10 / 15
drop10:髪を拭く_side:彼女
しおりを挟む
「ほら、髪」
「ん?」
ぽたぽたと、毛先から雫が垂れている。
あ。フローリングが濡れてしまう。
けれどそれは、この部屋の主よりも先にお風呂を頂いてしまった罪悪感から早く彼にバトンタッチしようと思ったからであって。
彼が居なくなってから、少しタオルで拭いてドライヤーをかけようと思っていたところだった。
「ちゃんと乾かさないと、風邪引くだろ」
そういって、タオル片手に手招きする彼に少しだけ不信感を抱きつつも。隙あらばキスをしてくる彼だから。
うーむ、どうしてだろうな。逆らえないというか、逆らいたくないというか。けど少し反抗したいというか。ちょっとの反抗心が私をその場に立ち尽くさせたというべきか。
「ずっと立ってられると、フローリングに水溜りが出来るんだけどなぁ」
「え、あ、はいっ」
「大丈夫、なんにもしない。今は」
「うん……って、今はって何?」
さらりと最後に出た言葉に、背筋がゾクゾクとした。せっかく温まってきたのにやめてよ。
「はあ、ホント。ウチの姫様は我侭だね」
「ちょ、話を逸ら」
彼がソファから立ち上がって、数歩分だけ私に近づきさっと腕を取る。
うわあぁ、どうしよう。
初めてのお泊りなのに、後は寝るだけなのに。
きっと自分だけなんだろうけど、緊張する。
腕を引かれるなんて、学校でもあったことなのにな。どうしてだろうか、すごく、緊張してる。
心拍数がやばいです、やめましょう。
今日これから本当は男女の何とやらが彼の望みとしてはあったとしてでもですね、いやうん、すみません実は私がこんなこと考えて妄想走らせているだけかもしれません破廉恥なのかもしれません、えっちですみませんごめんなさい。もはや、顔も上げられません。
私が黙り込んだのをいいことに、彼は私を適当な場所に座らせてその正面に膝立ちをして、私の湿った髪を荒く拭いてからその後はゆっくりと優しく拭いてくれた。
彼とのこの距離云々や自己嫌悪に陥っている私の知らぬ間にドライヤーまで用意して、熱風である程度湿気を飛ばした後にはちゃんと冷風でも乾かしてくれる。彼の手が髪の合間を通るたびに、髪が梳けてさらさらと落ちていく。気持ちいいな、と正直思った。殆ど、目は閉じていた。恥ずかしいから。
「髪長いとは思ってたけど、乾かすの結構大変なのな」
「え、あ。うん……」
「お? その顔は今まで別世界に居ましたって感じだね。何考えてたの?」
ふふふ、と彼が笑う。答えられるわけもなく、言葉を捜していると、彼が立ち上がる。
「さて、俺も風呂いきますか」
「……うん! さあいっておいでさ!」
よし、これで十分くらいは心臓を落ち着かせる時間が出来るってもんだ。乾かしてもらってなんだけれど、少し疲れている様子の彼に変なテンションでしか言葉が出せなかった。
あ、怪しまれてないかな。どぎまぎしているのが伝わったのか、彼がぴたりと足を止めて振り向く。
「……覗くなよ?」
「ああ、うん! 大丈夫…だい、じょう……覗かないよっ!」
「あはは。分かった、分かった」
彼が脱衣所のある部屋に消えたのを確認して、ほっと大きくため息をついた。
なんだこれ、私の方がとんだえっちい思考の持ち主なんじゃないだろうか。いやだ、そんなの。知られたくない。っていうか男の人って自分はどれだけえっちだろうが変態だろうがへらへらしてるけど、彼女がそうだったらすごく引いたり……するのかな。ずるいなあ、いやだなあ。うああああ。
てめえらと同じくらいにはきっとありますよ、そんな欲求! それなのにどうして泊まりに来たんだよ、って話ですよね。男は狼ですよね、女だってそれなりですか。いやいや、違うそういうんじゃなくてさ、なんていうの?
こんなこと考えてるって知られたら嫌われないかな、意識しすぎかな……。うあああああ、ほんっと、私のばか。
結局のところ、何にもなく終わりましたけどね。
心臓バクバクしてそんなに眠れなくて、翌日のドライブの殆どを寝てすごしたなんて、とんだ醜態ですよね。はあ。
end.
