IDIOM.異世界の落ちこぼれ魔女は、現代でクーデレなエージェントに管理される

るりたては

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第2章 コカトリス

13. 託されたモノ

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フェリエッタは青白く輝いている髪をたなびかせながら、紺色のローブに身を包んで立っていた。彼女は震える手で、自分の杖を握りしめていた。

月岡が振り向き、その蔑むような視線がフェリエッタに向けられる

「えーと、君は……。」

彼女を見ながら怪訝そうに首を傾げていた月岡だったが、やがて、何かを思い出したかのように薄く微笑んだ。

「ああ、そうでした。コカトリスと一緒に召喚されていた方でしたね。」

その声色には、揶揄の響きが混じっている。

「……で、どうして君がここにいるのですか?」

「決まっています!黒薙さんを助けに来たんです!」

月岡の問いかけに対して、フェリエッタは力強く答える。彼女の声は高らかで、その言葉には一切の迷いがない。

だが、その強い言葉とは裏腹に、その手に握られた杖はまだ微かに震えている。その動揺を見逃さなかった月岡が、目を細めると嘲笑を浮かべる。

「君が、ですか?」

そう言いながら軽く肩をすくめた月岡の動きには、あからさまな侮蔑が滲んでいた。

「失礼ながら、初めてお会いした時に君の魔力は確認させていただきました……が、お世辞にも素晴らしいとは言えないものでした。」

月岡は意味ありげに溜息を吐くと、冷たい目をフェリエッタに向ける。

「あの程度の力では――」

「そんなの……関係なかったんです!!」

突然のフェリエッタの声に、月岡の言葉は遮らえる。彼女は硬く拳を握りしめると、声を震わせながら叫んだ。

「……私、思い出したんです。」

目元を伏せながら息を荒くしながら語りだした彼女の姿は、まるで抱え込んでいた後悔や憤りを吐露するかのようだった。

「どうして、私が“至高の魔術師アルギシア”に憧れていたのか……。」

フェリエッタの瞳に、幼い頃の記憶が蘇る。



生まれた村が魔物に襲われ、愛する父と母も無残にも命を奪われてしまったあの日。幼きフェリエッタを救ってくれたのはマザー・トマシーナだった。

彼女の纏っている黒いローブは華麗で美しく、その手に握られた杖は空中で鮮やかに弧を描きながら魔法を生みだしていた。

その姿は、幼き彼女にとって御伽噺に登場する“至高の魔術師アルギシア”そのものに映ったのだった。

――あの瞬間、自分もいつかこの人のように誰かを救える存在になりたいと誓ったはずだ。



「私は……」

フェリエッタの声が、夕日の光に照らされた林の中に小さく響く。

「……私が“至高の魔術師アルギシア”になりたかったのは、馬鹿にしてきた人たちを見返すためでも、誰かに認めてもらうためでありません。」

フェリエッタは震える足に力を込めると、一歩大きく踏み出した。

「――私がこの人のように“生きたい”と願ったからです!!」

彼女の首元に巻かれた黒薙のチョーカーが、光を反射してキラリと光る。

「私は“助けを求める誰かを救う至高の魔術師アルギシア”になる。……それが私、フェリエッタ・ウィリアムズの生き方です!!」

堂々と宣言すると、フェリエッタは杖を大きく振り上げた。その視線は、目の前に立ちはだかっているコカトリスへと向けられていた。

コカトリスの赤い瞳がフェリエッタを睨みつけると、獰猛な牙が鈍い色に輝く。その威圧感に押されるように身体の震えは止まらない。

――だが、彼女は前を向き続けた。

「私が相手です。さあ、来なさい!!」

フェリエッタが大きく声を張り上げると、杖をコカトリスに向けて構える。その口元には、不敵に笑みすらも浮かべている。

「このヘビニワトリヤロー……です。」

彼女は自らを奮い立たせるかのように、力強く大地を踏みしめるのであった。



フェリエッタの様子を黙って傍観していた月岡だったが、興味深げに目を細める。

「……なるほど、面白い。異世界の魔女がどのような戦いを見せてくれるのかも、気になるところではあります。」

月岡が手を前に差し出すと、その動きに呼応するかのようにコカトリスが動く。倒れ込んでいる黒薙から離れると、今度はフェリエッタの方へと巨大な身体を向けた。

「君の力を見せてください。」

月岡の言葉が終わると同時に、コカトリスの鋭い爪が大地を蹴る。それは、まるで狙いを定めた矢のようにフェリエッタに向かって真っすぐ走り出した。

迫りくるコカトリスを見据えたフェリエッタが、杖を振りかざす。

『水泡よ、収束し我が敵を貫け、水弾アクティラ……!!』

彼女の杖の先に集まった水粒は、鋭い弾となって発射される。だが、コカトリスは水の弾の攻撃を正面から受け止めると、フェリエッタに突進を続ける。

「やっぱり、これじゃ効かない! 」

フェリエッタの上空に、コカトリスが大きく飛び上がる。コカトリスの鋭い鉤爪は、真下にいる彼女の心臓を狙って落ちていた。

「……それなら!!」

コカトリスの攻撃をすんでのところでかわしたフェリエッタは、地面を転がりながら素早く杖を構えた。その先端は、コカトリスの頭上に向けられている。

『水泡よ、我が前で滔々たる球を成せ、水の巨球アクアバル!!』

フェリエッタが詠唱すると、杖の向けられた先で水粒が集まっていく。やがて、コカトリスの上空には、巨大な水球が現れた。

「爆ぜて……!」

フェリエッタが呟きで水球は破裂すると、辺りに大量の水滴をまき散らしながらコカトリスの全身を濡らす。

水を吸い込んで重たくなった羽が、コカトリスの体温を奪っていく。地面にも水が流れ込んだことで、土壌はぬかるみ、踏ん張りがきかなくなっていた。

「よしっ……上手くいった!!」

コカトリスが動きを止めたのを見て、フェリエッタは胸の前で小さく拳を握ったのであった。



「ほお、なるほど……」

月岡は腕を組みながら、その場から動かずに戦況を見守っていた。その視線は、濡れた地面に足を取られたコカトリスと向き合うフェリエッタに注がれる。

「まさか、ここまで食い下がるとは……興味深いですね。だが――」

月岡は彼女の環境を利用した戦法に少しの関心を示すが、魔力の少ないフェリエッタが劣勢であるのは変わりない。

「さあ、ここからが本番ですよ。」

小さく面白そうに呟くと、月岡は笑みを浮かべるのだった。



「い、今のうちに……!!」

コカトリスを足止めすることに成功したフェリエッタは、体勢を立て直すために後ろへと下がる。しかし、コカトリスの背後から覗く紅い眼がそれを見つめていた。

コカトリスの背後で蠢いていた蛇の頭が、突然鋭い牙を見せる。

咄嗟の出来事に、フェリエッタの判断は一瞬ほど遅れてしまう。

『す、水流よ、我を包む盾となれ、“流水の防壁ロウネア”!!』

寸でのところで呪文を詠唱した彼女は、蛇の攻撃を間一髪のところで防ぐ。渦巻く流水の防壁が蛇の牙を受け流すと、彼女の胸に安堵がよぎった。

「……ダメだ!!」

だが、その様子を地面に倒れ込んだまま見つめていた黒薙が叫ぶ。

「……え?」

刹那、コカトリスの蛇は軌道を変えて、再びフェリエッタに襲い掛かる。黒薙の叫びも虚しく、枯れた落ち葉の上に赤い鮮血が飛び散ったのであった。

――フェリエッタの左腕に、蛇の頭は喰らいついていた。
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