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第四章「商業都市テムザリア」
第二節 テムザリアへの道
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ダーレムで三日を過ごし、リリアが四人目としてパーティーに加わった。
三日間で、リリアと古代語の照合をある程度進めた。真が日本語の単語を言い、リリアが古代語の文書と照合する。一致するものが複数出た。「火」「水」「光」「斬」「守」「飛」。日本語の基本的な漢字と、古代語の文字が形と意味で対応している。完全な一致ではないが、元が同じ言語だったと見て間違いない、とリリアは言った。
「三万年でここまで形が崩れているということは、文字の伝達経路が複数あったということですね」とリリアは手帳に書きながら言った。「一つの経路で伝わればもっと統一された形になる。複数の人間や地域が、記憶と写しで伝えていくうちに形が変わった」
「それがこの世界に残っている古代語の形だ」
「そして、元の形があなたの言う日本語だとすれば、日本語こそがこの世界における言葉の力の源泉だということになります。失われていない言語が持つ、原初の力」
「面白い整理だ」
「あなたにとっては当たり前の言語が、この世界では三万年越しの答えです」
三日間で分かったことをリリアが文書にまとめた。それをダーレムの図書館に複写として預けた。万が一の際に記録が残るようにするためだ。リリアの仕事の仕方だ、と真は思った。感情ではなく手順で動く。感動しながら同時に記録を残す。そういう人間だ。
ダーレムを出る日の朝、干し果物の屋台の前を通った。
真は立ち止まって一袋買った。色の混ざったやつを選んだ。それをユナに渡した。ユナが少し目を開いた。「なんで」と聞いた。「三日前から気になってたろ」と真は言った。ユナが受け取って、一つ口に入れた。それから何も言わずに歩き始めた。
「美味いか」と真は聞いた。
「まあまあ」とユナは言った。
それからしばらく、歩きながら干し果物を食べていた。まあまあと言いながら、袋の中身を確認しながら、少しずつ食べていた。真はその様子を横目で見て、それ以上何も言わなかった。
次の目的地はテムザリアだ。大陸南部の港湾都市で、商人と冒険者が大陸中から集まる。ギルド本部の支部があり、依頼の種類と量が段違いに多い。シドウという鍛冶師も、テムザリアに拠点を置いているとガルドから聞いた。
「シドウは俺の古い知り合いだ」とガルドは歩きながら言った。「ドワーフ族で、腕は大陸でも五指に入る。一度でいいから神話級の素材で打ちたいと言い続けていた男だ。お前さんの刻印を見せれば、きっと目をむく」
「そんなに珍しいのか」
「珍しいなんてもんじゃない。神話級は世界に五つしか解読されていないと言われている。解読された五つにしても、扱える者が限られていて、ほとんどが国家の宝として保管されている。お前さんはそれを量産できる」
「量産というほど作っていないが」
「これから作ることになる」とガルドは言い、先を歩き続けた。
リリアが真の隣に並んだ。「一つ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「日本語をアイテムに刻むとき、何かを意識していますか。言葉の意味を思い浮かべながら書いているのか、それとも機械的に書いているのか」
真は少し考えた。刻印するときの感覚を言葉にするのは難しかった。「意味を思いながら書いている気がする。「斬」と刻むときは、切れてほしいという気持ちがある。でも意識的かといわれると、分からない。気づいたらそうなっている感じだ」
「では声で言霊を発するときは」
「そのときは意識が強い。誰かを守りたいとか、止めたいとか、感情が先に来る。言葉は感情の後からついてくる」
「つまり言霊の力は、言語そのものよりも、言語を使う者の意志と感情が核になっているんですね。言語はその容器に過ぎないと言えるかもしれない」とリリアは言い、手帳に書き留めた。「私の仮説では、日本語という容器が、この世界にとって特別なのは、それが失われた言語だからです。この世界の住人には意味を知る者がいない言語だから、余計な干渉を受けずに力が純粋に宿る」
「干渉というのは」
「例えば、この世界の住民が「火」と言えば、その言葉を聞いた人間が「火」を連想します。言葉が届いた先で、受け手の意識が働く。それが干渉です。しかし日本語の「火」は、この世界の誰も意味を知らない。受け手の意識が働かない。だから発した者の意志だけが純粋に宿る」
「そういう整理をされると、なんとなく分かる気がする。俺の言葉が誰にも理解されない、という事実が、力の源になっているということか」
