そばえに咲く傘のはな

くさの

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Act.03 青傘、約束、ユズ

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 とりあえず、約束があるから手伝いをして呪いを解いてもらうまでは安全、だろうかとまどかはぼんやり考えた。
 おかしなことに首を突っ込んでいる自覚はあるが、瑞枝と出会ったおかげで朝夕の通学路の憂鬱はなくなったのだから、悪いことばかりではないだろう。うっすらと首に残るちりちりとした痛みをたまに思い出すくらいだ。

「何のお話ですか?」
「わ!」
「ぎゃ!」
「そこまで驚きますか?」

 まだ乾き切っておらずしっとりとした髪の瑞枝がタオルを持ったままいつもの浴衣姿で立っていた。
 まどかと藍の驚き具合を不思議に思っているようだ。卑しい話をしていなかったか疑われるよりは何倍もいい。
 お風呂上がりの瑞枝からはほんわりとゆずの香りがする。先に入ったまどかが入れてみたが、瑞枝に何の説明もしていなかったことを思い出した。
 シャワーで過ごすことが多く、お湯が張ってあることもだけれど、湯の色が違うことにもたいそう驚いただろう。

「お風呂頂きました。今日のお湯は色も違うし良い香りがしましたね」
「入浴剤を入れてみました、瑞枝も一番に入る時に入れてみるといいですよ。プレゼントに貰ったものもあるので、まあ使ってみてください」
「確かに、今日のまどかはシャンプーとは違う匂いだったな……」

 驚いて机に倒れていた藍はいつの間にか起き上がってまどかのすぐ傍にいた。首の辺りをすんすんと香りを嗅いでいる仕草つきでまどかが驚きに身体を硬くする。
 傘の風貌で、いぬやねこといった動物のように身体を近付けてくることがあって、その度にびっくりしている気がする。
 瑞枝の言葉がすぐさま飛んでくる。

「藍、近いですよ」
「俺は傘なんでね! 近くないと意味ないですから」
「まどかが驚いてますよ」
「でも、この距離だと開けないよ」

 暗に近いとモノ申してみる。

「なんてな! 理由なく女性に近づく機会がなかったからなァ、あ゛、すんません! ごめんなさい! 調子に乗りました!! あぁー!!」

 瑞枝がストラップの紐をぎゅっと掴んで引っ張った。驚いたままのまどかを放置して、藍がブンブンと振り回される。生姜焼きがでるー、と目を回した藍が叫んでいる。
 もちろん、この声はご近所さんには聞こえない。瑞枝とまどか、あとはもし近くに妖怪がいれば聞こえているだけだ。
 瑞枝がやはり笑顔で藍を振り回しているところをみると、二人の間にある関係は長年の付き合いの内に蓄積されたものなのだろうなあとほほえましいものでもみるように、まどかはふっと笑みを零した。
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