アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第11話

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 結局校外学習で俺たちの班は村瀬に撮ってもらった写真を提出した。山頂で村瀬も含め班の皆で撮った写真も良いのではと提案したが、他の班の人たちから「1人多くね?」「え、おばけ…?」と怖がられたため、あの恥ずかしい写真を晒すことになってしまった。
 最終的に最優秀賞に選ばれた写真は構図と光の入り方が美しい、写真部の子が撮った作品だった。担任は俺たちの写真を気に入り特別賞という名ばかりの賞がもらえたが、最優秀賞の美しい写真と並べられることで余計に恥ずかしさが増す。
 そうして校外学習は幕を閉じ、またいつもの日常に戻る。いや、中間試験と地区大会が迫っているのでいつも通りでは無いか。校内に焦りとやる気が混ざりあった空気が徐々に流れ始める頃だ。



◆◇◆◇



 5月上旬、世間は連休に浮かれモードだが、俺たちにはそんなものは関係ない。インターハイ出場を懸けた地区大会のため、ほぼ毎日部活がある。とはいえうちの高校は昔何度か県大会に出場したことがあるというレベルだからそこまで厳しくはないが。練習試合の回数の少なさと丸1日休みがあるという状況は中学では考えられなかったし、練習自体もあの頃に比べると格段に優しい。

 そして今日は数少ない練習試合のうちの1つをこなすため、みんなで電車に乗り相手の高校へ向かっている。
 そういえば家が別方向の川島と村瀬と一緒に電車に乗るのは初めてだな。村瀬は背が高いので、つり革ではなく上の鉄棒に掴まり、ガタンゴトンと揺れるつり革に顔を攻撃されている。可哀想に、村瀬は見る度になにか不憫な目に遭っているな。

 そんなこんなで到着した練習試合相手の高校。自分の通っている高校とは建物の配置も壁の色も形も何もかも違うのでなんだか不思議な気分になる。この高校は説明会にも行っていないから足を踏み入れるのは完全に初めてだ。
 しかし体育館の中に入れば今まで散々経験したのと同じものを感じる。相手校の部員たちは俺の姿を発見するなり近くのやつとヒソヒソと話したり、チラチラと観察してくるのだ。
 特に1・2年生たちからの視線を感じる。1年は強豪中学の元部長に対する興味の眼差しだが、2年生からはボソッと「殴られたやつ」という声が聞こえてきた。それもそうだ。2年生たちは俺が平田に殴られたというゴシップを最後に高校へ上がり、その後1年間の俺のことを知らないのだから、当然俺に対する一番強い印象はそれになるだろう。
 その中で俺に手を振ってきた中学の同級生に軽く手を振り返すと、「おぉ…」という不思議な反応が起こる。
 そうして俺に集まる注目に悠斗がイライラし始め、自分の背中で俺を隠そうとする。邪魔だ。

 しかしこんなことを気にしていたってしょうがない。アップを済ませて、ようやく練習試合開始だ。

「本番想定して、集中していこう!」

 部長である大和先輩の声掛けに皆が気を引き締め、それぞれのポジションにつく。中学では大和先輩は部長ではなかったので彼のこうした声掛けは初めて聞くが、なんだか不思議と胸が熱くなる。大和先輩のリーダーシップとカリスマ性は見習うべきところが多い。
 俺はベンチなのでまだ出番は無いが、いつ交代させられてもいいように相手選手の動きをよく観察しておく。

 それにしても…弱いな。うちの先輩たちの実力は普段の練習で把握できているが、相手の選手もうちと似たり寄ったりだ。違うところといえば、うちのチームはだいぶ大和先輩頼りなプレイになっているところだ。

(あー違う違う、そこじゃない。ブロックもそのタイミングじゃないだろ)

