『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第1巻

第27話 秘密の日

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ある夜、ルーカスは一人でカウンターに座った。

営業時間前。

棚のボトルを眺めながら、一人でグラスを傾けた。

故郷の酒はない。あの世界の酒は、この世界には存在しない。

転移してきた夜のことを思い出した。

光の渦。激しい音。気がついたら、真夜中の東京のビルの屋上に立っていた。

最初の一週間は、何も分からなかった。

言葉も、食べ物も、お金の仕組みも。

ただ、力だけはあった。通りすがりの人の渇望が、見えた。

その力が、今この仕事に繋がっている。

「変なものだ」

一人でそう言った。

呟いた言葉が、静かなバーに消えた。

今夜は何を飲もうか。

棚を眺めて、梅酒を選んだ。

老人が来た夜、出した梅酒。あれから少し仲良くなったような気がしている、このボトルと。

「おいしい」

一人で言った。

本当においしいと思った。

この世界の酒は、いくつかがすでに好きになった。

梅酒と、シングルモルトと、バタフライピーのカクテルと、篠田先生に出した十八年ものと。

好きなものが増えていく。

それは、この世界に根ざしていくことと、同じことだ——とルーカスは思った。

故郷に帰れるかどうか、まだわからない。

でも今夜は、帰りたいとはあまり思わなかった。
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