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第4話 涙を隠すほどの笑顔
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隣から、彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
……こどもだなあ。
と言ってしまうと彼女は拗ねる。
彼女の拗ね方は小さくて、可愛らしいので全然痛くもかゆくもないけれど。
不機嫌にしてしまうのは、本意ではない。からかいたいし、いじめたいけれど、機嫌を直してもらうのが大変だ。
いや、彼女、わりとけろりとしていて、こちらが考えているほどは気に留めていないのかもしれないけど。
ちらり、と顔を覗いてみると案の定、ぽろぽろと涙を零している。
片手には駅前で貰ったティッシュをいくつも持っている。いつの間に貰っていたのか。
そのうち、ずぴー、なんて鼻をかむ音なんて聞こえてきそうだ。
彼女だけではない。
周囲のどこかしこから、鼻をすする音や嗚咽も聞こえてくる。
彼女とは反対の隣に目を向ければ、もう先ほどからハンカチで目を覆っていて映画を観るのではなく寧ろ映画を聴いている、といっていい程の人までいた。
映画に集中してないな、と思いつつも彼は映画よりも彼女の顔を見ていた。
映画もなかなかだけれど、彼には映画よりも隣の彼女のほうが気になって仕方なかった。
――――
――……
照明がゆっくりと淡いオレンジへと変わり、明るさを取り戻していく。
照明が点いた映画館はまるで、何かを失ってしまったように淋しく、そしてそれとは反対に後にする客たちでざわついていた。
映画についての意見が飛び交っていて、彼はそんな出口の方を見飽きたのか、彼女に向き直った。
見ると映画も終わったというのに、彼女の目には涙がたまっていた。
「花羽」
「う゛ー……?」
「映画、よかった?」
「悲しかった」
彼の問いに彼女はまたも映画を思い出してしまったのか涙を零した。
彼が袖で拭っても、後から後からこぼれてくる。きりがない。
出口に向かう通路はまだ人がごたついていて、もう少しこのまま座っていてもいいだろうと思わせた。
「彼女はね、彼からの手紙をずっと待っていてね」
「うん」
「彼もまた彼女からの手紙を待っていてね」
「うんうん」
「彼は手紙を書く合間に、日記を書いていてね」
あー、確かにそんなことがあったかも。と彼は考えながら相槌を打った。
というか今の彼女は感想を述べているのではなくて、映画の内容をそのまま教えてくれているようだった。一緒に観ていたのだから、その必要はないのだけれど。
「日記を手にした彼女は、幸せだったのかな」
「彼の日記には、たくさんの想いが詰まっていたんです! きっと幸せです!」
「うん。……花羽、もう一度聞くけど、よかった? それとも」
意地悪染みてはいるが微笑みながら、そう質問してみた。
言葉を濁らせたのは――。
「よいお話だったのです」
彼女は、涙が零れ落ちる事も気にせずに、笑った。連れて来てくれてありがとうと。
――綺麗に、笑った。
瞳いっぱいの涙。
それさえも、この笑顔には敵わないよ。
【涙を隠すほどの笑顔】
……こどもだなあ。
と言ってしまうと彼女は拗ねる。
彼女の拗ね方は小さくて、可愛らしいので全然痛くもかゆくもないけれど。
不機嫌にしてしまうのは、本意ではない。からかいたいし、いじめたいけれど、機嫌を直してもらうのが大変だ。
いや、彼女、わりとけろりとしていて、こちらが考えているほどは気に留めていないのかもしれないけど。
ちらり、と顔を覗いてみると案の定、ぽろぽろと涙を零している。
片手には駅前で貰ったティッシュをいくつも持っている。いつの間に貰っていたのか。
そのうち、ずぴー、なんて鼻をかむ音なんて聞こえてきそうだ。
彼女だけではない。
周囲のどこかしこから、鼻をすする音や嗚咽も聞こえてくる。
彼女とは反対の隣に目を向ければ、もう先ほどからハンカチで目を覆っていて映画を観るのではなく寧ろ映画を聴いている、といっていい程の人までいた。
映画に集中してないな、と思いつつも彼は映画よりも彼女の顔を見ていた。
映画もなかなかだけれど、彼には映画よりも隣の彼女のほうが気になって仕方なかった。
――――
――……
照明がゆっくりと淡いオレンジへと変わり、明るさを取り戻していく。
照明が点いた映画館はまるで、何かを失ってしまったように淋しく、そしてそれとは反対に後にする客たちでざわついていた。
映画についての意見が飛び交っていて、彼はそんな出口の方を見飽きたのか、彼女に向き直った。
見ると映画も終わったというのに、彼女の目には涙がたまっていた。
「花羽」
「う゛ー……?」
「映画、よかった?」
「悲しかった」
彼の問いに彼女はまたも映画を思い出してしまったのか涙を零した。
彼が袖で拭っても、後から後からこぼれてくる。きりがない。
出口に向かう通路はまだ人がごたついていて、もう少しこのまま座っていてもいいだろうと思わせた。
「彼女はね、彼からの手紙をずっと待っていてね」
「うん」
「彼もまた彼女からの手紙を待っていてね」
「うんうん」
「彼は手紙を書く合間に、日記を書いていてね」
あー、確かにそんなことがあったかも。と彼は考えながら相槌を打った。
というか今の彼女は感想を述べているのではなくて、映画の内容をそのまま教えてくれているようだった。一緒に観ていたのだから、その必要はないのだけれど。
「日記を手にした彼女は、幸せだったのかな」
「彼の日記には、たくさんの想いが詰まっていたんです! きっと幸せです!」
「うん。……花羽、もう一度聞くけど、よかった? それとも」
意地悪染みてはいるが微笑みながら、そう質問してみた。
言葉を濁らせたのは――。
「よいお話だったのです」
彼女は、涙が零れ落ちる事も気にせずに、笑った。連れて来てくれてありがとうと。
――綺麗に、笑った。
瞳いっぱいの涙。
それさえも、この笑顔には敵わないよ。
【涙を隠すほどの笑顔】
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