アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第16話

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「はい、じゃあテスト返却するんで出席番号順に前に取りに来てください」

 それぞれの反応でざわつきながら一人ひとり前に出て解答用紙を受け取る。特に反応を見せない者、喜ぶ者、青ざめる者と様々だ。

「やばい…」

 川島は受け取った解答用紙を見ながら一言そう呟いた。

「赤点?」
「いや、ギリ回避。でもやべぇ…佐野は?」
「俺は思ったより取れてたかな」

 こういう場面は謙遜すると逆に反感を買う。ひけらかさず謙遜しすぎずちょうどいいバランスが大切だ。

「いいなー。清水は?」
「82」
「たっっっか」

 悠斗はあんまり熱心に勉強してる感じではないのに意外と取れてるんだな。ま、俺の方が上だけど。
 高校生活初めての定期テスト直後に地区大会という大変なスケジュールであったがここでこの点数を取れるなら今後も成績に関しては心配しなくてよさそうだ。

(テストの結果も良かったし、今日は部活もオフだし、放課後は久々にまったり過ごせるな)

 家に帰ったら何をしようかと考えていると、川島が先程とは打って変わって嬉しそうな顔でこちらを見てくる。

「なぁなぁ、今日の放課後村瀬も入れて4人で遊び行かね?」
(うわぁ嫌だ。でも断って付き合い悪いやつと思われるのもまずいしな)
「うん、いいね」
「薫が行くなら」
「やったー!」

 こうして俺の今日の予定は決まってしまった。



◆◇◆◇



「んで、どこで何する?」

 帰りのホームルームが終わったあと、学校を出て4人で駅に向かうところで川島が尋ねてきた。

「え、決めてなかったの?」
「うん、みんなで決めようぜ。何したい?」

 何かお目当てがあって誘ってきたのかと思っていたが、まさかノープランとは。
 俺はこいつらとやりたいことは特に無いから何も思い浮かばない。

「………誰も何もねーのかよ!」
「だって急だし」
「薫以外とやりたいことなんて無い」
「陽キャの放課後の過ごし方とかわからんって」

 そうして行き先も決まらないままどんどん駅に近付いてゆく。
 そもそも家でゆっくりしたい俺と川島たちとは遊びたくない悠斗、そして遊び方がわからない村瀬では何のアイデアも浮かばない。発案者の川島も一緒に過ごしたいだけで特にやりたいことは無いようだ。

「渋谷は?あそこならなんかしらあるだろ」
「人多いところはちょっと…」
「ダルい」
「陽キャの巣窟じゃん。絶対嫌」

 最近は外国人観光客が多くて平日でも混んでいるし、あそこはスカウトも多くて面倒臭いのだ。目的も無く行くような場所ではない。

「じゃあ、とりまゲーセンとか?」

 駅に着く頃、川島の一声でようやく行き先が決まった。一つ隣の駅に移動し、少し歩いてゲームセンターを目指す。
 この地域は店が少ないから人も少なくていい。放課後遊ぶのにうってつけの場所だ。

 お目当てのゲームセンターにたどり着き、自動ドアが開いた瞬間、様々な電子音が耳に入ってくる。

「村瀬ゲーム得意なんだろ?なんかやってよ」
「出た無茶振り。俺が普段やってるのはこういうゲームじゃないんで」

 UFOキャッチャーの間を練り歩きながら、村瀬がPCゲームだとかスマホだとか、コントローラーがどうのこうのと言ってゲームを拒否する。

「デケェぬいぐるみ取れよ」
「話聞いてました?クレーンゲームは専門外」
「チッ…」

 悠斗の命令にもめげずに拒否している。いつもなら村瀬は悠斗に言い返すなんてできないのに、ゲームセンターに入ってからの村瀬はなんだか元気だ。
 そんな中、俺はガラスケースの向こうにとても愛らしい存在を見つける。

「これ可愛い。カワウソ?」

 茶色いボディに白いお腹と口もと。つぶらな瞳にもっちりとしたフォルム。なんとも心惹かれる見た目だ。焦げ茶色のカワウソと薄茶色のカワウソの2種類のぬいぐるみキーホルダー、ペアで揃えたいな。

「欲しいの?」

 カワウソを見つめていると悠斗が指さして尋ねてくる。

「うん、でも2個は難しいかな」
「任せろ」

 そう言うと悠斗は機会についているモニターを操作し、スマホで決済を済ませアームを動かし始める。正面と横から狙いを定め、アームは見事カワウソを掴んだが、バランスを崩し落ちてしまう。

