半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。

深嶋(深嶋つづみ)

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第四章 「19歳」

第2話 祝福の日

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  *

 
 白い花弁が次々に舞い上がる。
 晴れ渡った秋空の下、あちらこちらから祝福の声が上がり、本日の主役たちが嬉しそうにはにかんだ笑顔をみせた。

「おめでとうー!」
「りくちゃん、おめでとう!」

 心からの祝福を大きく声にのせ、佑月も空に向かって赤や桃色の花弁を舞い上げた。
 宙に浮いた花弁ははらはらと降下し、りくの柔らかな色合いの髪の上に降り注ぐ。
 白いタキシードに身を包んだりくはこちらに振り向くと、幸せそうににこりと微笑んだ。ありがとう、と小さな唇で言葉を紡ぐ。
 りくにぴったりと寄り添う背の高い男がなにかを囁いて、りくは満面の笑みをこぼした。
 
 親しい友人と親族だけを招いた、小規模なウエディング。
 先程、教会で永遠の愛を誓いあった二人は祝福の言葉を浴びながら、ゲストたちの間をゆっくりと歩いていく。

 りくの結婚相手は年上の幼馴染だと聞いていた。
 高校時代、発情期直前のりくを迎えにきていたあの男だ。彼はアルファ性で、互いの両親公認で高校時代から付き合うようになったのだとか。
 二人はすでに籍を入れていて、番関係も結んでいるそうだ。結婚式前にりくに会った時、そう報告を受けていた。
 
「りくちゃん、幸せそうだね」

 佑月が言うと、隣にいる光一も大きくうなずいた。
 
「やっぱり、りくが結婚一番乗りだったな~」
 
 光一はまぶしそうな表情で主役の二人を見つめている。
 真新しい漆黒のスーツにシルバーグレーのネクタイを合わせた友人は、花弁を投げ終えるなりスマホを取り出し、祝福される二人の様子を画面におさめている。

「僕もいつかプロポーズされたいなぁ」

 同じようにスマホを構えながら佑月がぽつりとこぼすと、光一は「佑月ならいくらでも申し込まれるだろ」と肩をすくめた。

「本当にそう思う? 僕、この前も彼氏にフラれたんだよ?」
「そりゃ、まだ治療が終わってないならまあ、そういうこともあるかもしれんけど。でも、オレは佑月が独身を貫くほうが想像できないけどな」
「治療が終わったら、僕も誰かと結婚できるかな」
「人生最大のモテ期がくるだろー。間違いなく」
「そうかな? じゃあ治療頑張らなくっちゃ」
 
 軽く拳を握って頑張るぞのポーズを決めてみたけれど、本心からの言葉ではなかった。
 光一もどこかでそれを察したのか、「おう、頑張れ」と言ったきり、会話は自然と途切れてしまった。

 ゲストたちの最後尾について披露宴会場に移動する際、大きなガラス窓に自分たちの姿が映り込んだ。
 周囲に馴染んでいる自分にほっとした。
 今日のために購入した濃紺のスーツを着て、シルバーのネクタイを締めた自分はなんだか見慣れなくて、おかしくはないだろうかと式場に到着するまでそわそわしていたのだ。

 結婚式にまつわるあれこれを助言してくれた仕事仲間のマダムたちに感謝しなくてはならない。
 ――ドレスコードとか、マナーとかご祝儀とか、知らずにいた決まり事をたくさん教えてもらえたおかげで、友人の顔に泥を塗らずに済んだのだから。

(大人をやるって大変なんだな)

 親元を離れて、働いて、自分が稼いだ金で食べて生きていく。
 自由とか自立とかいうものが、カッコいいだけのものではなくて、こんなにも大変なものだとは思わなかった。

 ……だからこそ、人生の伴侶と早々に巡り合えたりくのことを余計に羨ましいと思ってしまった。
 羨ましいと同時に、とても寂しくもあって。

(学生時代は、あんなに一緒にいたのにな)
 
 どれだけ時間をともにしても友人同士では人生の伴侶にはなれないのだと、そんな当たり前のことを突き付けられたような気がした。
 どれほど仲が良くても、信頼し合っていても、友人たちはいずれ誰か別の人間を伴侶として選んで、それぞれの道を歩いていく。
 ――りくだけじゃなく、光一だって、きっといつかは。

 そのとき自分の隣にも誰かがいるだろうか。それとも今と変わらず、一人ぼっちで生きているのだろうか。

 未来なんて、想像しようとしてみてもわからない。
 でも仮に、相変わらず一人で生きているとして、自分はそんな状況なのに親友から喜ばしい報告を受けたとして、純粋に相手の幸せを喜ぶことができるのだろうか。
 ……そう考えたら、未来が少し怖くなった。


  
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