神話級量産します ―日本語で何か書くだけで最強アイテムができる異世界生活― ~銀髪ロリ美少女と始める言霊スローライフ~

みぎみみ

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第四章「商業都市テムザリア」

第一節 ダーレムとリリア

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ダーレムの街は、エルムの里とは比べものにならない規模だった。
街道から城門に向かう坂道の途中で、その規模の片鱗が見えてきた。城壁が視界の端から端まで続いている。エルムの里の木の門とは次元が違う。石積みの城壁は高さがあり、上部に見張り台が設けられていた。城門の手前で人と馬車が列をなしている。入城を待つ行列だ。商人、旅人、農民、兵士。様々な人間が同じ門の前に集まっている。
「大きい」と真は言った。
「ダーレムはこの地域の商業の中心だ」とガルドが言った。「三万人以上が暮らしている。エルムの里の百倍以上だな」
「三万人」
「テムザリアほどではないが、それでも大きな街だ」
列に並んで、少し待った。入城の確認は簡単なものだった。冒険者証を見せると、門番が記録を取って通してくれた。一人ずつ確認しながら進んでいく行列が、少しずつ前に動く。真の番が来たとき、門番が真の顔を一度見て、黒い髪と黒い目に視線を止めた。しかし何も言わなかった。記録を取り、通した。
城門をくぐった瞬間から、音と匂いが一気に増した。
石畳の大通りに商店が軒を連ね、馬車が行き交い、行商人が声を上げ、子供が路地を走り回っている。広場には噴水があり、その周りに屋台が数えきれないほど並んでいた。三階、四階建ての建物が道の両側に迫り、洗濯物が窓から窓へ渡したロープに干されている。上を見上げると、空が建物に挟まれて細い帯になっている。人と物と声が混ざり合う、生きた賑やかさがある。
「いい街だ」と真は言った。
「街というのはこういうものだ」とガルドが言った。
真はゆっくりと大通りを歩きながら、屋台を眺めた。焼いた肉、干した果物、香草を束ねたもの、革細工、陶器。コンビニの棚とは全然違う、生の商品が並んでいる。匂いが濃い。食べ物の匂い、革の匂い、土の匂い、人の匂いが全部混ざっている。どれか一つを取り出せないほど混合されていて、それが「街の匂い」という一つの匂いになっていた。
ユナが隣で歩いている。いつもと少し違う気がした。
普段のユナは前を向いて歩くことが多い。周囲を確認はするが、何かに視線を止めることはあまりない。しかし今は、右の屋台を少し見て、左の商店を少し見て、足が止まりそうになる瞬間がある。珍しいものに目が止まっているのかもしれない。エルムの里より大きい街に来たことが、ユナにとっても久しぶりなのかもしれない。
ある屋台の前で、ユナが半歩遅れた。干した果物を並べた屋台だ。色とりどりの干し果物が小さな木の器に入って並んでいる。赤、黄、橙、紫。それぞれが違う匂いを持っていて、屋台の前を通ると甘い香りが届いてきた。
「何か欲しいものがあるか」と真は聞いた。
「べつに」とユナは言い、視線を戻した。
「屋台の前で少し立ち止まってたが」
「見てただけ」
真はそれ以上は聞かなかった。干し果物を一袋買おうかと思ったが、まだそれをするタイミングではないと判断した。また機会があれば、と思いながら大通りを進んだ。
ダーレムに三日滞在した。
宿を取り、ギルドで依頼をこなし、リリアと接触するための準備をした。ガルドがエルムの里を出る前にリリア宛てに手紙を送っていたおかげで、ダーレムに着いた日に、リリア本人から「来てください」という返事が届いていた。
返事の文面をガルドから見せてもらった。丁寧な字で書かれていた。感情を抑えた、学者らしい書き方だったが、文の端々から期待が漏れていた。「本当に転移者の方がいらっしゃるのですか」という言葉が、一見冷静に書かれていながら、内側に何かが詰まっている感じがあった。
