アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

文字の大きさ
12 / 72

第12話

しおりを挟む
 連休も終わり、いよいよ地区大会のメンバーが発表された。3年生中心のスタメン、2年生と数名の1年生がベンチという結果だ。
 ただ驚いたのは俺がスタメンに入っていたこと。確かに実力で言えば俺はスタメンから外れた3年生より上だが、勝ち負けより最後の試合は3年生に花を持たせようという雰囲気の強いこのチームで先輩を押しのけて俺が選ばれるとは思わなかった。
 先輩たちから反感を買うかと心配したが、みんな俺が選ばれたことを祝福してくれている。日頃の行いの成果だな。

 そして、先輩たちの頭を悩ませる問題が1つ。発表された地区大会のトーナメント表によると、2回戦で俺たちはなる高と対戦することになったのである。
 1回戦の対戦相手は俺たちとそう変わらない強さの高校であるため、勝てる可能性は十分にある。しかしその次で負けることは確実だ。それも相手がなる高となれば、一方的な試合となり、3年生たちは惨めな引退試合になるだろう。
 しかしうちの部の3年生たちは大和先輩を筆頭にみんな人が良い。みんな自分たちのことよりも俺のことを心配してくれている。

「もし1回戦を突破できたら、なる高の連中を佐野に近づけないようみんなで協力しような!」
「相澤、例のやつ見つけたら教えろよ」

 そうして試合のことよりも俺を守ることで盛り上がっている光景に、思わず口角が上がる。

「そんなに心配しなくて大丈夫ですって。でもありがとうございます」
「俺たちが守ってやるから安心して試合に集中しろよ!」

 先輩たちも多少は試合に集中してほしいが、こうして俺の味方の数を実際に確認できるのは嬉しいことだ。俺の行動は正しかったのだと安心できるし、なにより優越感に浸れる。

 地区大会まであとわずか、妙な部分に気合いが入っている部員たちと最後の追い込みをかける。



◆◇◆◇



「ここテストに出るからなー。ノートに写しとけよー」

 黒板をコツコツと叩きながら教師がそう言うと、ペンを走らせる音が教室内に一斉に響きだす。中間テストが迫ってきているためみんな必死なのだ。その中でも特に必死に授業中に出されるちょっとしたヒントを集めているやつがいる。左隣の席の川島だ。

「うおぉぉぉやべぇ、全然ついて行けねぇ」
「そんなに?」
「教科書読めばわかるだろ」

 休み時間になると川島が絶望的な表情で頭を抱えていた。うちの高校はそれなりの偏差値なので川島が普段の言動通りの頭脳だとは思っていなかったが、どうやってこの高校に入ったんだ?

「受験勉強めちゃくちゃ頑張ってさぁ、ここ入れたのマジで奇跡でさぁ…俺多分最下位入学だよぉ。昨日の小テストの点も低かったぁ」
「なんでここ来たんだよ」

 嘆く川島に悠斗が冷たく言い放つ。だが確かにそうだ。受験勉強を頑張ったのは偉いが、賢い選択とは言えない。努力の末ギリギリで合格したところで、入学後には成績下位の落ちこぼれになることは目に見えている。

「ひっでぇ、そのおかげで俺と出会えたんだから嬉しいだろ?」
「まぁ、それはそうだけど」
「全然」

 尚も冷たい悠斗に川島は白目を剥く。

「つーか大会迫ってるこの時期に中間テストとか不親切だよなー。どっちかずらしてくれよ」

 その言い分もわからなくはないが、そもそも普段からこつこつ勉強していれば大会時期と被っていたところで焦らずに済むだろう。自業自得だ。

「なー、佐野と清水はどうやって勉強してんの?なんか良い勉強法ない?」
「どうって聞かれても、別に普通に授業聞いてる課題解いてるだけだけど…」
「むしろそれ以外無いだろ」

 俺は川島と違ってギリギリを狙って受験していないのでこの程度で十分理解できている。
 正直に伝えるとまたもや川島は白目を剥いて呆れたような顔をする。

「カーッ!頭の出来が違うやつらに聞いても無駄だったわ」

 聞かれたから答えてやったのになんだその態度は。来年は川島から佐野先輩と呼ばれることになるかな。今から楽しみだ。



◆◇◆◇



 昼休み、いつものように悠斗に連れられ屋上前のスペースで昼食をとる。
 そういえばこいつ自分で料理してると言っていたな。悠斗のお弁当をよく見ると、とても男子高校生が作ったとは思えない丁寧な仕上がりで、とても美味しそうだ。