 そんなことを考える内心とは裏腹に真剣な表情で声援を送る。まぁこの高校に入学した時点でわかっていたことだが、自分たちと張り合える相手のレベルを実際に目にするのはおもしろいな。中学時代とはまるで違うバスケ生活になるのだと実感が湧いてくる。

「佐野、交代」
「はい」

 監督から指示され、マッチアップの情報をもらい2年の先輩と交代する。
 そうして実際に試合に参加してみると、中学時代とはまた違った難しさを感じた。
 あの頃は対戦相手のレベルは高かったがその分味方のレベルも高かったので意思疎通がスムーズで思い通りに動けた。しかしここでは思い通りの動きをしてくれる人が大和先輩しかおらず戸惑うことが多い。
 俺と大和先輩だけでやれば確実に勝てるが、それをすれば他のメンバーから反感を買ってしまう。おそらく監督は地区大会の試合メンバーを決める際にこの練習試合での動きを加味するだろうから、下手な動きも上手すぎる動きもできない。力加減が非常に難しい試合だ。

 試合が終わり、両校の監督から試合の話を聞き、モップがけなど後片付けを済ませて帰路に着く。
 それにしてもよく出来たのではないだろうか。実力を示しつつ周囲のレベルに合わせた動きもできたし、試合終わりの先輩たちの反応もよかった。

「やっぱ佐野上手いなー。俺あんな動きできねぇわ」
「うん、すごかった。輝いてた」
「ははっなにそれ、練習すればみんなできるようになるよ」
「いや常人は練習してもあんな輝き放てませんが」

 川島は純粋に技術を褒めてくれているが村瀬は何を言っているんだろう。
 電車内でそんな他愛ない話をしている最中、ポコンッと俺のスマホの通知音が鳴った。何かと思って画面を見てみると、すぐにまたポコポコポコッと連続で通知が届く。

「だれ?」
「中学の友だち。今日の相手チームにいたから」

 こういう時、悠斗は毎回相手が誰なのか尋ねてくる。聞いたってわからないだろうに…
 メッセージの送り主は先程の練習試合で手を振ってきた同級生だ。メッセージの内容を確認してみると、「練習試合おつかれ!」「話すタイミング無かったけど、久しぶりに会えてよかった!」「俺がバスケ部入ったのびっくりした?」「てかもう一人イケメンいたけどあれ誰?!」と興奮気味の文章が続く。

「見るなよ」

 悠斗は俺のスマホ画面をなんの配慮も無く覗き込んで来る。注意すれば唇を尖らせて、「いいじゃん」とでも言いたげな顔で俺を見つめてくる。そんな顔してもダメだ。

「清水って絶対彼女束縛するタイプだよな」
「間違いない。しつこい男は嫌われますぞ」
「なー。5分以内に返信しなきゃ浮気とか言い出したりして」
「やばすぎる」

 そうやってからかい始める川島と村瀬を悠斗がギロリと睨み、「スミマセン」と村瀬が小さく謝る。
 そして悠斗は俺の肩に顔を埋め、「薫にしかしねーし」と呟く。俺にもするな。そして顔を埋めながらスマホ画面をチェックするな。

「ほんと佐野のこと好きだよなー」
「え、これってあの、もしかして、あれなのか…?」

 本当に、好かれすぎて困ったものだ。しかし悠斗は一応俺との約束を守っているし、最初の頃よりは格段に扱いやすくなっている。

 片手で悠斗の目を隠し、届いたメッセージに軽く返信してスマホを閉じる。見えない間にスマホを閉じられた悠斗は一瞬不満そうな顔をしたが、わしゃわしゃと頭を撫でてやれば喜ぶ。
 もはや犬のようなものだ。こうして俺に懐く姿を可愛いとも思う。こいつは俺の顔が好きだと言っていたが、俺も悠斗の顔は結構気に入っているのだ。

(まぁ、ただの所有欲なんだけどな)

 そんな俺たちの様子を川島は微笑ましげに見つめ、村瀬は若干顔を赤らめていた。
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