アキレギアの幸福

鮭取 陽熊

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第15話

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「佐野!俺たちが守ってやるからな!」
「くそっなんだよアイツらにやにやしやがって。佐野には指一本触れさせねーぞ!」

 チームのみんなはこれからの試合よりも俺を守ることに夢中になっている。バスケで指一本触れさせないなんて無理だろ。そもそも俺とトラブルがあったのは平田先輩だけで他は関係ないのに、いつしかなる高全体が悪の組織か何かのように扱われ始めている。面白い人たちだなぁ。

 
「「「お願いします!」」」

 挨拶を交わす時もうちのチームだけ妙に敵意が強い。相手校の選手も例の噂は知っているようで、敵意を向けてくる俺たちに対して不快感をあらわにすることは無かったが、平田先輩に責め立てるような視線を向けている。

 そんな微妙な雰囲気で試合は始まった。
 最初のジャンプボールはなる高に取られ、そのままゴールを決められる。さすが強豪校。一軍選手たちでは無いようだがみんなレベルが高い。
 俺と大和先輩で何点か決めるが、すぐに取り返されてしまう。
 先輩たちは俺を守るとか言っていたが、俺の事を気にかけている余裕なんて無さそうだ。
 そして俺も非常に動きずらい。ポジションの関係で平田先輩がずっと俺のマークについているのだ。平田先輩のしつこさは中学で嫌という程知っている。そのしつこさは真面目な性格と諦めの悪さから来るもので、この人のマークの隙を突くのは至難の技だ。

 そうして点をリードされた状態のままハーフタイムに入る。後半もこの点差をひっくり返すのは不可能だろう。

「ひぃー、やっぱなる高すげーなぁ。あれで一軍じゃないとかヤバすぎるわ」
「レベルが違うね」
「薫、あいつに何かされてないか?」
「大丈夫だよ」
(何かしてたらファウルになるだろ)

 ハーフタイム中も点が取れない焦りよりもなる高との圧倒的なレベル差に感心している者が多い。

「そういえばあいつだろ?佐野を殴ったやつ」
「え、は?殴っただと!?」

 川島の言葉に村瀬が驚いた声をあげる。今さら知ったのか。今までみんなが騒いでいたのをこいつは何だと思ってたんだ?

「あいつ、いかにもって顔だよなぁ。安心しろよ佐野、高校ではそんなこと絶対起こらないようにみんなで守るから」
「ありがと」

 頼もしい宣言をする川島に微笑みかけて礼を言う。
 こいつらにとって俺を守るというのがもはや一種の娯楽になっているようだ。騎士にでもなったかのように錯覚して気持ちよくなっているのだろう。
 くだらない感情だが、俺にとっては非常に都合がいい。集団の中で上手く生き残るためには、自ら都合よく動いてくれる駒を作ることが重要なのだ。

(やはり俺はここでも上手くやれている)

 そんな優越感に浸っているうちにハーフタイムは終わり、再び試合が始まる。

 またもネチネチとした平田先輩のマークに苦しめられる。パスカットが成功する度に表情に喜びを滲ませてくるのが非常に不愉快だ。その分俺が出し抜けば目の下をピクピクと震わせイラつくのでストレスは発散できる。
 そうやってそれなりに楽しんでいたが、俺と交代になった先輩は平田先輩のマークに手も足も出ず点差が開いていった。

 そしてその点差を縮めることができないまま、残り時間はあと数十秒にまで迫る。もう今からスリーポイントを決めてもどうにもならない。
 最初からこうなることはわかっていたが、平田先輩のこちらを見下すような表情は気に入らない。勝つのは無理だがなんとかその鼻っ柱を折ってやりたいという一心で、俺は平田からボールを奪い駆け出す。
 俺をくい止めようと迫りくる相手選手たちも躱しゴールに近付くが、やはりしつこい平田はここまでピッタリついてくる。
 両手でボールを掲げ勢いをつけて飛び上がる。平田もほぼ同時に飛び上がり、そのボールを叩き落とそうとする瞬間、俺は一気にボールを持つ手を下げ、くるりと弧を描いて再びボールを頭上に掲げてそのままゴールに向かって投げた。

 ビーッという試合終了の合図と共に、ボールがゴールネットをくぐって床に落ちる。

「「うおぉぉぉぉ」」

 歓声を上げてチームメイトたちが俺に駆け寄り、抱きついてくる。
 いや負けだが、なんで勝利したみたいに喜んでるんだこの人たちは。

「すげーな佐野!」
「あんなん初めて生で見た!」

 相手選手たちに不思議がられながら挨拶を交し、試合終了だ。
 3年生たちはこれで引退だが、みんないいものが見れたと満足そうな顔をしている。大和先輩もなる高相手に本気で戦えて、心地よい疲れを感じているようだ。
 昨日はこの試合をやっていいのかと随分悩んだが、先輩たちの晴れやかな表情を見て俺も嬉しくなる。

「これで俺たちは引退になるが、最後に最高の試合ができたと思う。それに1・2年の今後の成長も楽しみだ。今までついてきてありがとう」

 部長である大和先輩の言葉に、2年生の数名と川島は涙でぐしょぐしょだ。大和先輩は相当慕われていたからな。俺も悲しい。

 そうして帰る準備を済ませ、体育館を後にする。これまで毎年訪れていた体育館だ。3年生たちがどういう進路に進むかわからないが、もうここで試合をすることは二度とない人も多いだろう。
 3年生たちの顔には少し寂しさが滲んでいた。



 最寄り駅から家までの帰り道を俺と悠斗と大和先輩の3人で歩く。今までも大和先輩は塾に行くためたまにしか一緒に帰れなかったが、これからはその機会はもっと減るだろう。
 なんだか寂しい気持ちを抱えながら、長くはない家路を噛み締めるように進む。

「薫の最後のシュート凄かったなぁ。本番で決めるなんてさすがだよ」
「必死になっちゃってつい…決まって良かったです」
「俺も試合出たかった」

 悠斗の発言に2人で目を丸くする。

「清水がそんなこと思ってたなんて!なんか嬉しいなぁ」
「ほんと、意外だね」
「薫を見てるだけなのは嫌だ。最後いっぱい抱きついてたし…」

 そう言って拗ねるように下を向く悠斗に、大和先輩はにまにまと口角を上げ、たまらずといった感じで悠斗の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「可愛いこと言うなぁ清水~。大丈夫だぞ、清水はセンスあるからすぐに試合出られるよ」

 さすが面倒見がよく兄貴力の高い大和先輩だ。こういうのは大好物らしい。
 頭をわしゃわしゃとされる悠斗は鬱陶しそうだが、振り払うことはせず大人しく撫でられている。あの悠斗を大人しくさせるなんて…

「なんか兄弟みたいですね」

 この光景が微笑ましくてついそんな感想が出てしまった。突拍子のない発言だが、大和先輩はおもしろがって乗ってくれる。

「清水も俺の弟になるか?
あーでもうちにはワガママ末っ子がいるからなぁ。清水が入ったら喧嘩しちまいそうだな」
「確かに大輝は悠斗と相性悪そうですね」

 知らない人と相性が悪そうだと言われ悠斗はきょとんとした顔をする。

「大輝もうちのバスケ部入るって勉強頑張ってるよ。来年は悠斗と大輝で薫の取り合いが始まるかもな」
「それは…大変そうですね」

 笑いながら言う大和先輩の言葉に俺は苦笑いする。来年の苦労がありありと想像できてしまう。
 そのまま大和先輩と別れ俺たちのマンションに到着するが、悠斗は先ほどの大和先輩の言葉に眉を顰めていた。
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