アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第8話

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 キュッキュッと靴底と床擦れる音が体育館に無数に響く。やっぱりランメニューはキツい。せめてボールを触っていれば幾分か気は紛れるが、ただ走るだけだと自分の疲労と正面から向き合わなければならないので余計に疲れる気がする。やれと言われた瞬間から部員のほとんどの表情がげんなりするメニューだ。もちろん俺はそんな顔しないが。



「あ"ーづがれだー佐野肩貸してー」
「ダメだあっち行け」

 練習終わり、ヨボヨボのお爺さんのように近付いてくる川島を悠斗がすげなく追い払おうとする。あまり表情が変わらない悠斗と大袈裟な川島を見比べると、悠斗の方が経験者で川島が初心者のように見えておもしろい。

「2人は余裕そうだなー。なんでそんな爽やかなんだよ」
「余裕ではないけど、正直中学の方がキツかったからなぁ」
「俺も疲れてる。薫肩貸して」
「うげー、これ以上キツい練習とか考えるだけで寒気するわ……うおっ!」

 川島の驚いた声に反応して俺と悠斗も川島と同じ方向に視線を向ける。するとそこには今にも死にそうな顔をした村瀬がいた。

「爽やか2人を見た直後でこれは高低差スゴすぎて心臓止まるかと思った!」
「どうしたの村瀬。肩貸そうか?」
「おい」

 村瀬は俺の提案にも乗らず、悠斗をちらっと見てもっと顔色を悪くした後川島の背中に隠れてしまった。ほんとに大丈夫か?

「はぁ、明日学校行きたくない…」
「え、なんで?」

 どうやら練習のせいで具合が悪くなっているわけではないらしい。
 そもそも陰気な村瀬は学校に行きたい日の方が珍しいものだと思っていたが、こんなに思い詰めた顔をするなんて一体何があったのだろう。
 不思議に思い3人で見つめていると、村瀬はゆっくりと口を開いた。

「明日の5限と6限で校外学習の班を決めるんだって」
「え、やったー!佐野清水一緒に組も」
「もちろん」

 そういえばもうすぐ校外学習か。苦手な授業も部活もやらずに楽しく過ごせばいいという、多くの生徒が待ちわびる日のはずだが、クラスに馴染めていない村瀬には確かに辛い時間かもな。

「お前らはいいよな同じクラスで。俺は明日誰とも組めずに1人余って、誰が俺を引き受けるかで揉める光景を眺めなくちゃならないんだよ。そして当日も仲良しグループで思い切り楽しみたいのに俺がいてちょっと気まずい…みたいな空気をずっと吸い続けるんだ。あー行きたくない明日も当日も休みたい」

 早口でまくし立てる村瀬の気持ちは十分伝わったが、さすがに別クラスの班決めはどうすることもできない。
 当日たまたま会ったら声掛けてやるからそれまで耐えててくれ。

「そういえば2組はバスケ部村瀬しかいないもんな」
「バスケ部でも川島としかまともに喋ってないだろ」
「悠斗だって俺としかまともに喋らないだろ」
「俺はいいんだよ」

 相変わらず悠斗は余計なことを言って人を傷つける。悠斗も村瀬も人付き合いが下手という点は同じだがその要因が真逆なためお互い全く理解し合えないのだ。いつも村瀬は悠斗にビクビクしているし、悠斗も村瀬をよく威圧している。相性最悪だ。

「校外学習の班なんてとっとと抜け出して好きなとこ行けばいいだろ。薫も俺と抜けようぜ」
「それができたら苦労しませんよ…」
「え、俺置いてかれちゃうの?」
「抜けないよ」

 自由人悠斗の提案に三者三様の反応が飛ぶ。実際勝手に班を抜けられたら楽ではあるが、特別なイベントでの行動は記憶に残りやすいのだ。当日はいつもより慎重に振る舞わなければならない。村瀬だけでなく俺にとってもストレスの多い行事だ。



◆◇◆◇



 翌日、村瀬の言っていた通り校外学習の班決めが行われた。まず男女別で3~4人のグループを作り、そこから男女グループを合わせて6~7人のグループを作る。
 男女別のグループ決めはそれぞれが仲の良い人と組んですぐに済んだのだが、その次の作業が問題だった。
 普段からみんな男同士女同士でつるんでいるため、異性とのグループ決めは難航するのだ。しかも我々は多感な思春期真っ只中。「あのグループと組みたい」なんて言えば「あの中の誰かが好きなんだ」と勘繰られる。中には本当に好きな相手がいて狙っているグループがある人もいるだろうが、それを口に出す勇気のある者はいない。「俺はどのグループとでもいいけど、お前は?てか女子はなんか無いの?」などという探り合いが続く。しかし皆内心希望のグループはあるようで、「誰とでもいい」と言いつつも「くじ引きにしよう」とは決して言わないのだ。

「俺は誰とでもいい!2人は?」

 川島のひと言で多くの女子がこちらに注目したのがわかった。やはり狙いは俺たちか。
 この注目が俺と悠斗を腐女子的観点で楽しみたいからなのか、恋愛感情で狙っているからなのか判別が難しい。前者なら問題無いが、後者だとかなり厄介だ。そのため、俺もリスクを回避する術が無くなるくじ引きは避けたい。

「俺も誰とでもいいよ」
「全員嫌だ」

 よし、ここはこいつを使うしかない。この場で周りの目を気にせず正直に希望を言えて、かつ俺の希望を叶えてくれる一番良い駒だ。ちなみに川島も本心から誰とでもいいと言っているようだが、それでは使えない。

「嫌とか言っても絶対組まなきゃいけないんだよ。わがまま言うな」
「はぁ…じゃあ横山たち」
(よくできました)

 横山さんは俺と悠斗の関係を楽しんでいる女子の筆頭だ。そして他のメンバーもその仲間なので、余計なことをしなければ俺自身が狙われることは無い。

「ありがとうございます!」

 悠斗から選ばれた横山さんたちは嬉しそうに頭を下げる。それはやめてほしいが…
 そしてお目当ての俺たちが取られた他の女子たちは途端に興味が無くなりつまらなそうな顔で「誰でもいいよ。男子さっさと決めて」と言い始める。
 それでも気になるあの子に気持ちがバレたくない男子たちは「え~?まじで誰とでもいいんだけどなぁ」ととぼけている。そしてそんな男たちに痺れを切らした女子たちが「だったら私たちが適当に決めるから。今いる席が近いグループ同士でいいね!」とさっさと決めて、無事班決めが終了した。
 担任はみんなに校外学習を楽しんでもらいたくてくじ引きを提案しなかったようだが、結局満足のいく結果を得られたのは俺たちのグループだけだった。
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