そばえに咲く傘のはな

くさの

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Act.02 刷込、娯楽、ワスレナグサ

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 瑞枝は、おそらくだけれど人間とあやかし……多くの人の目に映る事のない自分たちが一部の視えてしまう人間と距離を縮めてしまうことをよくは思っていないように思う。
 よく思っていない、というのか、適切な距離感で関わりが不要なら関わらないままでそれぞれに生きる方がいい、とでもいうような。
 人の眼も噂も、実際のところ七十五日では収まらない。わざわざそんなあいまいな境を跨ぐことはない、ということだろう。それは大学に入学して一人暮らしを始めるにあたって私も考えていた事だ。普通の人として生きていこう、と。
 はじめて私が瑞枝を視た時も、早く離れるように言ってくれた。後日訊ねると、あの通学路は不穏で鬱々としていて悪い気が溜まりやすいことを教えてくれた。
 だから、元々視えやすい私はあそこを通るのが嫌だったんじゃないか、と。今は瑞枝と居るおかげで弱いあやかしは私に何か出来ないらしい。瑞枝さまさまでは。

 瑞枝は、人の子、といって私との距離をはっきりさせようとすることがあるけれど、彼自身は人の事が好きなんじゃないか、と思う。
 必要の加減で関わって、もしかしたら過去にその関わった人間と何かあったのかもしれない。自分の事を多く話してはくれない瑞枝だから完全に推測だけれど。
 瑞枝が小さくため息をつく。

「まあ、貴方がいいならいいんじゃないですか」
「どうにかやってみます」

 というわけで改めて、毬栗くんと向かい合う。

「たいしたことはできないと思うけど、出来るだけ、希望に副えるようにするね」
「ぴぴ~!」

 毬栗が嬉しそうに跳ねまわる。
 子どもと遊ぶくらいなんてことないだろう、なんて軽く考えていたが次の日曜日に遊んでみたらその日半日で私の体力は底を尽きた。
 口にはしないまでも「そら見たことか」と呆れたその様子で瑞枝が見ていた。




 毬栗くん(呼び名をくりぴー)と出会った次の日、講義の合間にロッカーに忘れ物を取りに行くとロッカーの中に青い色の小さな花がぽつんと置かれていた。
 一瞬、どきりとしてからくりぴーの事を思い出した。花の蜜も吸うと言うことだったけれど、これは食べさしかはたまたお誘いなのか。
 ささやかな贈り物に悩んでいると、すぐ傍で声がした。

「おいおい、そりゃ重いゼ」

 耳元で声がした気がしてさっき以上に肩が跳ねる。振り向いても誰もいない、けれど声の主に心当たりはある。

「藍?」

 ひそっと声を掛けると、正解~と聞こえて、カバンカバン、と続く。見ればバッグに青い傘のストラップ。
 それにも驚いたけれどもう声は出なかった。
 休憩時間だが今ここにいるのは私と藍だけだ。気配がないか辺りを警戒して、声を潜めて訊ねる。

「どういうこと?」
「帰って、瑞枝に聞くか、スマホで検索掛けてみるんだな。花の名前、教えといてやろうか?」

 聞きたい、そうすれば検索は早くて済む。藍の声色がとてもニヤニヤしているのできっとロクなものではないのだろう。不安しかない。
 でも、今は画像からでも検索できる技術がある。それを活用しよう。
 せっかくの申し出を断り、自分で探してみると答える。
 藍は、はいよー、とまたただのストラップに戻った。朝はなかったはずだけど、と首を捻るも考えても分らないものは分からない。分からなくていいことも、この世にはある。
 と頭からこのストラップ型監視ツールのことを追い出して、ロッカーへ来た用事を思い出してノートと置かれていた花を手に、私は次の講義へと向かった。
 手のひらに乗せた小さな花がころころと転がった。
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