アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

文字の大きさ
10 / 72

第10話

しおりを挟む
 昼食を終えたあとは1時間程度の登山だ。簡単なハイキングコースなのでそれ自体に問題は無いのだが、俺たちは先生たちから課された課題に頭を悩ませていた。

「"今だけの景色"って…抽象的すぎて難しいぃ」

 俺たちはハイキングの間にこのテーマ沿った写真を班で一枚提出しなければならない。そして最後に担任が最優秀賞を発表するのだ。

「どの瞬間も当てはまるもんなぁ」
「映えだけだったら佐野君と清水君撮れば優勝できるのに!」

 例えば流れる雲を適当に撮ったって"今だけの景色"だし、人や植物だって細胞は日々生まれ変わっているのだから"今だけ"だ。そもそもこの校外学習自体が人生で一度きりのものだし。つまりどれだけ雑に撮っても課題の条件は満たせてしまうのだ。
 しかし優等生の俺が雑に済ませた課題を提出するわけにはいかない。最優秀賞とまではいかなくとも、真剣に取り組んだことが伝わる写真でなくては。幸い悠斗以外のメンバーも真面目に考えてくれているので、課題で俺の評価が落ちる心配は無さそうだ。

「とりあえず進もうか。歩きながら良さそうなスポット探そ」
「了解!」



 道中何かいい案が浮かばないかと考えつつ、他愛もない話をしながら山頂を目指す。

「2人ってあれだよね。佐野君は傾国顔で、清水君は建国顔って感じ!」
「わかる~」
「なにそれ?」
「知らない?最近アイドルとか俳優の顔をそうやって分類するんだよ」

 いかにも女子が好きそうな話題だな。俺は随分前から言われているイエベブルベですらよくわかってないのに、よくもまぁポンポンと顔の分類方が生まれるものだ。
 横山さんの解説によると傾国顔は儚げな魔性の美人、建国顔は凛々しく精悍な男前…という感じらしい。傾国だとか建国だとか随分と規模の大きい話だ。確かに顔だけなら悠斗の表現は納得だが、もしもこんな男が実際に建国したら一瞬で国が傾くだろうな。ははっ、一人で建国と傾国か。

「なぁなぁ俺は?俺は何顔?」

 川島お前もそういうの好きなのか。横山さんが言ってただろ、アイドルや俳優を分類するものだと。お前は平凡顔だ。

「アホ面」
「ひっでぇ!清水はいじわる顔だ!」

 やんややんやと騒ぐ川島を女子たちは「あはは、元気だねー」と微笑ましく眺めている。事の発端はお前らだが。

 それにしても、これだけ自然豊かな道を歩いていてもいい案は一向に浮かばない。全く、どこをどう切り取っても風情ある素晴らしい景色だ。
 川島と女子たちのおしゃべりをBGMにゆっくり自然を観察しつつ歩みを進めていると、突然パシャッとシャッター音が鳴る。
 音のした方を向くとまたパシャッと鳴る。

「なに?いきなり撮るなよ」
「自然の中の薫、今だけの貴重な瞬間」
「はぁ…」

 そう言って悠斗はにやにやと嬉しそうに俺の写真を撮りまくる。
 普段から齧り付くように俺のことを見てるくせに今さら何をパシャパシャしてるんだ。
 そういえば俺も悠斗の写真は撮ったことが無いな。俺ばかり撮られているのはなんだかムカつくので、対抗するように俺も悠斗に向けてスマホのシャッターを切る。

(あぁ、悠斗もこっちにスマホを向けてるせいで顔が隠れてるじゃないか)

 少しムキになった俺はカメラを内側に切り替えて、悠斗の肩に腕を回してカメラを掲げる。
 よし、これで悠斗の写真が撮れた。満足して離れようとすると、腰に手を回され引き止められた。

(なに?もっと撮れってか?)

 仕方なくパシャパシャと撮影を続ける。それにしてもこいつ、ずっとカメラじゃなく俺を見てるし、なんかどんどん顔近付いてきてないか?

「おい、そろそろいいだろ。離せ」
「……」
「置いてかれんぞ」
「……」
(フリーズした…)

 何を考えているのか、悠斗は俺のギリギリの距離まで近付いてそこでピタリと動きを止めた。壊れたロボットのように瞬き一つせずただ一点、俺の顔を見つめ続ける悠斗に恐怖する。

 こうして立ち止まっている間に班のメンバーと距離があいてしまった。振り払ってこのまま置いていってしまおうかと思ったところで、川島が振り返って「自撮り?俺も入れてー」と駆け寄ってきた。その後ろを女子たちがニヤニヤしながらついてくる。
 そのまま川島は悠斗の肩に手を回し、3人で撮影。相変わらず悠斗はフリーズしたままだ。