「ん?」
ぽたぽたと、毛先から雫が垂れている。
あ。フローリングが濡れてしまう。
けれどそれは、この部屋の主よりも先にお風呂を頂いてしまった罪悪感から早く彼にバトンタッチしようと思ったからであって。
彼が居なくなってから、少しタオルで拭いてドライヤーをかけようと思っていたところだった。
「ちゃんと乾かさないと、風邪引くだろ」
そういって、タオル片手に手招きする彼に少しだけ不信感を抱きつつも。隙あらばキスをしてくる彼だから。
うーむ、どうしてだろうな。逆らえないというか、逆らいたくないというか。けど少し反抗したいというか。ちょっとの反抗心が私をその場に立ち尽くさせたというべきか。
「ずっと立ってられると、フローリングに水溜りが出来るんだけどなぁ」
「え、あ、はいっ」
「大丈夫、なんにもしない。今は」
「うん……って、今はって何?」
さらりと最後に出た言葉に、背筋がゾクゾクとした。せっかく温まってきたのにやめてよ。
「はあ、ホント。ウチの姫様は我侭だね」
「ちょ、話を逸ら」
彼がソファから立ち上がって、数歩分だけ私に近づきさっと腕を取る。
うわあぁ、どうしよう。
初めてのお泊りなのに、後は寝るだけなのに。
きっと自分だけなんだろうけど、緊張する。
腕を引かれるなんて、学校でもあったことなのにな。どうしてだろうか、すごく、緊張してる。
心拍数がやばいです、やめましょう。
今日これから本当は男女の何とやらが彼の望みとしてはあったとしてでもですね、いやうん、すみません実は私がこんなこと考えて妄想走らせているだけかもしれません破廉恥なのかもしれません、えっちですみませんごめんなさい。もはや、顔も上げられません。
私が黙り込んだのをいいことに、彼は私を適当な場所に座らせてその正面に膝立ちをして、私の湿った髪を荒く拭いてからその後はゆっくりと優しく拭いてくれた。
彼とのこの距離云々や自己嫌悪に陥っている私の知らぬ間にドライヤーまで用意して、熱風である程度湿気を飛ばした後にはちゃんと冷風でも乾かしてくれる。彼の手が髪の合間を通るたびに、髪が梳けてさらさらと落ちていく。気持ちいいな、と正直思った。殆ど、目は閉じていた。恥ずかしいから。
「髪長いとは思ってたけど、乾かすの結構大変なのな」
「え、あ。うん……」
「お? その顔は今まで別世界に居ましたって感じだね。何考えてたの?」
ふふふ、と彼が笑う。答えられるわけもなく、言葉を捜していると、彼が立ち上がる。
「さて、俺も風呂いきますか」
「……うん! さあいっておいでさ!」
よし、これで十分くらいは心臓を落ち着かせる時間が出来るってもんだ。乾かしてもらってなんだけれど、少し疲れている様子の彼に変なテンションでしか言葉が出せなかった。
あ、怪しまれてないかな。どぎまぎしているのが伝わったのか、彼がぴたりと足を止めて振り向く。
「……覗くなよ?」
「ああ、うん! 大丈夫…だい、じょう……覗かないよっ!」
「あはは。分かった、分かった」
彼が脱衣所のある部屋に消えたのを確認して、ほっと大きくため息をついた。
なんだこれ、私の方がとんだえっちい思考の持ち主なんじゃないだろうか。いやだ、そんなの。知られたくない。っていうか男の人って自分はどれだけえっちだろうが変態だろうがへらへらしてるけど、彼女がそうだったらすごく引いたり……するのかな。ずるいなあ、いやだなあ。うああああ。
てめえらと同じくらいにはきっとありますよ、そんな欲求! それなのにどうして泊まりに来たんだよ、って話ですよね。男は狼ですよね、女だってそれなりですか。いやいや、違うそういうんじゃなくてさ、なんていうの?
こんなこと考えてるって知られたら嫌われないかな、意識しすぎかな……。うあああああ、ほんっと、私のばか。
結局のところ、何にもなく終わりましたけどね。
心臓バクバクしてそんなに眠れなくて、翌日のドライブの殆どを寝てすごしたなんて、とんだ醜態ですよね。はあ。
end.
0
あなたにおすすめの小説
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる