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第5巻
第24話 香月との最後の夜
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七月の末。
東京を発つ前夜。
香月が来た。
「明日、帰るな」
「帰ります」
「向こうへ」
「そうです。また来ます」
「分かっている」
ブランデーを出すと、香月は一口飲んだ。
「今夜、一つ見えることがある」
「なんですか」
「二つの世界を繋いでいくことが——これからの大きな流れになる」
「どういう意味ですか」
「お前が行き来することで、二つの世界に橋ができる。その橋を、他の人間も渡るようになる。長い時間をかけて」
「それは……」
「俺には先まで見えない。ただ、橋が見える。お前が最初の橋になる」
「大げさですね」
「霊感で見えることを、大げさとは言わない」
ルーカスは少し考えた。
「香月さん、向こうへ来ますか、いつか」
「来ないかもしれない。来るかもしれない」
「来てほしいです。見えすぎる目を持つ人が、向こうにもいました。きっと話が合う」
「そうか」
「会わせたい人が、向こうにいます」
香月はブランデーを飲んだ。
「……考えておく」
「それで十分です」
「お前は急かさないな」
「急かすより待つ方が好きです」
「それも、三年の経験か」
「全部が、三年の経験です」
香月はグラスを飲み干した。
「行ってこい」
「行ってきます」
「向こうの夜も、良い夜にしてこい」
「両方の夜を、良い夜にします」
「それがいい」
香月は帰り際に振り返った。
「ここの空気は、変わっていないな」
「そうですか」
「深くなっているが、変わっていない。それが——良い場所の証拠だ」
扉が閉まった。
ルーカスはカウンターを磨いた。
今夜も、よかった。
明日、帰る。
またここへ来るために、帰る。
どちらも帰ることだ。
東京を発つ前夜。
香月が来た。
「明日、帰るな」
「帰ります」
「向こうへ」
「そうです。また来ます」
「分かっている」
ブランデーを出すと、香月は一口飲んだ。
「今夜、一つ見えることがある」
「なんですか」
「二つの世界を繋いでいくことが——これからの大きな流れになる」
「どういう意味ですか」
「お前が行き来することで、二つの世界に橋ができる。その橋を、他の人間も渡るようになる。長い時間をかけて」
「それは……」
「俺には先まで見えない。ただ、橋が見える。お前が最初の橋になる」
「大げさですね」
「霊感で見えることを、大げさとは言わない」
ルーカスは少し考えた。
「香月さん、向こうへ来ますか、いつか」
「来ないかもしれない。来るかもしれない」
「来てほしいです。見えすぎる目を持つ人が、向こうにもいました。きっと話が合う」
「そうか」
「会わせたい人が、向こうにいます」
香月はブランデーを飲んだ。
「……考えておく」
「それで十分です」
「お前は急かさないな」
「急かすより待つ方が好きです」
「それも、三年の経験か」
「全部が、三年の経験です」
香月はグラスを飲み干した。
「行ってこい」
「行ってきます」
「向こうの夜も、良い夜にしてこい」
「両方の夜を、良い夜にします」
「それがいい」
香月は帰り際に振り返った。
「ここの空気は、変わっていないな」
「そうですか」
「深くなっているが、変わっていない。それが——良い場所の証拠だ」
扉が閉まった。
ルーカスはカウンターを磨いた。
今夜も、よかった。
明日、帰る。
またここへ来るために、帰る。
どちらも帰ることだ。
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