きみとふたり

くさの

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drop5:図書室逢瀬

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 放課後の図書室は、向かいの校舎からの反射した西日が隙間から零れてはいってくるから少しだけオレンジ色に染まる。
 冬の今は日の入りが早くてすぐに暗くなってしまうけれど。

 この高校に入って、図書委員になって一年半。
 彼を、好きになって、一年半。
 一目惚れもあったけれど、先輩は本当に優しくていい人で、勉強も出来て気配り屋さんで。
 一緒にいるのが楽しかった。先輩が笑ってくれると、うさぎ年故なのかその場で飛び跳ねたくなる衝動に襲われたり、たまに抜けてるところを見ると可愛いなあと微笑ましかった。
 こういう感覚が初めてで、恋というものなのかはわからなかったけれど、友達に話しててやっぱり恋なんじゃないかと思えたし、何より卒業してさようならってのは正直寂しいな、会いたいなと思ってしまった。
 図書委員になったのだって、あわよくば彼の、今はもう卒業を控えた元図書委員長の近くにいたかったからだ。
 動機が不純だけど、本はよく借りてるから問題ない。整頓とかもちゃんとやるよ。
 学校に来なくてよくなった筈なのに図書室にはほとんど毎日来ている先輩。
 理由を聞いたら、静かだし馴染むんだ、って言ってた。
 私は、嬉しいけどね。本当なら会えないし。
 今日も、本を読みにいくという理由をわざわざ作ってここに来た。
 今日だけじゃない、毎日だ。
 本の内容は掠りもしない、先輩との一秒一秒を焼き付けていく。
 だって、もう、あと少ししか時間はない。
 ただの先輩後輩の関係は理由さえなかったら、こんな時間や出会えた事実があったのかも解らなくなる。
 先輩はいつもこの部屋の一番奥の席を取る。
 入り口付近だと人の出入りが気になってしまい、真ん中あたりの席だと妙に落ち着かないなのだとか。
 先輩が居るときは決まって、先輩の正面に席を取る。
 入るときにカウンターを覗いたら、別の図書委員がいたから今日は代わりに貸し出しをしたりしなくて済みそう。
 読んでいるフリをしていた本を開いたままで机に置いた。
 まっすぐに、顔を上げて先輩を見る。

「先輩、」
「ん?」

 何もなかったことになんて、してほしくない。
 だって、たくさんもらった。
 いっぱいになって溢れても行き場がないなんて。
 なんてせつないんだろう。
 返事をした先輩は、手を止めて顔をあげる。
 柔らかでさらりとした髪が揺れた。
 セルフレームの眼鏡の奥、不思議そうに何度か瞬いた。
 私、今、どんな顔をしているんだろう。
 上げたままのきょとんとした表情で先輩はまっすぐにみていた。
 少しだけ、先輩が目を逸らしたその瞬間に、いうだけ言ってみよう、と軽く思った。
 伝わらなければ冗談にしてしまえばいい。


「「好き」」


 です、と続けた言葉が尻すぼまりになっていく。
 何の冗談か、それは同時だった。
 嬉しいはずなのに。
 同時過ぎて、笑えない。
 本当ならいいと思う自分は押し潰されて冗談にしようと思う自分が前に出てしまった。

「冗談、デスヨ?」
「……俺のも冗談だから、気にするな?」

 彼はふっと笑みを作る。
 何も思ってないような、けど淋しそうというか。
 そして何事もなかったように、一時的に私に向けられていた視線がノートに戻った。
 そんな顔は狡い。
 伝わらなかったら諦めよう、なんて中途半端な気持ちでいたのに、さらに中途半端になって揺らぐ。
 もしかして、って。思う。
 もうすぐしたら、卒業して大学に行っちゃうくせに。
 もしかして、本当なの?
 狡い、狡いよ…先輩。

「うそ、本当」

 動くのを躊躇っていた先輩の手が握っていたシャープペンが、ぽとりとノートの上に転がった。
 もう一度、ゆっくりと上がる先輩の顔は少しぼやけてた。
 ああ、どうしよう。言っちゃったよ。

「一年の時からずっと好きでした」

 先輩が立ち上がって前のめりになって手を伸ばした。
 一瞬身体に緊張が走ったけれど、その手は私の涙をすくっただけだった。
 先輩はそのまま私の頬に手を添えて、安心したように笑みを浮かべる。

「良かった。これで勉強するフリしなくて良くなった」
「え」

 思いがけない言葉に驚く。
 その言い方、悪い方にとったほうがいいですか……!?
 不安たっぷりにまじまじとみつめると先輩はクスリと笑う。

「わかんないかなぁ? これからは理由を作らなくても、会えるんだよね? ってこと」

 西日の反射か自分の言葉に照れてか、赤らんだ頬を先輩は腕で隠した。


 end.
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