1 / 5
Chapter 1
イントロ
しおりを挟む
私は早朝の、丁度日が出て来る時に海岸沿いの車道で自転車を漕いだ。漕いで漕いで漕ぎまくった。この気持ちから逃げたい。現実と向き合うのにはまだ早すぎたのだ。我を忘れるがのごとく自転車を漕いで遠くに行こうとした。どこかに行きたい、その一心が私の奥底に眠る衝動を掻き立てていたかのようだ。頭の片隅には「こんなことしても意味がない」と感じていたが今はどうでもいい。どうでもいいほど空っぽになっていたから。誰も理解してくれないし、誰も寄り添ってくれない。私はただ空白を埋めて欲しい、心の中を満たす何かが欲しい。でもそんなものなどなかった。少なくとも私にはなかった。空虚感に見舞われ、ただ現実逃避をする。そんな惨めな私を誰が受け入れてくれるのだろうか。いや、皆そんな私を否定しかしない。肯定なんてされたことない。ただ受け入れてくれればそれでいいのに。ただ悶々としていたら気分も悪くなってくる。そしたら自然と力強くペダルを踏み込んでいた。どこか遠くへ、そう願いながら──。
白銀のビーチ、肌寒く神経を伝うような潮風、水平線を切り裂くかのような日光、この街に生まれ育って来た中で一番美しくなんとも酷な情景だった。私の頭の中に描いた憧憬と似てるようで実は一番直面したくないかたちだったのかもしれない。頭から離れて欲しいけどどうしても執着してしまう。なんとも気持ち悪い感覚だ。人生で味わったことのない、最悪な気分。その感情が全身を伝う。無我夢中に自転車を漕ぎつつけていたが、全身に伝った妙な気配に引っかかって足元を掬われた。
「──やっぱりこの景色が嫌いだ。私を惹きつけようとするから……。遠くに行けないのはお前のせいだ……全部お前が悪いんだ……」
そう感じながらも呆然と目の前の海を眺め始めた。自転車を石垣の角に置き、自然と砂浜のある方へ吸い込まれる。先程の威勢はどこか遠くに行ったみたいだ。そんなことはどうでもいいと言わんばかりにただ眺めていた。色んな悩みや鬱憤がすっと消え去る感覚がたまらない。なかなか抜けないこのループを波打ちとともにリピートする。どうやら私はもうダメみたいだ。掬われた足はもう動くことは無い。ただ静寂な朝凪の中、ただ一人。私は何かを期待しながらこの風景を眺めていた………。
白銀のビーチ、肌寒く神経を伝うような潮風、水平線を切り裂くかのような日光、この街に生まれ育って来た中で一番美しくなんとも酷な情景だった。私の頭の中に描いた憧憬と似てるようで実は一番直面したくないかたちだったのかもしれない。頭から離れて欲しいけどどうしても執着してしまう。なんとも気持ち悪い感覚だ。人生で味わったことのない、最悪な気分。その感情が全身を伝う。無我夢中に自転車を漕ぎつつけていたが、全身に伝った妙な気配に引っかかって足元を掬われた。
「──やっぱりこの景色が嫌いだ。私を惹きつけようとするから……。遠くに行けないのはお前のせいだ……全部お前が悪いんだ……」
そう感じながらも呆然と目の前の海を眺め始めた。自転車を石垣の角に置き、自然と砂浜のある方へ吸い込まれる。先程の威勢はどこか遠くに行ったみたいだ。そんなことはどうでもいいと言わんばかりにただ眺めていた。色んな悩みや鬱憤がすっと消え去る感覚がたまらない。なかなか抜けないこのループを波打ちとともにリピートする。どうやら私はもうダメみたいだ。掬われた足はもう動くことは無い。ただ静寂な朝凪の中、ただ一人。私は何かを期待しながらこの風景を眺めていた………。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
