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1話 無色の絵画
無色の絵画 ⑴
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悔しさも何もなく隣の彼女は今日も紙に水を塗りたぐっている。息を止めながら真剣に見つめるその目線の先には私が一時間もかければできるような下手くそな絵があった。彼女はこれを一週間かけて作り上げているのだ。コンクールへの提出は三日を切った。これでは間に合わないだろう。
今日も彼女を見て周りはニヤリとほくそ笑む。いや、そんな事をしているのは中の人たち。本当に上にいる人間はそんな彼女の事に目も暮れず何も食べずに一日を過ごしている。
では、私はどうか。こんな風に彼女を観察している私は——というと、まぁまぁの出来だ。きっと佳作くらいは問題なく取れるものだろう。私の描いた絵の題は春光。春の光が自身の手の中に水と共に溢れた瞬間を描いたものだ。うん、良いものだ。少なくともこの目の前にいる少女が描いているようなものに比べれば。
うさぎとかめという童話があったのを頭に浮かんだ。今思い返すと、アレは亀ではなく兎へのメッセージだったのではないかとそんな事を思う。つまり、亀が頑張って兎を追い抜け——という話ではなく、兎でもサボったら亀に負けるのだという、この人間世界で言う所の天才に向けた童話なのではないかと。だとするなら彼女は愚かという他ない。何も考えずにただ黙々と天才だけが許されるその行為を行っているのだから。子供の頃に習った学習を全く生かせていないのだから。
私は自分の絵を乾かすと画材道具を片付ける。様々な色の絵の具を洗い乱雑にカバンに入れ込んだ時、時計の長針が十二に重なって外から「早く帰りましょう」というアナウンスが童謡と共に流れた。
私がカバンを持ち上げた時。彼女はこちらを一度ちらりと見た。夏が近づいて暑いからだろうか、額から一筋汗が流れる。いや、これは冷や汗か。今まで何も言わずに絵と向き合っていた彼女がこちらを向いて少し気持ちが悪くなっただなんて死んでも吐けない。
彼女は「何でそこで描くのを止めるの?」とでも言いたげな表情だった。
「何か言いたいことでもあるの? あなた」
一言そう言うが、彼女は何も言わずに絵に向き合っていた。
今日も彼女を見て周りはニヤリとほくそ笑む。いや、そんな事をしているのは中の人たち。本当に上にいる人間はそんな彼女の事に目も暮れず何も食べずに一日を過ごしている。
では、私はどうか。こんな風に彼女を観察している私は——というと、まぁまぁの出来だ。きっと佳作くらいは問題なく取れるものだろう。私の描いた絵の題は春光。春の光が自身の手の中に水と共に溢れた瞬間を描いたものだ。うん、良いものだ。少なくともこの目の前にいる少女が描いているようなものに比べれば。
うさぎとかめという童話があったのを頭に浮かんだ。今思い返すと、アレは亀ではなく兎へのメッセージだったのではないかとそんな事を思う。つまり、亀が頑張って兎を追い抜け——という話ではなく、兎でもサボったら亀に負けるのだという、この人間世界で言う所の天才に向けた童話なのではないかと。だとするなら彼女は愚かという他ない。何も考えずにただ黙々と天才だけが許されるその行為を行っているのだから。子供の頃に習った学習を全く生かせていないのだから。
私は自分の絵を乾かすと画材道具を片付ける。様々な色の絵の具を洗い乱雑にカバンに入れ込んだ時、時計の長針が十二に重なって外から「早く帰りましょう」というアナウンスが童謡と共に流れた。
私がカバンを持ち上げた時。彼女はこちらを一度ちらりと見た。夏が近づいて暑いからだろうか、額から一筋汗が流れる。いや、これは冷や汗か。今まで何も言わずに絵と向き合っていた彼女がこちらを向いて少し気持ちが悪くなっただなんて死んでも吐けない。
彼女は「何でそこで描くのを止めるの?」とでも言いたげな表情だった。
「何か言いたいことでもあるの? あなた」
一言そう言うが、彼女は何も言わずに絵に向き合っていた。
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