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俺のお飾りの妻になってくれ!
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あまりにもびっくりしたので変な声が出てしまう。ますます真っ赤になって、「えっと⋯⋯、あの⋯⋯」と意味のない言葉を繰り返す。
——契約結婚? どういう意味だろう?
わけがわからなかった。
騎士団長はずっとこっちを見つめている。
なぜか騎士団長も驚いたような表情だ。
ヴィクトル騎士団長の瞳の色が、『世にも美しいライラック色』だというのは有名だった。けれどもあまりにも長く密集したまつ毛の影になっているせいで、普段は深い紫色の瞳に見えているらしい⋯⋯。
そしてこの時——。
——あ! 本当にライラック色だ! なんて柔らかくて優しい色なんだろう⋯⋯。
騎士団長が驚いたように目を見開いているので、その美しいライラック色が、ユリアにはっきりとわかった。
精巧に作られた人形の瞳のようだった。ゴージャスで、同時にとても清らかな瞳だ。
魅入られてしまいそうだ⋯⋯。
魂を吸い取られてしまいそうだ⋯⋯。
うっとりするほど気持ちがよくて、脚の力が抜け廊下に座り込みそうになったとき、ハッとして現実に戻った。勇気を出して聞いてみる。
「あの⋯⋯、契約結婚⋯⋯とおっしゃいましたか?」
「——そうだ」
騎士団長は軽く咳払いをしてから、魅力的な低く甘い声で話しを続けた。
「いきなり不躾な申し出をしてしまってほんとうに悪かった。つまり——、俺が言いたいのは——、あなたと偽りの結婚をしたいということだ。名乗り忘れたが、俺の名前はヴィクトル・シードロフ。騎士団の最高司令官をしている」
「も⋯⋯、もちろん、存じ上げております」
ヴィクトル・シードロフを知らない者がこの国にいるはずはない。
「実は、俺はオメガ妻を娶る気は一切ない。騎士団の仕事にこの身を捧げているからだ。生涯独身のつもりだったが、母が俺の結婚を強く願っている。最近では次々に見合い相手を送り込んでくるせいで任務に支障が出ている。それで解決策として偽装結婚をすることにした。——突然で驚いただろうが、俺の偽りの妻になってくれないか?」
「えっと⋯⋯、でも⋯⋯。あの⋯⋯、どうして僕なんですか?」
「それはつまり——、失礼ながらはっきりと言わせてもらうと、そなたは家柄はいいが貧しいオメガ令息だからだ」
「貧しい⋯⋯」
「すまない。気を悪くさせたな」
「いえ、ほんとうのことですから⋯⋯」
たしかにユリアは貧しい。そしてできることならば今の状況から抜け出したいと思っている。
騎士団長の偽装結婚の相手にちょうどいい条件を兼ね備えているわけだ。
「どうだろう? 考えてくれないか?」
「でも、僕は⋯⋯」
あまりに突然の申し出に頭の中は大混乱だ。
——騎士団長と僕が偽装結婚?
うつむいて足元を見つめながら、必死で考えをまとめようとしていると、
「俺が相手では嫌か?」
ものすごく近くから声がした。
——え?
驚いて顔を上げる。
——え、えー!
息がかかるほどすぐそばに騎士団長の美しい顔があるではないか!
続く
——契約結婚? どういう意味だろう?
わけがわからなかった。
騎士団長はずっとこっちを見つめている。
なぜか騎士団長も驚いたような表情だ。
ヴィクトル騎士団長の瞳の色が、『世にも美しいライラック色』だというのは有名だった。けれどもあまりにも長く密集したまつ毛の影になっているせいで、普段は深い紫色の瞳に見えているらしい⋯⋯。
そしてこの時——。
——あ! 本当にライラック色だ! なんて柔らかくて優しい色なんだろう⋯⋯。
騎士団長が驚いたように目を見開いているので、その美しいライラック色が、ユリアにはっきりとわかった。
精巧に作られた人形の瞳のようだった。ゴージャスで、同時にとても清らかな瞳だ。
魅入られてしまいそうだ⋯⋯。
魂を吸い取られてしまいそうだ⋯⋯。
うっとりするほど気持ちがよくて、脚の力が抜け廊下に座り込みそうになったとき、ハッとして現実に戻った。勇気を出して聞いてみる。
「あの⋯⋯、契約結婚⋯⋯とおっしゃいましたか?」
「——そうだ」
騎士団長は軽く咳払いをしてから、魅力的な低く甘い声で話しを続けた。
「いきなり不躾な申し出をしてしまってほんとうに悪かった。つまり——、俺が言いたいのは——、あなたと偽りの結婚をしたいということだ。名乗り忘れたが、俺の名前はヴィクトル・シードロフ。騎士団の最高司令官をしている」
「も⋯⋯、もちろん、存じ上げております」
ヴィクトル・シードロフを知らない者がこの国にいるはずはない。
「実は、俺はオメガ妻を娶る気は一切ない。騎士団の仕事にこの身を捧げているからだ。生涯独身のつもりだったが、母が俺の結婚を強く願っている。最近では次々に見合い相手を送り込んでくるせいで任務に支障が出ている。それで解決策として偽装結婚をすることにした。——突然で驚いただろうが、俺の偽りの妻になってくれないか?」
「えっと⋯⋯、でも⋯⋯。あの⋯⋯、どうして僕なんですか?」
「それはつまり——、失礼ながらはっきりと言わせてもらうと、そなたは家柄はいいが貧しいオメガ令息だからだ」
「貧しい⋯⋯」
「すまない。気を悪くさせたな」
「いえ、ほんとうのことですから⋯⋯」
たしかにユリアは貧しい。そしてできることならば今の状況から抜け出したいと思っている。
騎士団長の偽装結婚の相手にちょうどいい条件を兼ね備えているわけだ。
「どうだろう? 考えてくれないか?」
「でも、僕は⋯⋯」
あまりに突然の申し出に頭の中は大混乱だ。
——騎士団長と僕が偽装結婚?
うつむいて足元を見つめながら、必死で考えをまとめようとしていると、
「俺が相手では嫌か?」
ものすごく近くから声がした。
——え?
驚いて顔を上げる。
——え、えー!
息がかかるほどすぐそばに騎士団長の美しい顔があるではないか!
続く
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