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第52話
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ボールのバウンドする音や靴底が擦れる音、指示を出す声など様々な音が響く体育館の端で、俺と悠斗、そして大輝の3人は肩身の狭い思いをしていた。
「うちはただでさえ人数少ないのになぁ」
「すみません」
「大輝まで抜けるとなると、うちの主力がすっぽりいなくなっちまうじゃねぇか」
「すみません」
「佐野は仕方ないけど、2人はなぁ…」
「すみません」
結局あの喧嘩、というか階段から落ちた際にで大輝も手首を捻挫したようで、包帯まみれの3人が翌日の朝練にやってきてすぐ顧問の説教が始まった。
悠斗は全くの無表情で返事すらせず説教を聞き流しているが、大輝はムスッとした表情でただただ「すみません」とだけ繰り返している今朝も1人で登校したようだし、やはり普段と様子が違う。あんなことがあったのだからいつも通りでいられるわけは無いが、昨日の出来事や俺と悠斗の関係を人に話してしまわないかが心配だ。
男に襲われかけたなんて俺のイメージが崩れるし、交際してることなどもってのほかだ。
おそらく今日、昨日の殴り合いについての話を先生から尋ねられるだろう。そこで真相を話さないようにと大輝にもお願いしたいが、とても頼み事ができる様子ではない。
しかし昼休みになっても一向に俺が先生に呼び出されることは無かった。
「悠斗は?」
「昨日のことで生徒指導室行かされてる」
お弁当を持ってやって来た川島に尋ねるとそう返ってきた。
(あ、2人を取り押さえるのに必死で先生たちは俺のことに気付いてなかったのか…)
俺も乱れた服を整えるために隠れてしまったし、完全に2人だけの喧嘩だと思われているわけか。
となると不安は増す一方だ。俺も一緒に呼び出されていたならその場で適当な言い訳を作れるのに…こうなったらもう祈るしかない。
「仲悪いとは思ってたけど、まさかここまでとはね」
「暴力はねぇよなーさすがに」
川島と村瀬が昨日のことについて喋り始める。悠斗と大輝の喧嘩のことはもうすっかり全校で噂になってしまっている。一応それなりに偏差値の高いこの学校では暴力事件など誰も聞いたことが無いため、あっという間に噂が広まった。
まぁ悠斗は普段から自己中心的な言動が多いためやりかねないと思われていたようだが、ただ容姿に惹かれてきゃーきゃー言っていた女子たちは今回の件で考えを改めたようだ。
また大輝もそれなりに女子人気はあったはずだが、今は悪いイメージが増えつつある。
(大輝は今まで俺にばっかりくっ付いてきて同級生との交友関係を蔑ろにしてたから、これからどうなるんだろ…)
「暴力ってどうなんだろ…まさか退学とかならないよね?」
「え、さすがにそれは無いだろ。わかんないけど」
村瀬の言葉にさらに不安が増してくる。
俺のせいで2人が退学なんてことになったら耐えられない。
◆◇◆◇
〈大輝視点〉
「何があったのか聞かせてもらえる?」
生徒指導室に呼び出され、清水先輩と横並びで椅子に座ると、机を挟んで正面に座る生徒指導の先生に尋ねられる。
こんな部屋に閉じ込められて問い詰められるのは正直言って怖い。完全に俺の自業自得ではあるが、この先どんな処分が下されるのかと思うと恐ろしく感じてしまう。
そんな俺とは対照的に、清水先輩は落ち着いた様子で口を開く。
「ただの喧嘩です」
簡潔に答える清水先輩に、俺は少し驚いてしまう。
どう考えても原因は俺なのに、どうしてこの人はそんな言い方をするんだ。ちゃんと説明すれば清水先輩の罪は軽くなるかもしれないのに。
「原因は?どうして殴ったんだ」
「こいつの言動にムカついたんで」
(は?それじゃ完全に清水先輩の方が悪いと思われるだろ。何してるんだ)
清水先輩が俺を庇う理由は無いはずだ。そんなに人間性の優れた人では無いし、俺を貶めることはあっても守ることなんて…
そこまで考えてハッとした。清水先輩が守ろうとしているのは佐野先輩だ。
正直に話せば俺が佐野先輩に手を出そうとしていたことが知られてしまう。男として、同性の後輩に襲われたなど自尊心を深く傷付けられるに違いない。そしてその話が外部に広まるとなれば、佐野先輩の今後の生活を壊してしまうことになる。
清水先輩は自分がどうなろうとも、佐野先輩の名誉を守ろうとしているのだ。
俺は今になってようやく自分の罪の重さを自覚する。いくら嫉妬に駆られようと、絶対に許されないことを俺はしてしまった。
「違います。俺が清水先輩の大切なものを傷付けたので、俺が悪いんです。殴られて当然のことをしました」
俺の発言で生徒指導の先生は混乱する。
2人とも大事な部分を語らないままただの喧嘩だという主張を繰り返し、俺たちはようやく開放された。
結局俺も清水先輩を同じくらい殴り返していたことでどっちもどっちということになり、「本来停学でもおかしくないんだからな?」という言葉とともに反省文の原稿用紙をどっさり渡された。
清水先輩は部屋から出るなり、振り返りもせずまっすぐ教室へと帰ってゆく。俺はただ、その背中を見つめることしかできなかった。
(遠いな…
もう、諦めるしかないのか)
先生から下される処分を恐れていた自分が恥ずかしい。自分の評判や将来がどうなろうとも、ただただ相手を守ることだけを考える…そんな献身的な愛が俺にあるだろうか。