古書店が並ぶ一帯は、大通りから少し外れた路地にあった。
通りに出ている看板が静かで、派手さがない。商品を売りたくて声を上げる屋台とは違う。こういう本を求める人間は自分から来る、という確信のある通りの雰囲気だ。建物の前に出された本の山が道にはみ出していて、通る人間が自然に足を止めて見ていく。
その一角の、小さな建物の二階に彼女の研究室はあった。
扉を叩くと、少し間があってから「どうぞ」と声がした。押し殺したような、緊張を保った声だ。中に入ると、机の上に書物と紙の束が山積みになっていた。本棚には分厚い古書が並んでいて、窓際には虫眼鏡と鑑定道具が置かれている。空気に紙の古い匂いが染みている。一生をかけてこの部屋で過ごしてきた人間の時間が、匂いになっている。
椅子から立ち上がった女性が振り向いた。
二十代後半か三十代前半か、判断が難しい年齢だった。眼鏡をかけていて、長い髪をひとつに束ねている。服装は質素で、しかし袖口が墨で汚れていた。書き物を長くしてきた人間の袖だ。耳の先端が少しだけ尖っていた。
それがエルフの血を引く証だと真には分かった。
顔の造りは整っているが、今は真のことを見て、声を出すのを忘れているような表情をしていた。目が真の顔を、特に黒い目を、確認しようとしている。信じたいが信じ切れない、信じたいが間違いたくない、という目の動き方だった。
「木下真さん、ですね」とリリアはようやく言った。声が少し震えていた。「黒い髪と目……本当にいらっしゃったんですね」
「転移してきた、というのが正確ですが」
「ガルドさんから手紙をいただいて、信じたいけれど信じられなくて、それでも準備だけはしてきていて」とリリアは言いながら、棚から一冊の書物を取り出した。大切なものを扱う手つきだった。「これを見ていただけますか」
開かれたページに古い文字があった。
かすれた線で書かれた、形の崩れた文字だが、真には読めた。一瞬で読めた。翻訳している感覚がない。ただ、意味が飛び込んでくる。
「「光」と書いてある」
リリアが深呼吸した。「やはり読めるんですね」
「こっちでは普通の漢字だ。小学校で習う」
「この文字が何を意味するか、どう発音するか、数百年かけて誰にも分からなかった。あなたが三秒で答えてくれた」
リリアが椅子に座り直した。眼鏡のフレームを直す手が、わずかに震えていた。感情を抑えようとしているのが分かった。学者として感情を前に出すまいとしている。しかし三十年、五十年かけて追ってきたものの答えが、今この瞬間に出た。その事実が、どんな抑制も超えて体に出てきていた。
「一緒に研究させてもらえますか」とリリアは言った。声が安定を取り戻していた。しかしその安定が、努力によるものだと分かった。「あなたの言語と、この世界の古代記録を照合したい。あなたの力の正体を解明する手がかりになるはずです。それだけではなく、この世界の歴史そのものに関わる発見になる可能性があります」
「構わない」と真は言った。「俺も自分の力の正体を知りたい」
「では、ぜひ」とリリアは言い、立ち上がって手を差し出した。握手の手だ。真は握り返した。リリアの手は細く、指に茶色いインクの染みがあった。
それがリリアとの始まりだった。
その夜、宿に戻ってから、ユナが真の部屋に来た。「リリアさん、どんな人だった」と聞いた。珍しく、自分から聞いてきた。
「本に生きている人間だ」と真は答えた。「でも感情はちゃんとある。ただ外に出すのに慣れていないだけだと思う」
「怖い人じゃない?」
「怖くはない。誠実な人だと思う」
ユナが少し考えてから、「分かった」と言って部屋を出た。それだけだった。しかし真には、ユナがリリアへの警戒を少し解いたことが分かった。
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