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Act.02 刷込、娯楽、ワスレナグサ
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傘と毬栗と時々おかっぱの話し合いを、当事者でありながら他人事のように、まるでバイト先の居酒屋で人の会話を耳にしながらも内容を深く探らないように気を付けているような気持で待つ。
バイトの時もなんだかんだと客の会話は聞こえているが、知らないふりだ。プライバシーもある。
今はプライバシーもなく、寧ろ私も関わり合いがあるわけで聞き流すわけにはいかないが、聞こえてくる言葉の端々から推察するにどうやら毬栗は私と居たいらしいということが分かった。
どうして一目惚れされているのかはまったく理解ができない。
確かに毬栗の見た目は可愛い。けれど、この子ほんとうに害がないのだろうか。話は変わるがさっきまでいつの間にか肩に居たみたいだったけど、トゲトゲは気にならなかったな。
で、本性はどのような……と、言葉を理解できるわけではないのに耳を立てながら藍の交渉の様子を見守る。
たった数日前に気味の悪い妖怪に襲われたのだ、多少距離を置きたがっても許してほしい。たった数日でこの生活に馴染む胡散臭い傘とおかっぱの人もどうかと思うけれど。
「おまえさん、人間は精々五・六十年だゼ?」
「ぴっぴぴ~」
「藍、呪いが解けなければ数年ですよ、生活習慣と人からの恨みの量にもよりますけど」
瑞枝はやれやれと言いたげに会話に入る。絶対私の寿命の話だ。と思ったけれど、その話、毬栗に何か関係があるのだろうか。
口を開きそうになって慌てて瑞枝にお伺いの眼差しを送る。
中途半端に口を挟むと瑞枝のオーラがなあ……と考えている間にも、ゆるゆると「いいですか、下手な事言うんじゃありませんよ」という視線がじくじくと私を射る。
目は合ってないのに。ずっとニコニコしているのに。それが瑞枝さんの開眼状態なのかな? たぶんそうだよね。私は何にでもなく納得する。
「び!」
突然濁るような低い鳴き声に変わるから何事かと思えば、毬栗は怒っているらしい。
「俺たち? 俺たちは一時的に一緒に居るだけだ。約束が果たされたらまた元通りだ」
「び!」
いよいよ、ぴの半濁点もただの濁点になっている。この間の事もあって私は何事も穏便に済ませたくなっている。それでなくとも半分残った呪いで寿命が縮まっているらしい、という情報を先ほど耳にしたばかりだというのに。
ため息をつく。
春から花の大学生。アルバイトに一人暮らし。地元から離れた場所。新天地。私のことを知らない人たちの中、私は昔の私を否定して、みないフリをして、生活していくつもりだった。
憂鬱な通学路。視界の端に映った浮いた色。視ないフリ、をできなかったのは単純に意志が弱いせいだろう。……いや、森の中に見慣れぬ青色なんてあったら誰だって振り向いてしまうでしょう。
私の目は、少し特殊だ。特殊なせいで、瑞枝が視えて、藍が視える。本当は大学に入って一人暮らしを始めたら、高校の時以上にそういうものを知らないフリで通すつもりだった。
なにせそのせいで不要ないざこざだったりやっかみだったり、避けられることが多かったから。
地元に友達がいない、というわけではないけれど、噂話は尾ひれがつくものだし、そのせいでかえって普通の人が視ないものは私の周囲に、確かに居た。
うーん。まあ、瑞枝たちと関わるって決めたんだし、上手にいかないかもしれないけれど割り切っていくしかないだろうな。
「あの!」
私が声を上げると三つの視線が集まった。藍が呆れたようにおいおいと視線を送っているのに対し、瑞枝はもう……それはもう、静かに怒りを燃やしていて、最後のキラキラでつぶらな瞳は期待の眼差しに満ちていた。
バイトの時もなんだかんだと客の会話は聞こえているが、知らないふりだ。プライバシーもある。
今はプライバシーもなく、寧ろ私も関わり合いがあるわけで聞き流すわけにはいかないが、聞こえてくる言葉の端々から推察するにどうやら毬栗は私と居たいらしいということが分かった。
どうして一目惚れされているのかはまったく理解ができない。
確かに毬栗の見た目は可愛い。けれど、この子ほんとうに害がないのだろうか。話は変わるがさっきまでいつの間にか肩に居たみたいだったけど、トゲトゲは気にならなかったな。
で、本性はどのような……と、言葉を理解できるわけではないのに耳を立てながら藍の交渉の様子を見守る。
たった数日前に気味の悪い妖怪に襲われたのだ、多少距離を置きたがっても許してほしい。たった数日でこの生活に馴染む胡散臭い傘とおかっぱの人もどうかと思うけれど。
「おまえさん、人間は精々五・六十年だゼ?」
「ぴっぴぴ~」
「藍、呪いが解けなければ数年ですよ、生活習慣と人からの恨みの量にもよりますけど」
瑞枝はやれやれと言いたげに会話に入る。絶対私の寿命の話だ。と思ったけれど、その話、毬栗に何か関係があるのだろうか。
口を開きそうになって慌てて瑞枝にお伺いの眼差しを送る。
中途半端に口を挟むと瑞枝のオーラがなあ……と考えている間にも、ゆるゆると「いいですか、下手な事言うんじゃありませんよ」という視線がじくじくと私を射る。
目は合ってないのに。ずっとニコニコしているのに。それが瑞枝さんの開眼状態なのかな? たぶんそうだよね。私は何にでもなく納得する。
「び!」
突然濁るような低い鳴き声に変わるから何事かと思えば、毬栗は怒っているらしい。
「俺たち? 俺たちは一時的に一緒に居るだけだ。約束が果たされたらまた元通りだ」
「び!」
いよいよ、ぴの半濁点もただの濁点になっている。この間の事もあって私は何事も穏便に済ませたくなっている。それでなくとも半分残った呪いで寿命が縮まっているらしい、という情報を先ほど耳にしたばかりだというのに。
ため息をつく。
春から花の大学生。アルバイトに一人暮らし。地元から離れた場所。新天地。私のことを知らない人たちの中、私は昔の私を否定して、みないフリをして、生活していくつもりだった。
憂鬱な通学路。視界の端に映った浮いた色。視ないフリ、をできなかったのは単純に意志が弱いせいだろう。……いや、森の中に見慣れぬ青色なんてあったら誰だって振り向いてしまうでしょう。
私の目は、少し特殊だ。特殊なせいで、瑞枝が視えて、藍が視える。本当は大学に入って一人暮らしを始めたら、高校の時以上にそういうものを知らないフリで通すつもりだった。
なにせそのせいで不要ないざこざだったりやっかみだったり、避けられることが多かったから。
地元に友達がいない、というわけではないけれど、噂話は尾ひれがつくものだし、そのせいでかえって普通の人が視ないものは私の周囲に、確かに居た。
うーん。まあ、瑞枝たちと関わるって決めたんだし、上手にいかないかもしれないけれど割り切っていくしかないだろうな。
「あの!」
私が声を上げると三つの視線が集まった。藍が呆れたようにおいおいと視線を送っているのに対し、瑞枝はもう……それはもう、静かに怒りを燃やしていて、最後のキラキラでつぶらな瞳は期待の眼差しに満ちていた。
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