86 / 88
真白い輝きの冬の章
それは なまえのない物語(その一)
しおりを挟む「まったく、急にこっちに呼び出されたかと思えば、まさかメルの死装束を作ることになるとは」
シャイトがため息混じりに愚痴をこぼす。
「私じゃないってば、リンネメルツェだよ、先生」
「あぁ、だからメルだろう?」
ここはドールブティック茉莉花堂――ではなく、湖底遺跡の祭壇の間だ。
そこにはもうすでに、皆集まっていた。
メル、シャイト、ユイハにユウハ、ジルセウスはもちろんのこと、ウルリカやテオドル、パラフェルセーナ公爵とベルグラード男爵、マギシェン侯爵夫妻。
それに……。
「俺までお呼ばれしちまってよかったのか?」
「リンネメルツェのたっての希望でしたので……お忙しいでしょうに、わざわざありがとうございます、マナフ・アレン様」
「いや……そう言われるとなんだか……照れるな。ありがとうよ」
そう、マナフ・アレンもリンネメルツェのドールを抱いてなんだか落ち着かなそうに立っていた。
今日のドール・リンネメルツェはあの日メルが納品したドレスを纏っている。
それは、どこまでも白いドレスだった。かっちりした立ち襟の上着には、真珠に似たビーズが美しい模様を描いて縫いとめられている。スカートは腰がぷっくりと膨らんだバッスル・スタイル。裾は少し短く、かかとの少し高い白い靴が見えるのが可愛らしい。
ドレスの銘を「なまえのない花」という。これは、シャイトが付けた銘だ。
「さて、今日の主役たちはそろそろ登場かな?」
ジルセウスが射影器を点検しながら言う。
そしてそれがまるで本当に合図だったかのように――
「皆、今日はありがとう、僕達の『葬儀』に来てくれて」
「……」
白い光をまとった白い人物が、漆黒のドレスを纏った金髪の乙女を伴って、祭壇の大きな白い繭の影から現れる。
その漆黒のドレスは、つやの少ない絹で出来ていた。
形は、胸と肩が大きく露出するオフショルダー。その胸元には黒水晶と黒いリボンで出来た飾りがあしらわれて、可憐さを演出している。
袖は大きく膨らみ、いちどきゅっとリボンでしめられて、そのまま手の甲まで覆うかたち。その袖の先には長い黒のレースがあしらわれている。
腰は黒いリボンベルトで細くしめられ、スカートは横に大きく広がり、真ん中が開くかたちだ。カーテンのように開いた中央からのぞくアンダースカートもまた黒い。
首にはリボンの形をしたチョーカー、頭はヴェールと大きなリボンのたれさがる小さな帽子。
これが――リンネメルツェの葬儀のためのドールドレスだった。
「……」
リンネメルツェが白の袖をくいくいと引っ張る。なにか言いたいことがあるようだ。
「ん……あぁ、ねぇメル、それにシャイト、このドレスの銘が知りたいんだってさ」
「お前に任せる」
「はいはい、わかりましたシャイト先生。このドレスの銘は……『なまえのない物語』というの。私の……リンネメルツェの物語の締めくくりに相応しいでしょう?」
リンネメルツェは、表情はなかったが……こくりと頷いた。
白も、同じく小さく頷く。
「そうだね……茉莉花堂にお願いしたかいがあったよ。リンネメルツェというドールのための最高のドールドレスを、ね」
ドール、という単語を聞いて……ユイハとユウハ、それにジルセウスがそれぞれに複雑そうな表情になったのを、メルは見たが……あえて気にしないことにする。
「それじゃあ、ドールドレスのお代を支払うよ」
「……白、本当にいいの?」
不安げに問うメルに、白はものすごくあっけらかんとした表情と声で言う。
「いいもなにもないよ。僕に支払えるのはこの“神の力”しかないんだからね」
0
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる