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第13話
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地区大会1回戦当日、お揃いのユニフォームに身を包み念入りにストレッチをする。落ち着いた様子の3年生たちとは対照的に、川島や村瀬はキョロキョロと周りを見渡し浮かれた様子だ。悠斗は相変わらず俺を見ている。
今日負ければ3年生たちは引退。最後になるかもしれない試合でスタメンとして大和先輩と一緒に戦えるのは正直嬉しい。大和先輩は俺が純粋に尊敬する数少ない人間の1人だ。できれば喜んでほしいし悲しむ顔は見たくない。
だからこそ俺はずっと悩んでいる。勝利の喜びを大和先輩に与えたいと思うと同時に、明日なる高相手に惨めな最後を迎えるよりは、今日ギリギリのところで負けた方がいいのではないだろうかと考えてしまう。
今日俺はどの程度の力加減で試合に挑むべきなんだろうか。
「どうした?暗い顔して」
考え込む俺を心配して、大和先輩が声をかけてくれる。試合前に負けるべきか考えているなんて言うわけにはいかないので、笑って適当に誤魔化す。
「ちょっと緊張しちゃって」
「へぇ、薫でも緊張することあるんだな」
「そりゃありますよ」
大和先輩はからかうように笑った後、「薫なら大丈夫だよ」と優しい声で落ち着かせてくれる。
(ほんと、どこまでも優しい人だな)
そう和んだ瞬間、バシッと思い切り背中を叩かれる。
「いっ!」
「はははっ、気合い入れてくぞ!」
そうして大和先輩は他の部員たちにも気合いを入れに行く。その背中をぼーっと見つめていると、先程叩かれた背を悠斗が不安げに撫でてくる。
「痛くないか?あいつ、なんで急に叩くんだよ」
「平気。試合前に背中を叩くなんて運動部じゃ当たり前だろ」
「そうなのか?…まぁ、怪我しないで、頑張って」
「うん」
この運動部あるあるを知らないとは、悠斗は中学時代文化部だったのだろうか?だから俺の怪我をここまで心配しているのか?
(さて、どうするかなぁ…この試合)
刻一刻と試合時間が迫るなか、コート内でどう動けばいいのか、俺はまだ考えあぐねていた。
◆◇◆◇
「「「お願いします!」」」
相手チームと向かい合い、一列に並び挨拶を交わし、それぞれのポジションにつく。
審判がボールをまっすぐ上に投げ、両チームのジャンパーが高く飛ぶ。
最初にボールを手にしたのはうちのチームだ。そのままドリブル、パスと繋いでいくも、相手に取られ急いでディフェンスに回り、ボールを奪い返しオフェンスに回る。
しかし1回戦の相手は本当にうちとレベルがピッタリの良い相手だ。互いにシュートを決めては決められ、付かず離れずの白熱した試合となる。
うちのチームでは俺と大和先輩の実力だけ飛び抜けているが、相手チームにも同じように上手い選手1人いる。その人にボールを取られれば俺と大和先輩以外が止めることは難しい。
このままこの人を利用しつつ、いい感じに点を入れさせれば、悔いの残らない引退試合になるのではないだろうか。
俺自身も何回かシュートを決めつつ、ギリギリパスを奪われる位置にボールを出すなどして点差を調整していく。とはいえ下手になったとは思われたくないので絶妙なバランスが大切だ。
そのまま第2クォーターが終了し、ハーフタイムに入る。監督から反省点や後半の戦略を聞き、水分補給やストレッチをする。
「怪我してねぇ?」
「大丈夫」
悠斗は今日はやたらと怪我の心配をしてくる。母親か。
「佐野ー!めっちゃ良い動きしてたなー。後半も頑張れよー」
「めっちゃすごかった。頑張って」
「ありがとう。川島は交代あるんだからお前も頑張れよ」
悠斗と同じく未経験者の村瀬もベンチ外だが、川島は交代でコートに出るはずだ。
そうして和やかなハーフタイムも終わりに近付く。
さて、後半はどうするべきか…相手チームのエースは出ずっぱりだから後半は疲れて動きが悪くなるはずだ。前半のようには使えないだろう。