「そうです。孤独が力になる、という逆説ですが」とリリアは言い、少し間を置いた。「あなたは日本でも、言葉が届かない感覚があったとおっしゃっていましたよね。コンビニの仕事で、言葉を感情から切り離していたと」
「そうだ」
「だとしたら、この世界で初めて言葉が届いた、というのは、力の問題だけではなく、あなた自身の変化でもあるのかもしれません」
真は少し黙って歩いた。リリアの言葉が、頭の中で反響している。届かない言葉が力になる。届かなかった五年間が、ここで逆転する。そういう考え方が成立するのかもしれなかった。
「おかしいですか」とリリアが少し不安そうに聞いた。
「おかしくない。むしろ、自分の力がどういうものか、初めて整理できた気がした」
リリアが少し頬を染めた。「ありがとうございます」
ユナが前の方を歩きながら、こちらを一度だけ振り返った。何かを確認するような目つきだったが、すぐに前を向いた。
テムザリアまでの道は三日ほどかかった。街道の両側に丘が続き、農地と牧草地が交互に現れる。時折、丘の上に石造りの建物が見えた。砦の跡か、廃村か、いずれにしても過去に人が住んでいた場所の気配がある。
二日目の夕方には遠くに海の光が見え始めた。
最初、光の帯だと思った。地平線の少し上に、空とは違う輝き方をする光の帯が見えた。日が傾いていたので、夕日を反射しているその帯が揺れるように見えた。
「海だ」とリリアが言った。
真は立ち止まって見た。日本でも海は見たことがある。しかしここから見える海は日本の海と違う色だった。少し青みが強く、光の反射が鮮やかだ。空気が違うからか、この世界の水の性質が違うからか、あるいは光の当たり方の問題か、理由は分からない。しかし確かに違う。
「海、好きか」とユナが隣に来て言った。
「見慣れないから、まだよく分からない」と真は答えた。「でも綺麗だとは思う」
「私も久しぶりに見た」
「久しぶりって、前に見たことがあるのか」
「昔ね」とユナは短く言い、前を向いた。「行こう」
昔がいつのことか、真には分からなかった。ユナの「昔」が自分にとっての「昔」と同じ時間軸にあるのかどうかも、まだ分からない。しかしその質問はしなかった。するべき時が来れば話してくれると思った。根拠はなかったが、そう思った。それが今の二人の距離感として正しい気がした。
三日目の午後、テムザリアの城壁が見えてきた。
遠くから見てもダーレムより大きいと分かった。城壁の高さが違う。港湾都市としての防衛力が、外観からして伝わってくる。帆船のマストがいくつか、城壁の向こうに見えた。風が強くなった気がした。海から来る風が、ここまで届いている。
三日間で、リリアと古代語の照合をある程度進めた。真が日本語の単語を言い、リリアが古代語の文書と照合する。一致するものが複数出た。「火」「水」「光」「斬」「守」「飛」。日本語の基本的な漢字と、古代語の文字が形と意味で対応している。完全な一致ではないが、元が同じ言語だったと見て間違いない、とリリアは言った。
「三万年でここまで形が崩れているということは、文字の伝達経路が複数あったということですね」とリリアは手帳に書きながら言った。「一つの経路で伝わればもっと統一された形になる。複数の人間や地域が、記憶と写しで伝えていくうちに形が変わった」
「それがこの世界に残っている古代語の形だ」
「そして、元の形があなたの言う日本語だとすれば、日本語こそがこの世界における言葉の力の源泉だということになります。失われていない言語が持つ、原初の力」
「面白い整理だ」
「あなたにとっては当たり前の言語が、この世界では三万年越しの答えです」
三日間で分かったことをリリアが文書にまとめた。それをダーレムの図書館に複写として預けた。万が一の際に記録が残るようにするためだ。リリアの仕事の仕方だ、と真は思った。感情ではなく手順で動く。感動しながら同時に記録を残す。そういう人間だ。
ダーレムを出る日の朝、干し果物の屋台の前を通った。
真は立ち止まって一袋買った。色の混ざったやつを選んだ。それをユナに渡した。ユナが少し目を開いた。「なんで」と聞いた。「三日前から気になってたろ」と真は言った。ユナが受け取って、一つ口に入れた。それから何も言わずに歩き始めた。
「美味いか」と真は聞いた。
「まあまあ」とユナは言った。
それからしばらく、歩きながら干し果物を食べていた。まあまあと言いながら、袋の中身を確認しながら、少しずつ食べていた。真はその様子を横目で見て、それ以上何も言わなかった。
次の目的地はテムザリアだ。大陸南部の港湾都市で、商人と冒険者が大陸中から集まる。ギルド本部の支部があり、依頼の種類と量が段違いに多い。シドウという鍛冶師も、テムザリアに拠点を置いているとガルドから聞いた。
「シドウは俺の古い知り合いだ」とガルドは歩きながら言った。「ドワーフ族で、腕は大陸でも五指に入る。一度でいいから神話級の素材で打ちたいと言い続けていた男だ。お前さんの刻印を見せれば、きっと目をむく」