「あー惜っしー」

 諦めて別の場所に移動しようとすると、またスマホでお金を支払いアームを動かし始める。

「そんなガチでやらなくても…ちょっといいなって思っただけだし」
「いいんだよ、俺がやりたいだけ」
「清水は負けず嫌いだなぁ」

 二度目の挑戦もまた惜しいところで失敗し、悠斗は再び支払いモニターを操作する。今度は300円3回のボタンを押した。

「気が散るから別んとこ行ってろ。飽きたらそっち行くから」
「えー見たいのに…まぁしょうがねぇか。じゃあ行こ、俺格ゲーやりたい」

 クレーンゲームから追い出され、川島に手を引かれて村瀬と共に奥の格闘ゲームが置いてあるスペースに向かう。

「俺スマブロ結構やってるから自信ある!」
「スマブロと路上ファイターは全然違うよ」
「え!スマブロにこいつ出てくんじゃん!」

 自信満々にゲーム機の前に座る川島だったが、村瀬に速攻自信を折られる。
 しかし川島はそれでもやる気のようで、俺に対戦を挑んでくる。普段あまりゲームはしないのでよくわからないが、適当にボタンをポチポチと押してプレイする。

「ちょまって、まだ操作確認が!」

 待っていたらやられてしまうだろう。
 しかし悠斗はまだクレーンゲームをやっているのか。飽きたら来ると言っていたが、あれは俺のためにやっているだろう。あいつが俺に関することで飽きることあるのか?

「あぁぁぁぁ」

 そうこうしているうちに勝負がついたようだ。画面に"YOU WIN"と書かれているので俺の勝ちか。

「次!俺とやってください!」

 今度は村瀬が勝負を挑んでくる。

「見たところ佐野君はガードも回避もしない素人ですな。申し訳ないが勝てる気しかしない」

 勝ち戦とわかって挑んでくるとはダサい男だな。まぁ村瀬の言う通り先程は適当にボタンを押していただけのまぐれ勝ちだからな。ゲーマーの村瀬には楽勝だろう。
 さっさと終わらせてしまおうとスティックを傾け村瀬のキャラに接近しボタンを連打する。

「様子見も無し?! いたたたた」

 しばらくするとまた画面に"YOU WIN"と書かれている。勝ったのか。

「佐野のこと舐めたクセに負けてんじゃん」
「いやぁ、俺も実際プレイしたのは初めてなんで…」
「川島と村瀬も戦いなよ。俺ちょと悠斗見てくる」

 2人を置いてクレーンゲームの場所へ向かうと、悠斗はまだカワウソを狙っていた。

「いくら使ったの?もういいって」
「1個は取れた。あとは薄い方だけ…」

 そう言ってまた小銭を投入し、アームを動かし始める。するとキーホルダーのチェーンがちょうどアームの先に引っかかり、そのまま持ち上がる。

「おぉ」

 アームは薄茶色のカワウソを持ち上げたまま、取り出し口の方に移動し、カワウソは穴に落ちていく。
 悠斗は屈んで取り出し口からカワウソを取り出すと、それを持って俺の後ろに移動し、リュックにカチャカチャと何かしている。

「何してんの?」
「…できた。あげる」

 肩からリュックをおろして見てみると、正面のポケットのチャックに薄茶色のカワウソがついている。

「見て、おそろい」

 床に置いていたリュックを持ち上げ、俺に示してくる。悠斗のリュックには俺のと同じ場所に焦げ茶色のカワウソがついていた。

「なんだそれ、女子かよ」
「でも可愛いだろ」
「そーだな、俺も半分払うよ。いくら使ったの?」

 財布を取り出すため鞄のチャックを開こうとすると、その手を捕まれ止められる。

「いいよ。俺がやりたくてやっただけだから」
「………後で返せとか言うなよ」
「言わねーよ」
「これのかわりに何かしろとか」
「言わねーって。素直に受け取れ」
「ん、ありがとな」

 礼を言うと、悠斗はすごく優しそうな目をして笑った。そして俺の頭に手を伸ばしわしゃわしゃと撫で、そのまま肩に手を回し出口に向かって歩き出す。

「いや川島と村瀬置いてくなよ」
「チッ…」
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