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Chapter 3
マーメイドとの出会い
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「初めまして、私はなぎさ。遥か遠くの海から来たマーメイドよ。これあなたの物だよね?」
なぎさと名乗るマーメイドは私に話しかけ、紙飛行機にして飛ばしたはずの進路希望調査の紙を持ってきていた。
「あなたの名前は?」
「私の名前は海羽……です……」
あまりに現実離れしている姿を見て、自分が本当に海に身を投げ飛ばしてしまったのかと思うぐらい、目の前の光景を信じられずにいた。これは夢なのか現実なのかはっきり言って今のままではわからない。あまりにも現実とは思えない時こそ、こういう時のお決まりってやつをやってみる。
「いって、痛い…………」
自分の頬を強くつねってみた。よく夢か現実なのか確認する時のお決まりのやつだ。そんなことしているとなぎさが、
「あはは、あなたって面白い子ね! よろしくね、海羽」
「よ、よろしく……」
その後、彼女は大きな声で笑っていた。こんなに純粋無垢な笑い方をする人間を見るのは紗凪以来・・まさかそんな訳ないだろう。さっきの幻聴のせいだろうか、どうしてもなぎさが紗凪にしか見えない。でも別人にすぎないだろうからあまり重ねて見ないようにしよう。とりあえず、なぎさが進路希望調査の紙を渡したがっているから返事でもしよう。
「拾ってくれてありがとう。でもこれはもういらないの。私はこの先、生きる権利がもうないのだから」
いらないことを言ってしまった。私は彼女と初対面なのに。当然、困惑するだろうなと思ったらなぎさがこいう言い始めた。
「どうして生きる権利がもうないの? 海羽の人生はまだまだこれからでしょ? どうしてもう諦めてしまうの? 私には諦めてしまう理由がわからないよ」
人生これからって……そんなことないのに。私は人の命を奪った身。この事実は私を付き纏うし、一生離れない。だったらこんな人生うんざり。でも死ぬのは怖いし、人に心配かける事になる。だから私は、平凡な日々を過ごすように頑張ってきたのに。と言っても彼女は私がどうしてそう思っているのか知らないのか。そう思った私は紗凪という幼馴染がいたこと、その子に軽率な提案をしたせいで事故に遭い命を落としたこと、そしてそれ以降私は人に迷惑かけずに生きていきたいと決意したこと、これらの一連の流れをを説明した。すると、
「んー、別にあなたが負い目を感じる必要はないんじゃない? その亡くなった子、えーっと……紗凪ちゃん……だっけ? 彼女だって海羽が悲しむ顔を見たくは無いと思うよ」
適当に答えてるようで、実際は自分が目を逸らしていたところをまんまと当て、そして私のために親身になってくれている。今日初めて会ったのに。ますます彼女に対して特別な思いを抱いてしまうし、紗凪と重ねて見てしまいそうになる。このままだとダメだと思い、彼女の言葉を否定し始めていた。
「わざわざ私のためになんかありがと。でももういいんだ。これ以上前を向こうとすると自分がわからなくなっちゃうから」
内気な回答で彼女の発言を否定をし、この場を去ろうとする。やっぱり彼女といたいという気持ちは少なからず残る。けれども、彼女の杞憂とも読み取れる愛のある優しさに耐えられそうにない。しかし、彼女はまだ諦めていなかった。
「だめだよ! こんな表情の人、ほっとけないでしょ。それに、その紗凪って人は海羽が悲しむのを見たくは無いんじゃないかな? 紗凪ちゃんはきっと今の海羽のこと見たら悲しむと思うよ……」
そう彼女は笑顔で怒り始めた。こんなに素直で優しい人……やっぱり紗凪が亡くなって以来会った事がない。そして自分も素直になっていることも紗凪が亡くなって以来初めてかもしれない。この人ならきっと大丈夫という根拠のない確証が自分の中に芽生えていた。もっとこの人と話したい、もっとこの人と一緒にいたい。いつしかこの気持ちに勝るものがなくなっていた。そして彼女から想像もしなかったことを提案をされる。
「んー、いくら言っても埒が明かないしな……。言いたいことが伝わっていないみたいだし……。んー……あ、そうだ! 折角だし私と一緒に踊らない? 踊ったら嫌なことも吹き飛ぶよ!」