このままだと勝ってしまうな。
「薫。難しいことは考えずに、全力でこの試合を楽しめ」
「大和先輩…」
色々と考えて俺が力を出し切れていないことを察したのだろう。大和先輩が俺の隣に並び、控えめな声で言った。
「どんな結果になろうと、全力でぶつかり合えた方が俺は嬉しいから」
大和先輩にそう言われたら仕方ないな。全力を出すのはさすがに無理だが、もうわざと負けるという考えは捨てるしかない。
後半戦、明らかに良くなった俺たちの動きに焦り相手チームの表情も変わってくる。特にエースは疲れているだろうに前半よりも積極的になっている。
しかし俺たちが作った点差を埋めることはできず、試合は終了した。
「佐野~やったな!」
「すごかった!かっこよかった!」
「おつかれ、怪我してないか?」
「大丈夫」
試合終わり、俺たちは勝利に盛り上がりながら帰る準備を進める。
すると、ふと対戦校のエースが目に入った。互いに弱小校だから敗北に落ち込む者は少ない、皆あっけらかんとしているが、エースは皆に調子を合わせながらもどこか悲しそうな顔をしていた。
そうか、あの人があれだけ必死だったのは今日で引退だからか。今日俺たちが負ければ、大和先輩はあの人と同じ顔をしていたのかもしれない。いや、なる高との試合とどちらがましかなんて大和先輩の頭の中を覗かない限りわからない。考えたって無駄だ。
頭を切り替えて喜びに沸くチームメイトに目を向けると、もう明日のことで盛り上がっていた。試合のことではなく、「なる高の例のやつから佐野を守る」という話で盛り上がっているのだ。
そんなお人好したちを見ていると、良い引退の形だとか難しいことはどうでもよくなり、思わず笑みがこぼれる。
◆◇◆◇
「薫、なる高の平田ってやつとほんとに何があったんだ?」
帰り着いたマンションのエントランスで、悠斗が足を止め尋ねてくる。
「ちょっと喧嘩しただけだって言っただろ」
「お前がそんなミスを犯すとは思えない」
「嫌われてたんだよ、ずっと。
……ていうか、そんなこと聞いてどうするの?もし俺が中学の頃不良だったとかだったら?俺のこと嫌いになる?」
「別に、ただの興味本位。言いたくないならそれでいい。真相がどうであれ薫への気持ちは変わらないから」
「あっそ」
まっすぐ目を見つめてそう言われると、なんだか落ち着かない。しかしその言葉で少し安心した。悠斗なら例え俺が極悪人でもベタベタくっついてきそうな気がする。
今日負ければ3年生たちは引退。最後になるかもしれない試合でスタメンとして大和先輩と一緒に戦えるのは正直嬉しい。大和先輩は俺が純粋に尊敬する数少ない人間の1人だ。できれば喜んでほしいし悲しむ顔は見たくない。
だからこそ俺はずっと悩んでいる。勝利の喜びを大和先輩に与えたいと思うと同時に、明日なる高相手に惨めな最後を迎えるよりは、今日ギリギリのところで負けた方がいいのではないだろうかと考えてしまう。
今日俺はどの程度の力加減で試合に挑むべきなんだろうか。
「どうした?暗い顔して」
考え込む俺を心配して、大和先輩が声をかけてくれる。試合前に負けるべきか考えているなんて言うわけにはいかないので、笑って適当に誤魔化す。
「ちょっと緊張しちゃって」
「へぇ、薫でも緊張することあるんだな」
「そりゃありますよ」
大和先輩はからかうように笑った後、「薫なら大丈夫だよ」と優しい声で落ち着かせてくれる。
(ほんと、どこまでも優しい人だな)
そう和んだ瞬間、バシッと思い切り背中を叩かれる。
「いっ!」
「はははっ、気合い入れてくぞ!」
そうして大和先輩は他の部員たちにも気合いを入れに行く。その背中をぼーっと見つめていると、先程叩かれた背を悠斗が不安げに撫でてくる。
「痛くないか?あいつ、なんで急に叩くんだよ」
「平気。試合前に背中を叩くなんて運動部じゃ当たり前だろ」
「そうなのか?…まぁ、怪我しないで、頑張って」
「うん」
この運動部あるあるを知らないとは、悠斗は中学時代文化部だったのだろうか?だから俺の怪我をここまで心配しているのか?
