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第2巻
第17話 卒業の春
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三月の夜。
梶原が来た。少し大人びた顔をしていた。
「卒業しました」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。四月から、オーケストラの契約団員になります」
「それは素晴らしい」
梶原は席に座った。
「最初にここに来た夜、覚えてますか」
「演奏会の前夜でしたね」
「そう。あれから一年半ちょっと。あの夜のバジルのモクテル、よく覚えてる」
「飲みますか、また」
「飲みたいです。でも、今夜はお酒で」
「どんなものが?」
「その時々でおまかせしてきたので、今日も」
渇望を見た。
——自信。
「ジンリッキーを作ります」
「どんなの?」
「ジンとライムとソーダ。シンプルですが、ジンの本来の力が一番出るカクテルです」
「シンプルが一番?」
「技巧より、素材が出る。演奏でもそういうことがありませんか」
梶原は少し考えた。
「……あります。難しい曲より、シンプルな曲の方が実力が出るって言われます」
「そうでしょう」
グラスを出すと、梶原は一口飲んで、少し目を細めた。
「……うまい。シンプルなのにうまい」
「素材を信じていいということです。あなたの場合は、自分の音を」
梶原はグラスを持ったまま、ルーカスを見た。
「ルーカスさん、一年半で色々言ってもらったけど、一番よかった言葉が今のかもしれない」
「そうですか」
「自分の音を信じる。それって、一番難しいことで」
「難しい」
「でも、今は少し、信じられる気がしてる」
「成長しましたね」
「そっか、成長か」
梶原はグラスを傾けた。
「ルーカスさんは、何かを信じていますか」
ルーカスは少し考えた。
「この場所が、誰かの役に立っていると。それは信じています」
「それ、確信ですね」
「そうかもしれない」
「自信、あるんだ」
「少しは」
梶原は笑った。
「俺も、自信を持てるようにします。全部じゃなくていいから、少しは」
「それで十分です」
梶原は今夜、二杯飲んで帰った。
帰り際に「また来ます、演奏会のお知らせしますね」と言った。
「ぜひ」
梶原が階段を上がっていく足音が、今夜は軽かった。
梶原が来た。少し大人びた顔をしていた。
「卒業しました」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。四月から、オーケストラの契約団員になります」
「それは素晴らしい」
梶原は席に座った。
「最初にここに来た夜、覚えてますか」
「演奏会の前夜でしたね」
「そう。あれから一年半ちょっと。あの夜のバジルのモクテル、よく覚えてる」
「飲みますか、また」
「飲みたいです。でも、今夜はお酒で」
「どんなものが?」
「その時々でおまかせしてきたので、今日も」
渇望を見た。
——自信。
「ジンリッキーを作ります」
「どんなの?」
「ジンとライムとソーダ。シンプルですが、ジンの本来の力が一番出るカクテルです」
「シンプルが一番?」
「技巧より、素材が出る。演奏でもそういうことがありませんか」
梶原は少し考えた。
「……あります。難しい曲より、シンプルな曲の方が実力が出るって言われます」
「そうでしょう」
グラスを出すと、梶原は一口飲んで、少し目を細めた。
「……うまい。シンプルなのにうまい」
「素材を信じていいということです。あなたの場合は、自分の音を」
梶原はグラスを持ったまま、ルーカスを見た。
「ルーカスさん、一年半で色々言ってもらったけど、一番よかった言葉が今のかもしれない」
「そうですか」
「自分の音を信じる。それって、一番難しいことで」
「難しい」
「でも、今は少し、信じられる気がしてる」
「成長しましたね」
「そっか、成長か」
梶原はグラスを傾けた。
「ルーカスさんは、何かを信じていますか」
ルーカスは少し考えた。
「この場所が、誰かの役に立っていると。それは信じています」
「それ、確信ですね」
「そうかもしれない」
「自信、あるんだ」
「少しは」
梶原は笑った。
「俺も、自信を持てるようにします。全部じゃなくていいから、少しは」
「それで十分です」
梶原は今夜、二杯飲んで帰った。
帰り際に「また来ます、演奏会のお知らせしますね」と言った。
「ぜひ」
梶原が階段を上がっていく足音が、今夜は軽かった。
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