いつもの私なら「馬鹿じゃないの?」と思う。ただ今日は気が狂っているのだろうか。馬鹿げてるようなことでもやりたいと思う。今はそんなことがどうでもいいと思うぐらいこの現実からかけ離れている、これから一生経験することがない御伽噺のような時間を楽しみたいと思うようになった。
「私、紗凪が亡くなってから平凡な日々を過ごせたらいいなって思っていた。それで十分だと。でもなぎさと話していると何故か楽しいんだ。素直になれる。だから私、なぎさと遊びたいし、なぎさと踊りたい。 根拠はないけど、でもこの瞬間を楽しむことに意義がある気がするの。だからもう少し一緒にいてくれないかな?」
「ほんと!? やった! 海羽がそんなこと言ってくれるなんて嬉しい! 私も海羽ともっと遊びたい!」
彼女は嬉しそうに返事をする。何度見てもその笑顔は守りたくなる。そうか、こういう感覚が十年前からなくなっていたんだ。紗凪がなくなってからこう思わせてくれる人がいなかった。愛おしくも辛い気持ちに陥りそうになる。けれど、楽しむと決めたからには楽しみたいと思う。そして彼女は説明をし始めた。
「海の中で先祖代々から伝わっている踊りがあってね、それがすっごく楽しいの。古くから伝わる歌に合わせて踊るんだけどね、海の中の魚たちもこの歌を知っているんだー! すっごく有名なの」
どうやら話をよくよく聞いてみると、海の世界とやらにも童謡的な曲が存在しており、それに合わせて踊るのが定番らしい。確かに、人間の世界には童謡といった類のものが存在するし、それに合わせて踊る踊りもあるだろう。私も小さい頃はテレビで流れてくる童謡に合わせて踊ったりはしゃいだりしていたものだ。それをやるのかと思うとどこか小っ恥ずかしいが、彼女はそんなことを気にせず歌い、踊り始めた。
ららららら~♪
彼女の歌声は透き通っていて、耳から身体にゆったりと入り込み身体は自然と彼女の歌声を本能的に求めるようになっていた。そして初めて聞いた曲なのにその歌声に合わせて徐々に身体を動き始めた。身体がリズムをとったら今度は彼女の踊りに合わせて踊ってみる。自分は運動神経が悪い方ではなかった為か割とすぐに真似できた。
「海羽すごーい! 踊るの上手だね! 私より上手じゃないの?」
私の方が先にこの踊りを知っているのにと言わんばかりに、なぎさは口を尖らせ拗ねた顔をこちらに見せてきた。感情が表に出てわかりやすいし、それが何より可愛いかった。このままもっと拗ねた表情も見たいと思ったが、背徳感があるのでそれは流石にやめた。にしても、見様見真似で踊ったが結構楽しい。童心に帰ったかのような気持ちもあるのだろうが、普段こんなに素直になることがないから余計楽しいという感じが新鮮に感じる。最初はアカペラで彼女が歌っていたが、段々軽快な音楽が聞こえてくるような感覚に陥った。楽しいっていうのはこういうことなのか。幻聴と言っても過言ではないぐらいに壮大な伴奏が聴こえてくるぐらいに自分はこの非現実的な時間に没入していた。
「楽しい……楽しいよ、なぎさ……!」
つい思ったことを口にしてしまった。溢れ出てくるこの感情を思わず共有したくなった。すると嬉しそうになぎさが反応する。
「ほんとに!? 海羽に喜んでもらえて嬉しいな。てか、さっきまで海羽の表情暗かったのに今はすごく明るい顔してるよ。海羽に会った時から海羽って笑ったら可愛いにって思ってたんだよね。だから今の海羽ってとても素直で可愛いと思う! ありのままの海羽でいなよ! きっと今の海羽のこと見たら紗凪ちゃんも喜ぶと思うよ!」
私はこの言葉に救われた。今までこれを言われたかったんだろう。自分で否定してきたところもあって、自分はもはや存在していないんじゃないかと思うこともあった。けれども彼女は、そんな私を肯定してくれている。もちろん、私のした罪は一生消えることはないし、紗凪を助け出すことはできない。けれどもお互いに悲しむことはしたくはない。彼女の分まで心の底から人生を楽しむ、これが今生きている私が本当にするべきことなのではと思った。暗くて綺麗な記憶が軽い傷になる前に、私は全力で踊る。なぎさも水飛沫をあげ、はしゃぎ、彼女の踏むステップで軽快なビートが聴こえる。平凡な日常は厭世的で、素晴らしく滑稽なものだったのだと思う。そう感じるぐらい、今のこの時は最高に楽しいし愛おしい。こんなに楽しいという単語を連発するのは本当に久々だ。こんな日々が続けばなんて……そう願いながら彼女と無邪気に踊り続けた。
