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第1巻
第16話 娘の話
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翌月、娘だけが来た。
「父が連れてきてくれたお礼を言いたくて」
「お礼を言うのは私ではないですよ」
「でも、ルーカスさんがあの言葉を引き出してくれたから」
娘——亜里沙——はカウンターに座った。
「父、ああいうこと言わない人なんです。ずっと」
「そうでしたか」
「でも、私もずっと聞きたかったんだと思います。自分でそれに気づいてなかったけど」
「聞いてよかったですね」
「はい」
亜里沙の渇望を見た。
——自分の言葉で生きていきたい。
「亜里沙さん、今、何をされてますか」
「会社員です。企画職」
「好きですか」
「……嫌いじゃないけど、好きかって言われると、わからない」
「やりたいことがあるんですか」
亜里沙は少し止まった。
「……文章を書くのが好きで。昔から。でも仕事にするのは怖くて」
「なぜ怖い?」
「好きなものを仕事にして、嫌いになったら嫌だから」
「それは本当の怖さですか」
亜里沙はルーカスを見た。
「……本当の怖さ?」
「嫌いになることが怖いのか、それとも、評価されないことが怖いのか」
長い沈黙。
「……後者、だと思います」
「正直に言えましたね」
「言えたな」
今夜のグラスは、ホワイトワインにパッションフルーツとシナモンのカクテル。少しだけ辛さがある。
「これ、甘さの中に辛みがある」
「はい」
「なんで?」
「甘いだけのものより、少し複雑な方が、飲んだ後に記憶に残るので」
亜里沙はグラスを見た。
「……そっか」
「あなたの文章も、そういうものになると思います」
「なんで知ってるんですか」
「知らないです。でも、そういう人がここに来ることが多い」
亜里沙は笑った。
「変なバーテンダーですね」
「よく言われます」
「父が連れてきてくれたお礼を言いたくて」
「お礼を言うのは私ではないですよ」
「でも、ルーカスさんがあの言葉を引き出してくれたから」
娘——亜里沙——はカウンターに座った。
「父、ああいうこと言わない人なんです。ずっと」
「そうでしたか」
「でも、私もずっと聞きたかったんだと思います。自分でそれに気づいてなかったけど」
「聞いてよかったですね」
「はい」
亜里沙の渇望を見た。
——自分の言葉で生きていきたい。
「亜里沙さん、今、何をされてますか」
「会社員です。企画職」
「好きですか」
「……嫌いじゃないけど、好きかって言われると、わからない」
「やりたいことがあるんですか」
亜里沙は少し止まった。
「……文章を書くのが好きで。昔から。でも仕事にするのは怖くて」
「なぜ怖い?」
「好きなものを仕事にして、嫌いになったら嫌だから」
「それは本当の怖さですか」
亜里沙はルーカスを見た。
「……本当の怖さ?」
「嫌いになることが怖いのか、それとも、評価されないことが怖いのか」
長い沈黙。
「……後者、だと思います」
「正直に言えましたね」
「言えたな」
今夜のグラスは、ホワイトワインにパッションフルーツとシナモンのカクテル。少しだけ辛さがある。
「これ、甘さの中に辛みがある」
「はい」
「なんで?」
「甘いだけのものより、少し複雑な方が、飲んだ後に記憶に残るので」
亜里沙はグラスを見た。
「……そっか」
「あなたの文章も、そういうものになると思います」
「なんで知ってるんですか」
「知らないです。でも、そういう人がここに来ることが多い」
亜里沙は笑った。
「変なバーテンダーですね」
「よく言われます」
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