そばえに咲く傘のはな

くさの

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Act.03 青傘、約束、ユズ

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「ねえ、藍は瑞枝の道具に意志が宿ったものなの? それとも単体の妖怪?」
「元々は単体で、傘として日本中を巡っていたもんだったがなあ。あ、知ってるか? 人ってのは案外他人の傘を借りて他の場所に置いてくことなんて容易にするんだぜ? で、廻ってる間にアイツに所有されることになったな」

 遠い昔を懐かしむようにしみじみと思い出を語る、ストラップほどの大きさに化けた青い傘に興味は尽きない。
 こんな出会い方をしていなければ、まどかは傘の妖怪である藍とこんな風に会話していたかもわからないからだ。
 まどかの生活に合わせるといってまどかの生活に合わせている瑞枝がお風呂から上がってくる様子はない。
 お風呂文化に馴染みがあったからか、妖怪はお風呂に入らなくても大丈夫ですよとはじめこそ言っていたが抵抗はさほどなさそうで、今では声を掛けるとすんなりいってくれるので助かっている。
 もう少し、今日はもう少し話を聞いてみたいという欲が勝った。藍は別段瑞枝から口止めをされている様子はない。止められていることはうっかり話しそうになったら急に声を大きくして「これ駄目だったわ!」というので聞かなかった事にしている。

「妖怪としてはそれでいいの?」
「良いも悪いも、アイツの方が強いんだからアイツについていくだけだよ」

 待遇もそれほど悪くないらしい。そのわりに、投げ槍のように使われたり便利な杖代わりだったりと傘という扱いからかけ離れている様な場面をまどかも何度か目撃している。
 助けてもらったあの時、まどかの目の前にいたどろどろとした塊を横切って貫いた槍のようなものは、傘だったということにいまだ信じられないものがある。どうやら硬度を変えられるということらしいが、台風の時なんかも裏返る事はないのだろうか。

「別に出会いがしらに斬ってきって斬りまくるわけでなし。アイツも話し合いで解決できることは極力そうしたいんだろうしな。まあ血の気が多かったり自我がなくて本能のまま行動に移すやつが多いんだから、手が出るのもたまには仕方ねえわな、って話しだ」
「手、というか、藍が体はってるよね?」
「だよなー? まどか、わかってくれるか。俺は嬉しいよ。瑞枝はアレで潔癖なところあるからサ。俺でつついたり刺したりなんてよくあるよくある」

 自分が汚れるのは極力避けたいみたいでな、と藍はケラケラと笑って言う。その辺りは許容範囲ということだろうか。

「え、共同生活して大丈夫? お風呂とか食器とか」
「耐えられなきゃ、ここに居ないわな。聞かないって手もあるのにさ、律儀に風呂入ったり晩飯作ったりさ。なんだかんだ、まどかの事は気にしてるみたいだし、気に入ってんじゃねえの?」

 気に入られている。
 その言葉にまどかは少し複雑な気持ちになる。もしかしてそれは、非常食の位置に当たりはしないだろうか。瑞枝は人間を食べないということは聞いているが、それでも万が一ということはあり得る。
 藍とまどかが話している間も、パシャンパシャンとお風呂場の方からお湯が床や壁にあたる音がする。
 瑞枝の普段の姿は人の形をしているけれど、そもそも瑞枝の本来の姿をまどかは知らない。
 おかっぱで、開いてる時もあるが大体目は細くいつも笑っているように見える。それでいて怒った時は眉がちょっと動いているくらいで、笑顔で怒られるという体験を瑞枝と会って初めてした。出会って一緒に生活するようになってそれなりに経つが、まどかの事を瑞枝が知る事が増えても、その逆は少ない。深入りするのを、どこか無意識に避けていた。

「妖怪のお強い人に気に入られて、下剋上を狙う輩に狙われたりしないかな?」
「どうだろうな。基本的に動物なんかと一緒で、縄張りさえ荒らされなきゃ互いに不可侵だから、まどかがどっかに足突っ込まない限りは大丈夫じゃねえの? 人間もそうだろ?」
「……妖怪の領分は習ってないからなあ。人間は……日々他者の領分を侵している気がするけど、まあおおよそ同じ感じかも」
「ま、当分はアイツもいる事だし、大丈夫だろうよ、心配なさんなって。あれで地主神とかに口きいてもらったりよくしてるからサ~」

 とてつもなく縁を持たない方がいいモノと縁を持ってしまった気がする。
 土地の神様に顔が利くというのはいい意味か悪い意味なのか。前者ならいいな、とまどかはひとまずそう思うことにした。
 関わってろくなことが無いことは経験として身に染みているはずだったが瑞枝と藍のふたりはまどかにとってだいぶ、イレギュラー枠だ。
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