「なぎさ……楽しかった……楽しかったよ!」
「海羽が楽しそうで何よりだよ……! やっとその笑顔が見れて嬉しい……七年ぶりに見れて嬉しい…………」
「あれ、今なんか言った?」
「ううん。何でもないよ!!」
彼女は何か誤魔化すように笑った。本当にわかりやすすぎる。「海羽が楽しそうで何よりだよ」までは聞こえたが、それ以降は聞こえなかった。でも明らかに何か隠しているようだった。この時は無理に聞き出すのも野暮な気がした為、触れないようにした。すると彼女は急に何かを見つけたと言わんばかりに先に走る。「待ってー!」と言ってみるが、無我夢中になって走る彼女を見て放っておけなかった。
「見て見て! 貝殻! すごい可愛い!」
なぎさは隣で可愛くはしゃぐ。可愛いっていうのが生きる上での無難に過ごすための口癖みたいに思っていた私だが、素直に可愛いと思い、素直に口にだしていた。
「わぁ、すごい! 綺麗だし可愛いね!」
と私は大きな声で返事をした。彼女は、この時間を心から共有できていることに対して嬉しそうだった。そんな彼女を見て私も嬉しかった。そして、この気持ちを共有できていてこの時間すらも共有できている、繋がっている感じが若かりし頃には有り、今まで失われし最高の至福であった。金輪際ないと思っていたぐらいの至福さである。段々昔の自分に戻ってきている、そんなような感覚になり、不思議な気分だ。さっきまで素直に生きれないって言ってきて七年過ごしたとは思えないぐらいに。
にしても、なぎさを見ると淡い期待が膨らむ感じがする。どういう期待かはまだわからないけど今まで感じたことない感じだ。同時に胸を締め付けるかのような想いも膨らむ。違和感にしか感じないし、なんか嫌いだ。今は最高に感じるが、こういう時間の後に来る失う時の喪失感が想像つくからだ。紗凪が亡くなった時もそうだった。また同じ運命を辿るのが怖いのだ。今のこの状況があの時とに過ぎているようにも感じると余計怖い。そんな運命ひっくり返してやりたいが、別れが来る覚悟も持たないと多分また素直に生きられなくなる気がする。だからある程度の覚悟は持つようにしよう、そう心に決めて彼女と残りの時間を楽しむことにした。
なぎさと名乗るマーメイドは私に話しかけ、紙飛行機にして飛ばしたはずの進路希望調査の紙を持ってきていた。
「あなたの名前は?」
「私の名前は海羽……です……」
あまりに現実離れしている姿を見て、自分が本当に海に身を投げ飛ばしてしまったのかと思うぐらい、目の前の光景を信じられずにいた。これは夢なのか現実なのかはっきり言って今のままではわからない。あまりにも現実とは思えない時こそ、こういう時のお決まりってやつをやってみる。
「いって、痛い…………」
自分の頬を強くつねってみた。よく夢か現実なのか確認する時のお決まりのやつだ。そんなことしているとなぎさが、
「あはは、あなたって面白い子ね! よろしくね、海羽」
「よ、よろしく……」
その後、彼女は大きな声で笑っていた。こんなに純粋無垢な笑い方をする人間を見るのは紗凪以来・・まさかそんな訳ないだろう。さっきの幻聴のせいだろうか、どうしてもなぎさが紗凪にしか見えない。でも別人にすぎないだろうからあまり重ねて見ないようにしよう。とりあえず、なぎさが進路希望調査の紙を渡したがっているから返事でもしよう。
「拾ってくれてありがとう。でもこれはもういらないの。私はこの先、生きる権利がもうないのだから」
いらないことを言ってしまった。私は彼女と初対面なのに。当然、困惑するだろうなと思ったらなぎさがこいう言い始めた。
「どうして生きる権利がもうないの? 海羽の人生はまだまだこれからでしょ? どうしてもう諦めてしまうの? 私には諦めてしまう理由がわからないよ」
人生これからって……そんなことないのに。私は人の命を奪った身。この事実は私を付き纏うし、一生離れない。だったらこんな人生うんざり。でも死ぬのは怖いし、人に心配かける事になる。だから私は、平凡な日々を過ごすように頑張ってきたのに。と言っても彼女は私がどうしてそう思っているのか知らないのか。そう思った私は紗凪という幼馴染がいたこと、その子に軽率な提案をしたせいで事故に遭い命を落としたこと、そしてそれ以降私は人に迷惑かけずに生きていきたいと決意したこと、これらの一連の流れをを説明した。すると、
「んー、別にあなたが負い目を感じる必要はないんじゃない? その亡くなった子、えーっと……紗凪ちゃん……だっけ? 彼女だって海羽が悲しむ顔を見たくは無いと思うよ」
適当に答えてるようで、実際は自分が目を逸らしていたところをまんまと当て、そして私のために親身になってくれている。今日初めて会ったのに。ますます彼女に対して特別な思いを抱いてしまうし、紗凪と重ねて見てしまいそうになる。このままだとダメだと思い、彼女の言葉を否定し始めていた。
「わざわざ私のためになんかありがと。でももういいんだ。これ以上前を向こうとすると自分がわからなくなっちゃうから」
内気な回答で彼女の発言を否定をし、この場を去ろうとする。やっぱり彼女といたいという気持ちは少なからず残る。けれども、彼女の杞憂とも読み取れる愛のある優しさに耐えられそうにない。しかし、彼女はまだ諦めていなかった。
「だめだよ! こんな表情の人、ほっとけないでしょ。それに、その紗凪って人は海羽が悲しむのを見たくは無いんじゃないかな? 紗凪ちゃんはきっと今の海羽のこと見たら悲しむと思うよ……」
そう彼女は笑顔で怒り始めた。こんなに素直で優しい人……やっぱり紗凪が亡くなって以来会った事がない。そして自分も素直になっていることも紗凪が亡くなって以来初めてかもしれない。この人ならきっと大丈夫という根拠のない確証が自分の中に芽生えていた。もっとこの人と話したい、もっとこの人と一緒にいたい。いつしかこの気持ちに勝るものがなくなっていた。そして彼女から想像もしなかったことを提案をされる。
「んー、いくら言っても埒が明かないしな……。言いたいことが伝わっていないみたいだし……。んー……あ、そうだ! 折角だし私と一緒に踊らない? 踊ったら嫌なことも吹き飛ぶよ!」
いつもの私なら「馬鹿じゃないの?」と思う。ただ今日は気が狂っているのだろうか。馬鹿げてるようなことでもやりたいと思う。今はそんなことがどうでもいいと思うぐらいこの現実からかけ離れている、これから一生経験することがない御伽噺のような時間を楽しみたいと思うようになった。
「私、紗凪が亡くなってから平凡な日々を過ごせたらいいなって思っていた。それで十分だと。でもなぎさと話していると何故か楽しいんだ。素直になれる。だから私、なぎさと遊びたいし、なぎさと踊りたい。 根拠はないけど、でもこの瞬間を楽しむことに意義がある気がするの。だからもう少し一緒にいてくれないかな?」
「ほんと!? やった! 海羽がそんなこと言ってくれるなんて嬉しい! 私も海羽ともっと遊びたい!」
彼女は嬉しそうに返事をする。何度見てもその笑顔は守りたくなる。そうか、こういう感覚が十年前からなくなっていたんだ。紗凪がなくなってからこう思わせてくれる人がいなかった。愛おしくも辛い気持ちに陥りそうになる。けれど、楽しむと決めたからには楽しみたいと思う。そして彼女は説明をし始めた。
「海の中で先祖代々から伝わっている踊りがあってね、それがすっごく楽しいの。古くから伝わる歌に合わせて踊るんだけどね、海の中の魚たちもこの歌を知っているんだー! すっごく有名なの」
どうやら話をよくよく聞いてみると、海の世界とやらにも童謡的な曲が存在しており、それに合わせて踊るのが定番らしい。確かに、人間の世界には童謡といった類のものが存在するし、それに合わせて踊る踊りもあるだろう。私も小さい頃はテレビで流れてくる童謡に合わせて踊ったりはしゃいだりしていたものだ。それをやるのかと思うとどこか小っ恥ずかしいが、彼女はそんなことを気にせず歌い、踊り始めた。
ららららら~♪
彼女の歌声は透き通っていて、耳から身体にゆったりと入り込み身体は自然と彼女の歌声を本能的に求めるようになっていた。そして初めて聞いた曲なのにその歌声に合わせて徐々に身体を動き始めた。身体がリズムをとったら今度は彼女の踊りに合わせて踊ってみる。自分は運動神経が悪い方ではなかった為か割とすぐに真似できた。
「海羽すごーい! 踊るの上手だね! 私より上手じゃないの?」
