9 / 11
第8話 寒いから暖めてだなんて、勘違いさせたいの?
しおりを挟む
冬が寒いのは。
恋人同士が身体的に近づくための、
神様の悪戯染みた優しさかもしれない。
だって人は、季節に関係なく、
他者を求めるのだから。
彼女は冬という季節が極端に苦手だった。
彼女を解く方程式があるとすれば、答えには夏も含まれるのだろう、と彼は今までの経験上考えていた。暑すぎても寒すぎても駄目。そこがまたかわいい、と彼は思っている。
今日は彼が彼女を呼んだ。といっても、彼女が彼を家にあげることのほうが少ない。警戒でもなく彼のほうがあまりあがらないようにしている。
「寒いっ、です」
はたから見たらそれほどまでしなくてもいいだろうというほど、ガタガタと震えながら彼女は彼の入れた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを両手を温めるようにしてちびちびと飲んでいた。自分一人ならばつけることを躊躇うエアコンも、彼女が居るならどんどんつけましょう。それでも彼女が来たからと今しがた動き始めたばかりでは温まるまで待つほかない。
仕方ないといわんばかりに彼は毛布を取り出して彼女にかけた。
「花羽、寒がりすぎ」
「だって」
彼女はむっと眉を逆さハの字に吊り上げて、ぷうと頬を膨らました。
「雪ですよ!? この地域でさえも雪を見るんですよ!」
「花羽も高校生ならもっと喜ばない? “きゃー、朋樹、雪ですよ雪!”……とか」
彼はあくまで彼女のふりをしてそういってのけた。
真似した彼は彼女よりも若々しくて、彼女が少しだけ嫉妬してしまうほど、可愛らしかったが彼女の目はじとりと細くなり彼を睨んだ。
彼女の口が少しとがったのをみて彼は付け足すように言った。
「ほら、あれじゃん。“若い”んだし?」
「朋樹だって充分若いですよ!」
「俺、言っとくけど三つ上ね、これでも」
彼は肩に手を当てて、腕なんて回し始めた。そして拗ねた口調で、
「すぐ疲れるし、重いもの持つときに掛け声かけなきゃ危ないんですー」
なんて彼女をちらりと見るのだ。そうして、よっこいせー、っと手をついて立ち上がる。
「わ、たし……だってすぐ疲れるし、……って!」
「何?」
「朋樹だって……って、何で上着なんか」
立ち上がったから何をするのかと思えば、ハンガーに引っ掛けていたフード付の上着を羽織り、ニットの帽子を被る。
朋樹さん、もしやあなた……という顔をしている。
視線に気づいた彼が、屈託のない笑みを浮かべ手を差し出した。
「外いこう、ほら」
「いやっ、です!」
「散歩いこう」
「いやです、じっとしてます」
「外で動けばすぐに温まるよ。缶のミルクティー買ってあげるよ?」
「やです。その手には乗りません。部屋にいます」
「……じゃあ部屋で何かする?」
にたり、と彼が笑った気がした。
その顔に、何かを察した彼女は一瞬身を引きながら、
「な、何もしないですよ!」
目を反らした。
「エアコンもちょっと温かい風が出て来てますし」
ピッ!
「えええっ!?」
「あ、消しちゃった」
ごめんねー、悪びれることもなく笑って言ってのける彼を、彼女はいっそ、射殺さんばかりに睨む。
「ともきさん」
「はーい」
「暖を取らせてもらいますっ。温めさせてくださいネッ」
「え、びゃっ!」
「ぬくーい」
「花羽、なんで、そんな、手、つめたっ」
「朋樹、ぬくーい……」
「新しくコーヒー淹れてあげるから! その手を離しなさい!」
【寒いから暖めてだなんて、
勘違いさせたいの?】
(何か違う、そうじゃない)
(今日の夕ご飯なににしますか?)
(……シチューかおでん)
(りょうかいでーす)
恋人同士が身体的に近づくための、
神様の悪戯染みた優しさかもしれない。
だって人は、季節に関係なく、
他者を求めるのだから。
彼女は冬という季節が極端に苦手だった。
彼女を解く方程式があるとすれば、答えには夏も含まれるのだろう、と彼は今までの経験上考えていた。暑すぎても寒すぎても駄目。そこがまたかわいい、と彼は思っている。
今日は彼が彼女を呼んだ。といっても、彼女が彼を家にあげることのほうが少ない。警戒でもなく彼のほうがあまりあがらないようにしている。
「寒いっ、です」
はたから見たらそれほどまでしなくてもいいだろうというほど、ガタガタと震えながら彼女は彼の入れた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを両手を温めるようにしてちびちびと飲んでいた。自分一人ならばつけることを躊躇うエアコンも、彼女が居るならどんどんつけましょう。それでも彼女が来たからと今しがた動き始めたばかりでは温まるまで待つほかない。
仕方ないといわんばかりに彼は毛布を取り出して彼女にかけた。
「花羽、寒がりすぎ」
「だって」
彼女はむっと眉を逆さハの字に吊り上げて、ぷうと頬を膨らました。
「雪ですよ!? この地域でさえも雪を見るんですよ!」
「花羽も高校生ならもっと喜ばない? “きゃー、朋樹、雪ですよ雪!”……とか」
彼はあくまで彼女のふりをしてそういってのけた。
真似した彼は彼女よりも若々しくて、彼女が少しだけ嫉妬してしまうほど、可愛らしかったが彼女の目はじとりと細くなり彼を睨んだ。
彼女の口が少しとがったのをみて彼は付け足すように言った。
「ほら、あれじゃん。“若い”んだし?」
「朋樹だって充分若いですよ!」
「俺、言っとくけど三つ上ね、これでも」
彼は肩に手を当てて、腕なんて回し始めた。そして拗ねた口調で、
「すぐ疲れるし、重いもの持つときに掛け声かけなきゃ危ないんですー」
なんて彼女をちらりと見るのだ。そうして、よっこいせー、っと手をついて立ち上がる。
「わ、たし……だってすぐ疲れるし、……って!」
「何?」
「朋樹だって……って、何で上着なんか」
立ち上がったから何をするのかと思えば、ハンガーに引っ掛けていたフード付の上着を羽織り、ニットの帽子を被る。
朋樹さん、もしやあなた……という顔をしている。
視線に気づいた彼が、屈託のない笑みを浮かべ手を差し出した。
「外いこう、ほら」
「いやっ、です!」
「散歩いこう」
「いやです、じっとしてます」
「外で動けばすぐに温まるよ。缶のミルクティー買ってあげるよ?」
「やです。その手には乗りません。部屋にいます」
「……じゃあ部屋で何かする?」
にたり、と彼が笑った気がした。
その顔に、何かを察した彼女は一瞬身を引きながら、
「な、何もしないですよ!」
目を反らした。
「エアコンもちょっと温かい風が出て来てますし」
ピッ!
「えええっ!?」
「あ、消しちゃった」
ごめんねー、悪びれることもなく笑って言ってのける彼を、彼女はいっそ、射殺さんばかりに睨む。
「ともきさん」
「はーい」
「暖を取らせてもらいますっ。温めさせてくださいネッ」
「え、びゃっ!」
「ぬくーい」
「花羽、なんで、そんな、手、つめたっ」
「朋樹、ぬくーい……」
「新しくコーヒー淹れてあげるから! その手を離しなさい!」
【寒いから暖めてだなんて、
勘違いさせたいの?】
(何か違う、そうじゃない)
(今日の夕ご飯なににしますか?)
(……シチューかおでん)
(りょうかいでーす)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる