Seaside Memory

サイダーバグ

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Chapter 1

イントロ

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 私は早朝の、丁度日が出て来る時に海岸沿いの車道で自転車を漕いだ。漕いで漕いで漕ぎまくった。この気持ちから逃げたい。現実と向き合うのにはまだ早すぎたのだ。我を忘れるがのごとく自転車を漕いで遠くに行こうとした。どこかに行きたい、その一心が私の奥底に眠る衝動を掻き立てていたかのようだ。頭の片隅には「こんなことしても意味がない」と感じていたが今はどうでもいい。どうでもいいほど空っぽになっていたから。誰も理解してくれないし、誰も寄り添ってくれない。私はただ空白を埋めて欲しい、心の中を満たす何かが欲しい。でもそんなものなどなかった。少なくとも私にはなかった。空虚感に見舞われ、ただ現実逃避をする。そんな惨めな私を誰が受け入れてくれるのだろうか。いや、皆そんな私を否定しかしない。肯定なんてされたことない。ただ受け入れてくれればそれでいいのに。ただ悶々としていたら気分も悪くなってくる。そしたら自然と力強くペダルを踏み込んでいた。どこか遠くへ、そう願いながら──。
  

 
 白銀のビーチ、肌寒く神経を伝うような潮風、水平線を切り裂くかのような日光、この街に生まれ育って来た中で一番美しくなんとも酷な情景だった。私の頭の中に描いた憧憬と似てるようで実は一番直面したくないかたちだったのかもしれない。頭から離れて欲しいけどどうしても執着してしまう。なんとも気持ち悪い感覚だ。人生で味わったことのない、最悪な気分。その感情が全身を伝う。無我夢中に自転車を漕ぎつつけていたが、全身に伝った妙な気配に引っかかって足元をすくわれた。


 「──やっぱりこの景色が嫌いだ。私を惹きつけようとするから……。遠くに行けないのはお前のせいだ……全部お前が悪いんだ……」


 そう感じながらも呆然と目の前の海を眺め始めた。自転車を石垣の角に置き、自然と砂浜のある方へ吸い込まれる。先程の威勢はどこか遠くに行ったみたいだ。そんなことはどうでもいいと言わんばかりにただ眺めていた。色んな悩みや鬱憤うっぷんがすっと消え去る感覚がたまらない。なかなか抜けないこのループを波打ちとともにリピートする。どうやら私はもうダメみたいだ。掬われた足はもう動くことは無い。ただ静寂な朝凪の中、ただ一人。私は何かを期待しながらこの風景を眺めていた………。
 

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