私の方が先にこの踊りを知っているのにと言わんばかりに、なぎさは口を尖らせ拗ねた顔をこちらに見せてきた。感情が表に出てわかりやすいし、それが何より可愛いかった。このままもっと拗ねた表情も見たいと思ったが、背徳感があるのでそれは流石にやめた。にしても、見様見真似で踊ったが結構楽しい。童心に帰ったかのような気持ちもあるのだろうが、普段こんなに素直になることがないから余計楽しいという感じが新鮮に感じる。最初はアカペラで彼女が歌っていたが、段々軽快な音楽が聞こえてくるような感覚に陥った。楽しいっていうのはこういうことなのか。幻聴と言っても過言ではないぐらいに壮大な伴奏が聴こえてくるぐらいに自分はこの非現実的な時間に没入していた。
「楽しい……楽しいよ、なぎさ……!」
つい思ったことを口にしてしまった。溢れ出てくるこの感情を思わず共有したくなった。すると嬉しそうになぎさが反応する。
「ほんとに!? 海羽に喜んでもらえて嬉しいな。てか、さっきまで海羽の表情暗かったのに今はすごく明るい顔してるよ。海羽に会った時から海羽って笑ったら可愛いにって思ってたんだよね。だから今の海羽ってとても素直で可愛いと思う! ありのままの海羽でいなよ! きっと今の海羽のこと見たら紗凪ちゃんも喜ぶと思うよ!」
私はこの言葉に救われた。今までこれを言われたかったんだろう。自分で否定してきたところもあって、自分はもはや存在していないんじゃないかと思うこともあった。けれども彼女は、そんな私を肯定してくれている。もちろん、私のした罪は一生消えることはないし、紗凪を助け出すことはできない。けれどもお互いに悲しむことはしたくはない。彼女の分まで心の底から人生を楽しむ、これが今生きている私が本当にするべきことなのではと思った。暗くて綺麗な記憶が軽い傷になる前に、私は全力で踊る。なぎさも水飛沫をあげ、はしゃぎ、彼女の踏むステップで軽快なビートが聴こえる。平凡な日常は厭世的で、素晴らしく滑稽なものだったのだと思う。そう感じるぐらい、今のこの時は最高に楽しいし愛おしい。こんなに楽しいという単語を連発するのは本当に久々だ。こんな日々が続けばなんて……そう願いながら彼女と無邪気に踊り続けた。
「なぎさ……楽しかった……楽しかったよ!」
「海羽が楽しそうで何よりだよ……! やっとその笑顔が見れて嬉しい……七年ぶりに見れて嬉しい…………」
「あれ、今なんか言った?」
「ううん。何でもないよ!!」
彼女は何か誤魔化すように笑った。本当にわかりやすすぎる。「海羽が楽しそうで何よりだよ」までは聞こえたが、それ以降は聞こえなかった。でも明らかに何か隠しているようだった。この時は無理に聞き出すのも野暮な気がした為、触れないようにした。すると彼女は急に何かを見つけたと言わんばかりに先に走る。「待ってー!」と言ってみるが、無我夢中になって走る彼女を見て放っておけなかった。
「見て見て! 貝殻! すごい可愛い!」
なぎさは隣で可愛くはしゃぐ。可愛いっていうのが生きる上での無難に過ごすための口癖みたいに思っていた私だが、素直に可愛いと思い、素直に口にだしていた。
「わぁ、すごい! 綺麗だし可愛いね!」
と私は大きな声で返事をした。彼女は、この時間を心から共有できていることに対して嬉しそうだった。そんな彼女を見て私も嬉しかった。そして、この気持ちを共有できていてこの時間すらも共有できている、繋がっている感じが若かりし頃には有り、今まで失われし最高の至福であった。金輪際ないと思っていたぐらいの至福さである。段々昔の自分に戻ってきている、そんなような感覚になり、不思議な気分だ。さっきまで素直に生きれないって言ってきて七年過ごしたとは思えないぐらいに。
にしても、なぎさを見ると淡い期待が膨らむ感じがする。どういう期待かはまだわからないけど今まで感じたことない感じだ。同時に胸を締め付けるかのような想いも膨らむ。違和感にしか感じないし、なんか嫌いだ。今は最高に感じるが、こういう時間の後に来る失う時の喪失感が想像つくからだ。紗凪が亡くなった時もそうだった。また同じ運命を辿るのが怖いのだ。今のこの状況があの時とに過ぎているようにも感じると余計怖い。そんな運命ひっくり返してやりたいが、別れが来る覚悟も持たないと多分また素直に生きられなくなる気がする。だからある程度の覚悟は持つようにしよう、そう心に決めて彼女と残りの時間を楽しむことにした。
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