『異界酒場 ルーナ』

みぎみみ

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第3巻

第24話 礼奈との約束の夜

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四月二十九日。

出発の前日。

礼奈が来た。

「約束通り、来ました」

「来てくれてありがとうございます」

礼奈は端の席に座った。

ルーカスはいつもの白ワインのカクテルを作った。アルマニャックを少し垂らしたもの。最初に出したものと同じ。

「最初に出したものと同じです」

「同じにしてくれたんですね」

「そうしたくて」

礼奈はグラスを受け取って、香りを嗅いだ。

「……同じ香り」

「はい」

「最初に来た時、何の話をしましたか」

「言葉を届けたい、という話でした」

「そうでしたね。あれから一年以上か」

「一年半くらいです」

礼奈はグラスを傾けた。

「今夜、何か言えることがあれば、言っておきたくて」

「どうぞ」

「ルーカスさんがここにいてくれて、良かったです。私の言葉が届く感じがする場所が、ここだったから」

「ありがとうございます」

「この世界の地図にない場所から来た人が、言葉を大切に扱ってくれた。それが嬉しかったし——助かりました」

「私も助かりました」

「何に?」

「あなたが言葉を丁寧に扱う人だと分かった時、少しだけ秘密を話せた。それが、軽くなる始まりでした」

礼奈はグラスを持ったまま、少し目を細めた。

「向こうに帰って、また話を聞く仕事をしますか」

「できるかどうか分かりません。でも、この力の使い方は変わらないと思います」

「向こうでも、渇望が見えますか」

「見えるはずです。どこへ行っても、この力はある」

「なら、向こうでも誰かの役に立てる」

「そう思います」

礼奈はグラスを飲んだ。

「一つだけ言っていいですか」

「どうぞ」

「いつかこちらへ戻ることができたら——また来てください。このバーに」

「来ます。誓います」

「誓わなくていいですよ。気持ちだけで」

「気持ちとして、来ます」

礼奈は少し笑った。

「それで十分です」

二杯目を飲み終える頃に、礼奈は帰り支度をした。

「さよならは言わないですよ」

「言わなくていいです」

「おやすみなさい、と言います」

「おやすみなさい」

「良い帰り道を」

礼奈は階段を上がっていった。

足音が小さくなって、消えた。

ルーカスはカウンターを拭いた。

今夜も、良かった。
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