、先生も自分用にと持ってきていたカップに口をつけた。
「そう感じてくれるのね、ありがとう。貴方がとても優しい子でよかったわ」
「??」
僕は頭の中にハテナが沢山浮かんだけれど、それをとりあえず横に置いて、思い切って聞いてみる事にした。
「先生は」
一瞬息を飲むけれど、喉にかかった言葉はこのハーブティーのおかげなのかするりと出てきた。
「先生は、魔術じゃなくて、魔法が使えるんですよね」
先生は僕に、魔術は覚えたり考えたりさえすれば使えると言っていた。逆に魔法は、生まれた時から持っているものだって。
「……いつの間にか習得していたんですよ。私の周りにはたくさん魔法を使える人が居たから、きっとその人達に分けてもらったのでしょうね。なぜだかは今もずっと解らないの」
「先生」
「ごめんなさいね、こんな半端者に教えてもらっていたなんて、嫌でしょう」
先生は眉をカタカナの「ハ」の形にして困ったように笑った。
先生は僕に、「貴方は魔法使いにはなれないのよ」と言ったことを言っているのかもしれない。
「ううん、先生でよかったです。先生は僕に嘘を付いたことがない……、それだけで充分です」
あらあら、と目を丸くして先生は口元に手を当てていつもより少し高めに声をだす。
その声が心地好くて小さく笑ったら、先生もつられて笑った。
僕の先生は、魔法と魔術、両方使える。
それはきっと、先生が、優しくておおらかだからだ。
僕が中学校にあがる頃に、どこかへ引っ越してしまった先生。
先生は今も、どこかで誰かに魔術を教えているのかもしれない。
声は実際の年齢よりももう少し歳をとったように穏やかでゆったりとしていた。容姿はいつまでも二十……という訳でもなく普通に歳を重ねていたが、三十~四十代の美しさが五十を越えても継続しているような人だった。
色素の薄く長い髪が、いつのときも後ろできちんとまとめられていた。
「先生」
「はい、なんでしょう?」
「この前教えていただいた魔法は」
今でこそ魔術だと言い張っているが、あの頃は子どもだったから、そう深く考えていなかった。
魔法と魔術なんて、魔法のほうがかわいらしいしキラキラしている気がして憧れもあった。
すると彼女はそっと、僕の唇に人差し指を乗せてウインクした。
ドキン、と大きく跳ねた心臓が、勢いで口から飛び出してしまうのではないかと思った。
「私は貴方に魔法は教えていませんよ」
叱るでもないただただ謎掛けをするようなその口調は微笑みと共に僕の視界いっぱいに広がった。
その言葉で僕が気づいた事を知ると、そっと人差し指を離し優しい口調で続けた。
「魔法は、確かに魔術と同じモノです。けれどその魔法に対する対価を渡すことは少ない。そもそも素質ですから、出来る人と出来ない人がいます」
「でも、魔術はその人が魔法の力を使えなくても、それに見合ったものを渡せば使うことができる、ですよね」
「はい、そうです」
先生はそういうと、すっかりお茶が冷めてしまいましたね、と立ち上がりキッチンに向かった。
僕は、先生のいれるハーブを使ったお茶が好きだった。
キッチンを、椅子に座ったまま少し伸びをするようにして覗く。ふわり、と小さな光が先生の手元をチカチカと照らしていた。
それは、魔法なのか魔術なのか解らなかったけれど、とても優しい光だった。
甘い香りを漂わせながら戻ってきた先生の手にある透明のカップの中で、花びらのような桃色と薄い緑色をしたモノがふわふわと踊っていた。
どうぞ、と置かれたカップをまじまじとみつめ、それからそっと両手で包むようにして持ち上げてふうっ、と息を吹き掛けた。
軽く波立つ水面に合わせて中の葉や花びらが揺れ色が様々に変化していくようだった。
カップに口をつけ含むと、優しさや暖かさが溢れるような、胸がいっぱいになる感覚で満ちる。
「ふはぁ」
「ふふふ、いつも美味しそうに飲んでくれてありがとう」
「先生、これは魔法ですか? 魔術ですか?」
いっぱい、いっぱいに、嬉しいやしあわせ、ありがとうの気持ちが溢れて来る。そう伝えたら、先生も自分用にと持ってきていたカップに口をつけた。
「そう感じてくれるのね、ありがとう。貴方がとても優しい子でよかったわ」
「??」
僕は頭の中にハテナが沢山浮かんだけれど、それをとりあえず横に置いて、思い切って聞いてみる事にした。
「先生は」
一瞬息を飲むけれど、喉にかかった言葉はこのハーブティーのおかげなのかするりと出てきた。
「先生は、魔術じゃなくて、魔法が使えるんですよね」
先生は僕に、魔術は覚えたり考えたりさえすれば使えると言っていた。逆に魔法は、生まれた時から持っているものだって。
「……いつの間にか習得していたんですよ。私の周りにはたくさん魔法を使える人が居たから、きっとその人達に分けてもらったのでしょうね。なぜだかは今もずっと解らないの」
「先生」
「ごめんなさいね、こんな半端者に教えてもらっていたなんて、嫌でしょう」
先生は眉をカタカナの「ハ」の形にして困ったように笑った。
先生は僕に、「貴方は魔法使いにはなれないのよ」と言ったことを言っているのかもしれない。
「ううん、先生でよかったです。先生は僕に嘘を付いたことがない……、それだけで充分です」
あらあら、と目を丸くして先生は口元に手を当てていつもより少し高めに声をだす。
その声が心地好くて小さく笑ったら、先生もつられて笑った。
僕の先生は、魔法と魔術、両方使える。
それはきっと、先生が、優しくておおらかだからだ。
僕が中学校にあがる頃に、どこかへ引っ越してしまった先生。
先生は今も、どこかで誰かに魔術を教えているのかもしれない。
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