完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス

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 アルベルトはものすごく背が高い。その少し後ろをちょこちょことついていくと、アルベルトが歩みを遅める。
 そして自分の横を示した。
「え?」
「後ろではなく、横を歩いたらどうだ」
「でも、あの⋯⋯」
 王さまの横を歩くなんて、そんな無礼なことができるわけがない。
 だけどアルベルトは「さあ、ここに」と笑顔で言う。
「では、あの⋯⋯、失礼いたします⋯⋯」
 緊張しながらアルベルトの隣を歩いた。
 ふたりで並んで港町を歩いていると、街の住民が集まってきた。
「アルベルト陛下!」
「アルベルト陛下、万歳!」
 アルベルトは国民にとても人気があるようだ。
「国民のみなさんのために、力を注いでいらっしゃるのですね⋯⋯。すごいなあ」
「国民が俺に力を貸してくれるんだ」
「国民が⋯⋯、ですか?」
 ——わあ、そんなふうに言えるなんて、ますますすごいなあ! この国のみなさんは幸せだなあ⋯⋯。もし僕がエスタリア国に生まれていたら、もっと違う人生になっていたかなあ⋯⋯。
 ぼんやりとそんなことを思っていると、アルベルトが足を止めた。
 まわりには食べ物を売る店が並んでいる。
「なにが食べたい? ガレットはどうだ?」
「ガレットですか?」
 ガレットとはどんな食べ物だろうか⋯⋯?
 首をかしげて考えていると、アルベルトが小さな店を指差した。
「ここのガレットは最高なんだ。ガレットはサラセンで作る」
「サラセン?」
「十字軍が運んできた小麦に似た穀物だ。我が国ではサラセンに税をかけないことにしたんだ。それでこうしてこの街の名物になった。今では輸出もしている。外貨を稼いでくれるというわけさ」
「そうなのですね⋯⋯」
 税金のことはちっともわからなかった。だけど、アルベルト王が国を栄えさせるためにいろいろな努力をしていることはわかった。
「食べてみるか?」
「はい!」
 ガレットは、とても薄いホットケーキのようなものだった。
 その生地にハムや卵を乗せる。
 店の前にテーブルがあった。
「海を見ながら食べるのもいいだろう?」
「え? 陛下がここでお召し上がりになるのですか?」
「もちろんだ。ここでは俺はただの客だ」
 と言ってから、気軽に店主に声をかけた。
 きっとなん度も来ている店なのだろう、店主のほうも堅苦しくなく国王に対応している。
 ——国民との距離がすごく近いなあ⋯⋯。
 もはや感動すら覚えていた。こんな国があるなんて⋯⋯。こんな王さまがいるなんて⋯⋯。
 ——国が変わると、こんなにもいろいろなことが違うんだ!
 しばらくすると、大きなお皿に乗ったガレットが出てきた。
 一口食べると香ばしい生地の香りがした。
「美味いか?」
「はい、とても美味しいです!」
 ——こんなに素敵な街で、こんなに美味しいものを食べることができるなんて、ものすごく幸せだなあ!
 心からそう思ったときだった。
 まるでシャルルの心が通じたかのように、アルベルトが言った。
「俺は今、ものすごく幸せだ——」

***** 

 アルベルト国王が美食家だということを、国民はみなよく知っているようだった。
 シャルルがアルベルトと一緒に港町を歩いていると、食事を出している店の店主が次々に店から飛び出してきて、「最高級の羊肉が手に入りましたので、お城に届けさせていただきます」とか、「珍しい海の幸をさきほどクレメント料理長さまにお渡しいたしました」などと、話しかけてきた。
 アルベルトも決して威張ったりせず、気さくに返事を返している。
 ——アルベルトさまは国王陛下なのに、まるで国民と家族みたいだ。ほんとうに僕もこの国に生まれたかったなあ⋯⋯。
 もしそうだったらどんなによかっただろう、と思った。
 アルベルトと国民たちの雰囲気があまりにもいいので、シャルルも気楽な気持ちになって、つい自分のことを話してしまった。
「あの⋯⋯、僕も料理は好きなんです」
「ほお——。それは知らなかった。得意な料理は?」
「得意というほどではありませんが、マッシュルームスープはなん度も作りました。でも、フランク国の王妃さまには気に入っていただけませんでした。たぶん、僕には料理の才能がないんだと思います⋯⋯」
「なんだと? 我が国の国宝の料理を気に入らぬとは無礼な王妃だ」
 アルベルトの顔が一気に厳しくなった。
「無礼? いえ、あの⋯⋯、王妃さまですから⋯⋯」
「そのマッシュルームスープを、俺にも作ってくれるか?」
「でも、美味しくないと思います⋯⋯」
 美食家で名高いアルベルトの舌を満足させる自信などとてもない。
 フランク国では、王妃から罰を受けるほどだったのだから⋯⋯。
 だけどアルベルトはすっかりマッシュルームスープを食べる気になっているようだった。
「最高級のマッシュルームを手に入れよう。他にはなにがいる? ミルクやオニオンも必要だろう?」
「え? でも、あの⋯⋯」
 ——僕のスープは不味いかもしれないのに、どうしよう⋯⋯。言わなければよかった⋯⋯。
 料理が好きだと言ってしまったことを後悔していると、白い馬車が静かに近づいてきて、ふたりの横で止まった。
「お迎えにまいりました!」
 馬の手綱を握る御者の横に、レダとレナの双子の従者が乗っている。
「残念だが、俺はこれから警備兵たちと合流しなくてならないんだ。さきに城に戻っていてくれ、晩餐には戻る」
「⋯⋯どうぞお気をつけて」
 お気をつけて、と言うと、アルベルトの顔にパッと笑みが浮かんだ。
 ——どうしてこんなに嬉しそうなお顔をなさるんだろう? こんなお顔で見つめられると、ものすごくドキドキしてしまう⋯⋯。
 顔がまたカッと熱くなっていく。
 ——ああ、どうしよう! 僕の頬はきっと赤くなっている!
 そう思ったらものすごく恥ずかしくなった。うつむいたまま急いで馬車に乗り込んだ。
「出発しまーす!」
 双子従者が元気よく声をあげる。
 馬車は、港町をガタゴトと進んでいく。しばらくすると山へのゆるやかな道を登り始めた。
 王城はこの山の一番上にあるのだ。
 ——楽しかったなあ⋯⋯。
 はあ、と甘いため息をついてしまった。
 胸の奥がほんのりと暖かい。
 ——なんだろう、この気持ち?
 胸に手を当てて考える。
 ——もしかして、これが幸せってことかな?
 生まれてから一度も感じたことがない感情だった。
 ——僕は料理の素材として貢ぎ物になったのだから、もうすぐ人生も終わるのだけど⋯⋯。でも、ほんとうによかったなあ。最後に『幸せ』を知ることができて⋯⋯。
 大きな目に涙が浮かんだ。若草のように清らかな緑色の瞳が、涙でキラキラと光った。
「泣いたら、きれいな街が見えない⋯⋯」
 手の甲で涙を拭いたときだった。
 馬車の外から、双子の少年従者たちの悲鳴が聞こえた。

続く
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