少なくともそれを身に付けられるまでは、俺はあの人には敵わない。
「うちはただでさえ人数少ないのになぁ」
「すみません」
「大輝まで抜けるとなると、うちの主力がすっぽりいなくなっちまうじゃねぇか」
「すみません」
「佐野は仕方ないけど、2人はなぁ…」
「すみません」
結局あの喧嘩、というか階段から落ちた際にで大輝も手首を捻挫したようで、包帯まみれの3人が翌日の朝練にやってきてすぐ顧問の説教が始まった。
悠斗は全くの無表情で返事すらせず説教を聞き流しているが、大輝はムスッとした表情でただただ「すみません」とだけ繰り返している今朝も1人で登校したようだし、やはり普段と様子が違う。あんなことがあったのだからいつも通りでいられるわけは無いが、昨日の出来事や俺と悠斗の関係を人に話してしまわないかが心配だ。
男に襲われかけたなんて俺のイメージが崩れるし、交際してることなどもってのほかだ。
おそらく今日、昨日の殴り合いについての話を先生から尋ねられるだろう。そこで真相を話さないようにと大輝にもお願いしたいが、とても頼み事ができる様子ではない。
しかし昼休みになっても一向に俺が先生に呼び出されることは無かった。
「悠斗は?」
「昨日のことで生徒指導室行かされてる」
お弁当を持ってやって来た川島に尋ねるとそう返ってきた。
(あ、2人を取り押さえるのに必死で先生たちは俺のことに気付いてなかったのか…)
俺も乱れた服を整えるために隠れてしまったし、完全に2人だけの喧嘩だと思われているわけか。
となると不安は増す一方だ。俺も一緒に呼び出されていたならその場で適当な言い訳を作れるのに…こうなったらもう祈るしかない。
「仲悪いとは思ってたけど、まさかここまでとはね」
「暴力はねぇよなーさすがに」
川島と村瀬が昨日のことについて喋り始める。悠斗と大輝の喧嘩のことはもうすっかり全校で噂になってしまっている。一応それなりに偏差値の高いこの学校では暴力事件など誰も聞いたことが無いため、あっという間に噂が広まった。
まぁ悠斗は普段から自己中心的な言動が多いためやりかねないと思われていたようだが、ただ容姿に惹かれてきゃーきゃー言っていた女子たちは今回の件で考えを改めたようだ。
また大輝もそれなりに女子人気はあったはずだが、今は悪いイメージが増えつつある。
(大輝は今まで俺にばっかりくっ付いてきて同級生との交友関係を蔑ろにしてたから、これからどうなるんだろ…)
「暴力ってどうなんだろ…まさか退学とかならないよね?」
「え、さすがにそれは無いだろ。わかんないけど」
村瀬の言葉にさらに不安が増してくる。
俺のせいで2人が退学なんてことになったら耐えられない。
◆◇◆◇
〈大輝視点〉
「何があったのか聞かせてもらえる?」
生徒指導室に呼び出され、清水先輩と横並びで椅子に座ると、机を挟んで正面に座る生徒指導の先生に尋ねられる。
こんな部屋に閉じ込められて問い詰められるのは正直言って怖い。完全に俺の自業自得ではあるが、この先どんな処分が下されるのかと思うと恐ろしく感じてしまう。
そんな俺とは対照的に、清水先輩は落ち着いた様子で口を開く。
「ただの喧嘩です」
簡潔に答える清水先輩に、俺は少し驚いてしまう。
どう考えても原因は俺なのに、どうしてこの人はそんな言い方をするんだ。ちゃんと説明すれば清水先輩の罪は軽くなるかもしれないのに。
「原因は?どうして殴ったんだ」
「こいつの言動にムカついたんで」
(は?それじゃ完全に清水先輩の方が悪いと思われるだろ。何してるんだ)
清水先輩が俺を庇う理由は無いはずだ。そんなに人間性の優れた人では無いし、俺を貶めることはあっても守ることなんて…
そこまで考えてハッとした。清水先輩が守ろうとしているのは佐野先輩だ。
正直に話せば俺が佐野先輩に手を出そうとしていたことが知られてしまう。男として、同性の後輩に襲われたなど自尊心を深く傷付けられるに違いない。そしてその話が外部に広まるとなれば、佐野先輩の今後の生活を壊してしまうことになる。
清水先輩は自分がどうなろうとも、佐野先輩の名誉を守ろうとしているのだ。
俺は今になってようやく自分の罪の重さを自覚する。いくら嫉妬に駆られようと、絶対に許されないことを俺はしてしまった。
「違います。俺が清水先輩の大切なものを傷付けたので、俺が悪いんです。殴られて当然のことをしました」
俺の発言で生徒指導の先生は混乱する。
2人とも大事な部分を語らないままただの喧嘩だという主張を繰り返し、俺たちはようやく開放された。
結局俺も清水先輩を同じくらい殴り返していたことでどっちもどっちということになり、「本来停学でもおかしくないんだからな?」という言葉とともに反省文の原稿用紙をどっさり渡された。
清水先輩は部屋から出るなり、振り返りもせずまっすぐ教室へと帰ってゆく。俺はただ、その背中を見つめることしかできなかった。
(遠いな…
もう、諦めるしかないのか)
先生から下される処分を恐れていた自分が恥ずかしい。自分の評判や将来がどうなろうとも、ただただ相手を守ることだけを考える…そんな献身的な愛が俺にあるだろうか。
少なくともそれを身に付けられるまでは、俺はあの人には敵わない。
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