「なに、食べたいの?」

 お弁当を見つめていると、悠斗が笑って尋ねてくる。そう言われると、まるで人の食べ物を欲しがる卑しいやつに思われた気がして恥ずかしくなってくる。

「いや、綺麗な弁当だなって見てただけ」
「いいよ、これ食べさせてあげる。はいあーん」

 そう言って悠斗は卵焼きを箸で掴み、俺の口もとに近付ける。思わず口を開けて卵焼きを受け入れると、ふんわりとした出汁の風味が口内に広がった。卵も焦げ付くことなくちょうどいい柔らかさでふわふわだ。

「ん、美味しい。だし巻きだ」
「良かった。薫のはだし巻きじゃないの?」
「うん、うちのは甘いやつ。食べる?」

 自分の弁当箱を清水の方に差し出すと、清水は「あー」と口を開ける。

(食べさせろってことか)

 仕方なく自分の卵焼きを1つ清水の口の中に突っ込む。モグモグと味わう悠斗の反応を伺う。俺のお弁当は母が作ってくれたものだが、料理上手な悠斗に食べられるとなると少しドキドキする。もちろん母の料理は美味しいが…

「美味い。甘いのもいいな」
「良かった」

 母が俺のために早起きして作ってくれた弁当を褒められるのは素直に嬉しい。

「つーか2回戦なる高って大丈夫なの」
「まぁ、勝てはしないだろうな」

 シードのなる高と2回戦で当たるなんて運が悪い。なる高は私立のため周辺地域からだけでなく全国から実力者が集まるが、対してうちは最初からバスケガチ勢は入らない弱小校。可哀想な試合になることは確実だ。

「そうじゃなくて、平田ってやつ。試合中に何かしてきたら俺どうにもできねぇよ」

 バスケ未経験者の悠斗はベンチにも入れなかったため不安なようだ。もし試合メンバーに入っていたとしても俺のことは気にせずちゃんとポジションを守ってほしいんだが。

「大丈夫だよ。平田先輩は人一倍バスケへの熱量ある人だから、試合中に私的な感情で動いたりしない。それになる高でメンバーに入れてるのかもわかんないし」
「だといいけど…」
「ていうか、やたら俺を守ろうとするけどどういう感情なの?それ」

 前にお気に入りを人と共有したくないとか言っていたからそれと同じようなものなんだろうけど、今のこいつの口からどんな言葉が出るのかふと気になった。

「うーん、なんだろ。わかんね」
「なんだそれ」
「ここまで人と親しくなったの初めてだし、よくわかんねぇ。ただ薫が傷付いたり悲しんだりするのは嫌」
「ふーん」

 それなら大体の人が俺に向ける感情と同じだな。違うのは、悠斗は俺の本性を知っても変わらないことと、俺が悠斗の求める言動をしたことで引き出された感情では無いということだ。
 悠斗にとって俺との関係が初めてなのと同じように、俺も悠斗のような相手は初めてだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

元カレ先輩に、もう一度恋をする。 ━━友だちからやり直すはずだった再会愛【BL】

毬村 緋紗子
BL
中学三年になる春。 俺は好きな人に嘘をついて別れた。 そして一年。 高校に入学後、校内で、その元カレと再会する。 遠くから見ているだけでいいと思っていたのに……。 先輩は言った。 「友だちに戻ろう」 まだ好きなのに。 忘れられないのに。 元恋人から始まる、再スタートの恋。 (登場人物) 渋沢 香名人 シブサワ カナト 高1 山名 貴仁 ヤマナ タカヒト 高3 表紙は、生成AIによる、自作です。 (替わるかもです。。)

前世で超有名だったBLゲーのモブに転生した

明瑠
BL
同性愛も異性愛も当たり前にある世界なのでチラチラとNLやGLも出てくる予定ですがBLメインのお話です 趣味に全振り 忙しい合間にちまちま書き進めていこうと思っています。たまに読み返しておかしな所があったらぼちぼち直していきます。 恋を知ってる青年と、まだ恋をした事がない彼らのお話

君の隣は

ゆい
BL
修学旅行での班分けで、隠キャな僕が席が隣というだけで、イケメンの班のメンバーに誘われた。人数合わせの為に。 その中でも圧倒的なオーラを放つ彼が、何故か僕を構ってくる。 なんの取り柄もない僕になんで? またしても突発的な思いつきによる投稿です。楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 久々(アルファポリスでは初)の現代BLです。言葉遣いが今の子達と違和感があるかと思いますが、限りなくスルーしていただけると有難いです。言葉遣いのおかしい箇所のご報告は有難いです。 今回もセリフが多めです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけると有難いです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕がサポーターになった理由

弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する 生きている人全員に何らかの力がある 「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから) でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった だけど、僕には支えがあった そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す 僕は弱い 弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい だから、頑張ろうと思う…… って、えっ?何でこんな事になる訳???? ちょっと、どういう事っ! 嘘だろうっ! 幕開けは高校生入学か幼き頃か それとも前世か 僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった

処理中です...