「そんなに珍しいのか」
「珍しいなんてもんじゃない。神話級は世界に五つしか解読されていないと言われている。解読された五つにしても、扱える者が限られていて、ほとんどが国家の宝として保管されている。お前さんはそれを量産できる」
「量産というほど作っていないが」
「これから作ることになる」とガルドは言い、先を歩き続けた。
リリアが真の隣に並んだ。「一つ聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「日本語をアイテムに刻むとき、何かを意識していますか。言葉の意味を思い浮かべながら書いているのか、それとも機械的に書いているのか」
真は少し考えた。刻印するときの感覚を言葉にするのは難しかった。「意味を思いながら書いている気がする。「斬」と刻むときは、切れてほしいという気持ちがある。でも意識的かといわれると、分からない。気づいたらそうなっている感じだ」
「では声で言霊を発するときは」
「そのときは意識が強い。誰かを守りたいとか、止めたいとか、感情が先に来る。言葉は感情の後からついてくる」
「つまり言霊の力は、言語そのものよりも、言語を使う者の意志と感情が核になっているんですね。言語はその容器に過ぎないと言えるかもしれない」とリリアは言い、手帳に書き留めた。「私の仮説では、日本語という容器が、この世界にとって特別なのは、それが失われた言語だからです。この世界の住人には意味を知る者がいない言語だから、余計な干渉を受けずに力が純粋に宿る」
「干渉というのは」
「例えば、この世界の住民が「火」と言えば、その言葉を聞いた人間が「火」を連想します。言葉が届いた先で、受け手の意識が働く。それが干渉です。しかし日本語の「火」は、この世界の誰も意味を知らない。受け手の意識が働かない。だから発した者の意志だけが純粋に宿る」
「そういう整理をされると、なんとなく分かる気がする。俺の言葉が誰にも理解されない、という事実が、力の源になっているということか」
「そうです。孤独が力になる、という逆説ですが」とリリアは言い、少し間を置いた。「あなたは日本でも、言葉が届かない感覚があったとおっしゃっていましたよね。コンビニの仕事で、言葉を感情から切り離していたと」
「そうだ」
「だとしたら、この世界で初めて言葉が届いた、というのは、力の問題だけではなく、あなた自身の変化でもあるのかもしれません」
真は少し黙って歩いた。リリアの言葉が、頭の中で反響している。届かない言葉が力になる。届かなかった五年間が、ここで逆転する。そういう考え方が成立するのかもしれなかった。
「おかしいですか」とリリアが少し不安そうに聞いた。
「おかしくない。むしろ、自分の力がどういうものか、初めて整理できた気がした」
リリアが少し頬を染めた。「ありがとうございます」
ユナが前の方を歩きながら、こちらを一度だけ振り返った。何かを確認するような目つきだったが、すぐに前を向いた。
テムザリアまでの道は三日ほどかかった。街道の両側に丘が続き、農地と牧草地が交互に現れる。時折、丘の上に石造りの建物が見えた。砦の跡か、廃村か、いずれにしても過去に人が住んでいた場所の気配がある。
二日目の夕方には遠くに海の光が見え始めた。
最初、光の帯だと思った。地平線の少し上に、空とは違う輝き方をする光の帯が見えた。日が傾いていたので、夕日を反射しているその帯が揺れるように見えた。
「海だ」とリリアが言った。
真は立ち止まって見た。日本でも海は見たことがある。しかしここから見える海は日本の海と違う色だった。少し青みが強く、光の反射が鮮やかだ。空気が違うからか、この世界の水の性質が違うからか、あるいは光の当たり方の問題か、理由は分からない。しかし確かに違う。
「海、好きか」とユナが隣に来て言った。
「見慣れないから、まだよく分からない」と真は答えた。「でも綺麗だとは思う」
「私も久しぶりに見た」
「久しぶりって、前に見たことがあるのか」
「昔ね」とユナは短く言い、前を向いた。「行こう」
昔がいつのことか、真には分からなかった。ユナの「昔」が自分にとっての「昔」と同じ時間軸にあるのかどうかも、まだ分からない。しかしその質問はしなかった。するべき時が来れば話してくれると思った。根拠はなかったが、そう思った。それが今の二人の距離感として正しい気がした。
三日目の午後、テムザリアの城壁が見えてきた。
遠くから見てもダーレムより大きいと分かった。城壁の高さが違う。港湾都市としての防衛力が、外観からして伝わってくる。帆船のマストがいくつか、城壁の向こうに見えた。風が強くなった気がした。海から来る風が、ここまで届いている。
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