『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第1巻

第12話 笑顔の仕事

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「めちゃくちゃ楽しいです!今日の仕事!」

夜十一時に入ってきた二十代の女性は、開口一番そう言った。

声が大きすぎた。目が笑っていなかった。

ルーカスは「そうですか」と言いながら席に案内した。

「ミーナっていいます。ミーナって呼んでください」

「ルーカスです」

「外国人さんだ!いいですね、かっこいい!」

テンションが高い。声が弾んでいる。でも、全部が少し速すぎる。

渇望を見た。

——静かにしていたい。

それだけだ。

「何にしますか」

「なんか、テンション上がるやつ!今日もっと飲みたい気分!」

ルーカスは少し考えて、ノンアルコールのスパークリングウォーターに、ミントとキュウリとライムを入れたモクテルを作った。

「え、ノンアルですか?」

「今夜のあなたには、これが合うと思って」

「なんでですか、アルコールでよかったのに!」

「飲んでみてください」

ミーナは少し不満そうにグラスを受け取った。

一口飲んだ。

「……涼しい」

「ミントとキュウリです」

「なんか、頭が冷える感じ」

「そうでしょう」

ミーナはしばらく黙った。

テンションが、すうっと落ちた。

「……疲れた」

「そうですか」

「ずっと笑ってたんです。今日。接客業なので」

「それは大変だった」

「楽しいのは本当なんですよ。でも、ずっと笑ってると、顔が固まる感じがして」

「笑顔の筋肉が疲れるんですね」

「そうそう。なんかそれを言い訳にしたくなくて、さっき大声で言ってしまった」

「見えてましたよ」

「え?」

「笑顔の人が来るときは、だいたいわかります」

ミーナは少し目を丸くした。

「怖い」

「すみません」

「いや、なんか……安心した」

ミーナはグラスをゆっくり飲んだ。

「ここ、しんどい顔して来てもいいですか」

「もちろんです。というか、それが普通です」

「普通なんだ」

「笑顔で来るバーに、理由があるとしたら、笑顔が必要な場所に来たくなかったのかもしれない」

ミーナはじっとルーカスを見た。

「……言い方がうまいですね」

「日本語の練習をしています」

ミーナは笑った。今度は目も笑っていた。

「また来ます。次はしんどい顔で来ます」

「お待ちしています」
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