(さて、どうするかなぁ…この試合)
刻一刻と試合時間が迫るなか、コート内でどう動けばいいのか、俺はまだ考えあぐねていた。
◆◇◆◇
「「「お願いします!」」」
相手チームと向かい合い、一列に並び挨拶を交わし、それぞれのポジションにつく。
審判がボールをまっすぐ上に投げ、両チームのジャンパーが高く飛ぶ。
最初にボールを手にしたのはうちのチームだ。そのままドリブル、パスと繋いでいくも、相手に取られ急いでディフェンスに回り、ボールを奪い返しオフェンスに回る。
しかし1回戦の相手は本当にうちとレベルがピッタリの良い相手だ。互いにシュートを決めては決められ、付かず離れずの白熱した試合となる。
うちのチームでは俺と大和先輩の実力だけ飛び抜けているが、相手チームにも同じように上手い選手1人いる。その人にボールを取られれば俺と大和先輩以外が止めることは難しい。
このままこの人を利用しつつ、いい感じに点を入れさせれば、悔いの残らない引退試合になるのではないだろうか。
俺自身も何回かシュートを決めつつ、ギリギリパスを奪われる位置にボールを出すなどして点差を調整していく。とはいえ下手になったとは思われたくないので絶妙なバランスが大切だ。
そのまま第2クォーターが終了し、ハーフタイムに入る。監督から反省点や後半の戦略を聞き、水分補給やストレッチをする。
「怪我してねぇ?」
「大丈夫」
悠斗は今日はやたらと怪我の心配をしてくる。母親か。
「佐野ー!めっちゃ良い動きしてたなー。後半も頑張れよー」
「めっちゃすごかった。頑張って」
「ありがとう。川島は交代あるんだからお前も頑張れよ」
悠斗と同じく未経験者の村瀬もベンチ外だが、川島は交代でコートに出るはずだ。
そうして和やかなハーフタイムも終わりに近付く。
さて、後半はどうするべきか…相手チームのエースは出ずっぱりだから後半は疲れて動きが悪くなるはずだ。前半のようには使えないだろう。
このままだと勝ってしまうな。
「薫。難しいことは考えずに、全力でこの試合を楽しめ」
「大和先輩…」
色々と考えて俺が力を出し切れていないことを察したのだろう。大和先輩が俺の隣に並び、控えめな声で言った。
「どんな結果になろうと、全力でぶつかり合えた方が俺は嬉しいから」
大和先輩にそう言われたら仕方ないな。全力を出すのはさすがに無理だが、もうわざと負けるという考えは捨てるしかない。
後半戦、明らかに良くなった俺たちの動きに焦り相手チームの表情も変わってくる。特にエースは疲れているだろうに前半よりも積極的になっている。
しかし俺たちが作った点差を埋めることはできず、試合は終了した。
「佐野~やったな!」
「すごかった!かっこよかった!」
「おつかれ、怪我してないか?」
「大丈夫」
試合終わり、俺たちは勝利に盛り上がりながら帰る準備を進める。
すると、ふと対戦校のエースが目に入った。互いに弱小校だから敗北に落ち込む者は少ない、皆あっけらかんとしているが、エースは皆に調子を合わせながらもどこか悲しそうな顔をしていた。
そうか、あの人があれだけ必死だったのは今日で引退だからか。今日俺たちが負ければ、大和先輩はあの人と同じ顔をしていたのかもしれない。いや、なる高との試合とどちらがましかなんて大和先輩の頭の中を覗かない限りわからない。考えたって無駄だ。
頭を切り替えて喜びに沸くチームメイトに目を向けると、もう明日のことで盛り上がっていた。試合のことではなく、「なる高の例のやつから佐野を守る」という話で盛り上がっているのだ。
そんなお人好したちを見ていると、良い引退の形だとか難しいことはどうでもよくなり、思わず笑みがこぼれる。
◆◇◆◇
「薫、なる高の平田ってやつとほんとに何があったんだ?」
帰り着いたマンションのエントランスで、悠斗が足を止め尋ねてくる。
「ちょっと喧嘩しただけだって言っただろ」
「お前がそんなミスを犯すとは思えない」
「嫌われてたんだよ、ずっと。
……ていうか、そんなこと聞いてどうするの?もし俺が中学の頃不良だったとかだったら?俺のこと嫌いになる?」
「別に、ただの興味本位。言いたくないならそれでいい。真相がどうであれ薫への気持ちは変わらないから」
「あっそ」
まっすぐ目を見つめてそう言われると、なんだか落ち着かない。しかしその言葉で少し安心した。悠斗なら例え俺が極悪人でもベタベタくっついてきそうな気がする。
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