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第5巻
第7話 東京の最後の夜
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六日目。
明日の夜、ヴァルドへ戻る。
今夜は、カウンターに最後に立った。
高橋と清子がいて、常連が何人か来た。
特別なことは何もしなかった。いつもの夜と同じように、グラスを作って、話を聞いた。
そのことが——特別だった。
「いつも通り」でいられることが、この場所の強さだと思った。
閉店後、高橋と清子と三人でカウンターに座った。
「また来られますか」とルーカスが聞いた。
「来られると思っています。双方向の転移が完成したら」
「いつ頃ですか」
「来年の春頃が目処です」
「来年の春か」と清子が言った。「長いですね」
「長いですが——今度は、帰り道があります。前回は帰り道がなかった」
「それは大きな違いですね」と高橋が言った。
「そうです。今夜帰るのは、また戻ってくるためです」
「分かっています」
三人で、最後のグラスを飲んだ。
梅酒を出した。高橋が選んだ銘柄の梅酒。
「梅酒は変わりませんね」とルーカスが言った。
「変えませんでした。ルーカスさんが向こうで恋しがると思って」
「恋しかったです」
「そうでしょう」と清子が笑った。
一杯飲み終えて、ルーカスは立ち上がった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」と高橋が言った。
「向こうのみなさんに、よろしく伝えてください」
「伝えます。こちらのみなさんのことも、伝えます」
階段を上がる途中で振り返ると、高橋と清子が並んで立っていた。
二人が並ぶと、カウンターの景色が完成している気がした。
「……ありがとうございました」
「また来てください」と二人が言った。
十三段。
扉を開けた。
東京の夏の夜。
蝉の声。街の光。
これが、また会うまでの東京だ。
「また来ます」
声に出した。
東京の夜に向かって。
明日の夜、ヴァルドへ戻る。
今夜は、カウンターに最後に立った。
高橋と清子がいて、常連が何人か来た。
特別なことは何もしなかった。いつもの夜と同じように、グラスを作って、話を聞いた。
そのことが——特別だった。
「いつも通り」でいられることが、この場所の強さだと思った。
閉店後、高橋と清子と三人でカウンターに座った。
「また来られますか」とルーカスが聞いた。
「来られると思っています。双方向の転移が完成したら」
「いつ頃ですか」
「来年の春頃が目処です」
「来年の春か」と清子が言った。「長いですね」
「長いですが——今度は、帰り道があります。前回は帰り道がなかった」
「それは大きな違いですね」と高橋が言った。
「そうです。今夜帰るのは、また戻ってくるためです」
「分かっています」
三人で、最後のグラスを飲んだ。
梅酒を出した。高橋が選んだ銘柄の梅酒。
「梅酒は変わりませんね」とルーカスが言った。
「変えませんでした。ルーカスさんが向こうで恋しがると思って」
「恋しかったです」
「そうでしょう」と清子が笑った。
一杯飲み終えて、ルーカスは立ち上がった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」と高橋が言った。
「向こうのみなさんに、よろしく伝えてください」
「伝えます。こちらのみなさんのことも、伝えます」
階段を上がる途中で振り返ると、高橋と清子が並んで立っていた。
二人が並ぶと、カウンターの景色が完成している気がした。
「……ありがとうございました」
「また来てください」と二人が言った。
十三段。
扉を開けた。
東京の夏の夜。
蝉の声。街の光。
これが、また会うまでの東京だ。
「また来ます」
声に出した。
東京の夜に向かって。
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