『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第2巻

第2話 言葉の重さ

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礼奈は二週間後に来た。

今夜は少し疲れた顔をしていた。

「大変なことがありましたか」

「……ゲラ(校正刷り)に、大きなミスを見落とした」

席に座りながら、礼奈は言った。

「発売後に気づかれて、増刷で修正することになって。著者さんに謝りに行って」

「それは辛かった」

「謝罪文を書くのに、三時間かかった。一番言葉に気をつける仕事をしているのに、言葉が出なくて」

ルーカスは棚を見た。

今夜は何を作るべきか。

渇望を見た。

礼奈が今夜求めているのは——責めないでほしい。自分で一番責めているから。

「ジャスミンのカクテルにします」

「ジャスミン?」

「ジャスミンは、物事を手放す力があると言われています。私の故郷では」

「手放す」

「抱えすぎているものを、少し置いていいという意味で」

礼奈はグラスを受け取った。

透き通った黄みがかった色。香りが立つ。

「……きれいな色」

「ジャスミンティーをベースにして、ジンと蜂蜜を少し加えています」

礼奈は一口飲んだ。

少し目を細めた。

「おいしい。でも、なんか涙が出そう」

「そういうお酒です」

「そういうって何ですか」

「張り詰めたものを緩める香りがある。緩むと、抑えていたものが出てくる」

礼奈は目を伏せた。

「……著者さんが、謝りに行ったら、怒らなかったんです」

「そうですか」

「むしろ、『あなたが今まで守ってくれたから、一冊も刷り直しがなかった。今回のことは、ただのミスです』って言ってくれて」

「いい方ですね」

「……なんか、その言葉が逆に、頭から離れない。責められた方が楽だったかもしれない、と思うくらい」

「責められない方が、自分を責め続けてしまいますか」

「そう。誰かに責められれば終わるのに、優しくされると終わらない」

ルーカスはそれを聞いて、少し考えた。

「私も、似たような経験があります」

「ルーカスさんも?」

「故郷に、兄がいました。三人。いちばん上の兄が、ある時私に言ったんです。『お前は悪くない』と」

「それは……」

「その時、私のせいで何かが起きていて、私は謝りたかった。でも兄が先に、それを言ってしまった」

「どうしましたか」

「三日間、泣きました」

礼奈は少し黙った。

「……泣けましたか、今夜」

「はい。少し」

「いいことじゃないですか」

「そうですかね」

「泣けた、ということは、まだ終わっていないということ。まだ続けるつもりがある」

礼奈はグラスをもう一口飲んだ。

「……続けます。当たり前ですけど」

「当たり前にできることは、当たり前じゃないことが多い」

礼奈は少し笑った。

「ルーカスさん、なんか、外国人なのに日本語が上手ですよね」

「練習しました」

「どこで」

「……独学です。聞いて、覚えて」

「外国語を独学で?」

「必要に迫られると、できるものです」

礼奈はグラスを置いた。

「また来ます」

「お待ちしています」

「次は、疲れてない顔で来ます」

「疲れた顔でも来ていいですよ」

礼奈は笑って、立ち上がった。
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