「どうせならみんなで撮ろうよ。ここ緑が綺麗だし」
「いいの?!」
「やったー撮ろ撮ろー」

 俺の提案で続々と女子も集まってくる。しかしこの人数だと自撮りでは難しいなと思案していたところに、別の班が通りかかる。

「うわぁ佐野と清水だ。顔面偏差値エグっ」
「ひゃぁー本物だー」

 と騒ぎながら通り過ぎる集団の数歩後ろに、ある人物がいた。

「村瀬!ちょうど良かった。写真撮ってくれない?」
「ひっ、佐野君!?え、あ、はい」
「ありがとー」

 俺に手招きされ駆け寄ってきた村瀬にスマホを手渡す。横一列だと入り切らないので、女子4人が前で俺たち男子3人が後ろという構図に並び、バランスを村瀬に調整してもらう。

「後ろ3人もうちょっとこっち、川島もっと右ズレて。顔見えない」
「おう!」

 そう指示され川島がベストなポジションにズレようと動き、俺は動かない悠斗を力づくで動かそうと奮闘していたその時、落ちていた枝を踏んでしまい足が滑る。

「うわっ」

 前に倒れ込む俺を悠斗が抱きとめるように支えるも、その背中が川島にぶつかり、衝撃でよろけた川島が足をついた先にも丸い枝。

「うぉあぁぁっ」

 川島は見事にすっ転んだ。

「大丈夫?!」

 悠斗を押しのけ、うつ伏せに倒れた川島に駆け寄る。女子たちも「怪我してない?」「絆創膏絆創膏」と駆け寄りカバンを漁っている。

「大丈夫ー。ちょっと手擦りむいたけど、血は出てないし」

 手や服についた土をパンパンと払いながら立ち上がる川島に皆がホッとする。
 そんな中で村瀬が「あのー…」とおずおずと近付いてくる。

「びっくりしてシャッター押しちゃったみたいで、一応撮れたんだけど…」

 村瀬が差し出すスマホの画面を皆で確認すると、「ぷっ!」と笑いが起こる。
 そこには驚いて後ろを振り返る女子たちの隙間から抱き合う俺と悠斗の姿が丁度よく写り、さらに端には転ぶ瞬間のブレブレで躍動感ある川島が写っていた。

「何これ!」
「最高じゃん!これ提出しようよ!」
「ね!これしかないよ」

 皆が盛り上がり、課題の写真はこれを提出することに決まってしまう。

(いや、こんなみっともない写真嫌なんだけど)

 しかしここまで盛り上がられると水を差すわけにはいかない。ハイキング終了までになんとかこれを超える写真を撮るしかないか…

「村瀬ありがとなー!こんな奇跡の一枚撮ってくれて!…ところで村瀬の班の人たちは?」

 バシバシと村瀬の肩を叩きながら礼を述べる川島が、ふと周囲を見渡す。確かに今この周辺には俺たちしかいない。
 すると村瀬がだんだん絶望的な表情になり、震える声で川島に縋る。

「俺、置いてかれちゃったみたい…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

元カレ先輩に、もう一度恋をする。 ━━友だちからやり直すはずだった再会愛【BL】

毬村 緋紗子
BL
中学三年になる春。 俺は好きな人に嘘をついて別れた。 そして一年。 高校に入学後、校内で、その元カレと再会する。 遠くから見ているだけでいいと思っていたのに……。 先輩は言った。 「友だちに戻ろう」 まだ好きなのに。 忘れられないのに。 元恋人から始まる、再スタートの恋。 (登場人物) 渋沢 香名人 シブサワ カナト 高1 山名 貴仁 ヤマナ タカヒト 高3 表紙は、生成AIによる、自作です。 (替わるかもです。。)

前世で超有名だったBLゲーのモブに転生した

明瑠
BL
同性愛も異性愛も当たり前にある世界なのでチラチラとNLやGLも出てくる予定ですがBLメインのお話です 趣味に全振り 忙しい合間にちまちま書き進めていこうと思っています。たまに読み返しておかしな所があったらぼちぼち直していきます。 恋を知ってる青年と、まだ恋をした事がない彼らのお話

君の隣は

ゆい
BL
修学旅行での班分けで、隠キャな僕が席が隣というだけで、イケメンの班のメンバーに誘われた。人数合わせの為に。 その中でも圧倒的なオーラを放つ彼が、何故か僕を構ってくる。 なんの取り柄もない僕になんで? またしても突発的な思いつきによる投稿です。楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 久々(アルファポリスでは初)の現代BLです。言葉遣いが今の子達と違和感があるかと思いますが、限りなくスルーしていただけると有難いです。言葉遣いのおかしい箇所のご報告は有難いです。 今回もセリフが多めです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけると有難いです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...