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番外編~バレンタイン~
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1月、お正月明けで生活リズムが狂っていたを治すことに専念していた。
2月、仕事の帰りにデパートに寄ると店内はバレンタイン一色になっていた。
「お疲れさまです。これ、営業部の女性社員一同からです」
「あぁ、ありがとう」
バレンタイン商戦、なんて世間では呼ばれているらしいがその実チョコレートの行き先は自分だ。
もはやチョコレートを買って男性にあげるのではなく、自分のために買う。それがここ2,3年の流れだ。
それは私も例外ではなくて。おととし辺りから営業部の女性社員でお金を出し合って男性社員に同じ物を渡す。
反対にホワイトデーは男性社員がお金を出し合って同じ物を女性に返す、というみんなが平等に貰えるシステムが出来上がっていた。
私はこっそり恋人である和希さんに視線を向けるとにこやかに受け取っていたのが見えた。
そして彼の机の横にある紙袋の中には営業部の女子社員から渡した物以外の箱がたくさんある。
(他の部からも人気だっていうのは分かってたけど……!)
営業部内ではそういうシステムにしているけれど他の部が同じとは限らない。
それに個人的に渡す人だっているだろう。袋の中に詰め込まれているチョコレートが少しだけ憎い。
(食べ物に罪はないし、渡した人だって義理の人ばっかりだろうけど……!)
心の中のモヤモヤを沈める様に自分で自分の機嫌を取ろうとするけれど、やっぱり難しい。
私と和希さんの関係は営業部の人は知っているけれど他の部の人までは知らないかもしれない。
そう思えば思うほど、自分と和希さんが釣り合ってるのかな、なんて不安もなってしまう。
「笹村。あとでこの資料メールで送って」
「あ、はい。わかりました」
悶々と考えていると仕事モードの和希さんにメモを渡された。そこには確かに資料の名前と帰りの待ち合わせ場所が書いてあった。
それを見ただけでさっきまで悩んでいたのがどこかにいってしまう。
「定時まで頑張ろうっと」
自分でも単純だなと思いながら、パソコンの画面に向かうのだった。
***
「で? お前からの本命は?」
今年のバレンタインは金曜日だからどちらかの家にお泊まりをしようとなり私の家にきていた。
仕事終わりに待ち合わせて二人で少しだけ良いところでご飯を食べて。
バレンタインに渡したいものを準備していたから、私の家に誘ったのだけれど、来て早々言われてしまうと焦ってしまう。
「えっと……あります。けど……」
冷蔵庫で寝かせているフォンダンショコラを温めるだけだ。
でも今日は和希さんとずっと一緒についてきた紙袋が気になってしまう。
「だよな。お前が家に誘うってことは何かあるんだって期待してた」
「う……はい。持ってきます……」
何がいいか考えながら珍しくお菓子のレシピ本を見ていた時に目についたフォンダンショコラ。
暖かい方がいいし、家に呼ぶ口実になるかな、なんて浮き足だっていた数週間前の自分がおめでたい。
「お待たせしました……」
レンジで温めて生クリームを添えて和希さんの目の前に置いた。
初めは失敗してしまったけれど、何度か練習しているうちにうまく作れるようになった渾身のフォンダンショコラだ。
「ほぅ……フォンダンショコラか。いただきます」
大人になってから甘い物にハマってしまった私は甘党である自覚はある。
甘すぎないかな、でも和希さんも甘い物が好きだったよね、などと内心はドキドキだ。
「ん……美味いな。これ店でも出せるんじゃないか?」
「ホントですか……!ありがとうございます! マスターとか常連さんにも味見してもらってたから良かったぁ」
「え……?」
「え?」
和希さんの手が一瞬止まる。
何かマズイことを言ってしまったかと見つめると和希さんは眉間に皺を寄せた。
「俺の前に、他のやつがこれ食ったのか?」
「だって、失敗作を和希さんに渡すわけにはいかないですし……」
「ふーん……」
すると和希さんは面白くなさそうな返事をしてぱくぱくと平らげてしまった。
(どうしたんだろう……?)
「ごちそうさまでした」
「えっと……コーヒーのおかわりいれますね」
その場にいたたまれなくなって立ち上がろうとすると和希さんに腕を掴まれた。
「待って」
「えっ……んっ……」
腕を引き寄せられると和希さんの唇が私の唇を塞いだ。唇を開かれて舌が絡まる。
食べ終わったフォンダンショコラの香りと甘さが私の口の中まで広がってくる。
「ん……あっ……」
「はぁ……こっちも、ごちそうだま」
唇が離れて行くと和希さんは舌なめずりをしてニヤリと笑った。
「……何するんですか」
「だって、俺の前にも食わせたやつがいるっていうから、悔しくて」
「……!」
拗ねたような口調でそう話す和希さんが少し子供っぽく見えて、なんだか安心する。
(嫉妬してたのって私だけじゃなかったんだ)
それが分かると私も和希さんの腕に抱きついた。
「それなら私だって、その紙袋一杯に入ってるチョコの差出人に嫉妬してます」
「……はぁ、これな。お返しするの大変なんだぞ」
「モテる人は大変ですね!」
少し嫌味のつもりでそう言うと和希さんはため息をついた。
「……いっそのこと、お前と結婚するか」
「え!?」
「だって、そうすればこんなにもらうこともなくなるだろ」
「え、いや、そうじゃなくて……」
さも当たり前のように言われて私の頭の中は混乱する。
和希さんと付き合い初めて「結婚」を意識したことがないと言えば嘘になるけれど、
こんな風に突然言われてしまえばその真意が分からない。
「あ、別にバレンタインがどうのこうのじゃなくて……ちゃんとお前とのこと、考えてるってことだから」
ふいっと視線を逸らされてしまったけれど、和希さんの耳が赤いのが分かる。
私は以前贈り物でもらった指輪をつけているけれど、和希さんはつけていない。
別につけてはいけない規則があるわけではないけれど、和希さんなりのけじめなのかもしれない。
「嬉しいです。あ、でも御挨拶とかもあるし……」
和希さんのおうちの事は聞いたことはある。でも、私の家のことを考えると正直気は進まない。
「それはどうにでもなる。今度の休み、うちの実家に行こうか」
「……はい!」
不安に思っていたことも和希さんの一言で安心に変わってしまうから不思議だ。
それぐらい、私の心は和希さんに寄りかかっている。
「それじゃ、恋人からの贈り物も堪能したし……」
和希さんにぐっと腰を抱き寄せられた。
鼻先が近づくぐらいの至近距離でお互いの吐息が触れる。
「恋人本人も堪能させてもらおうかな」
バレンタインってこういう日だったっけ?と一瞬脳裏に浮かんだけれど、
少し強引で熱い和希さんの唇に流されるように身を委ねるのだった。
Happy Valentine's Day!
2月、仕事の帰りにデパートに寄ると店内はバレンタイン一色になっていた。
「お疲れさまです。これ、営業部の女性社員一同からです」
「あぁ、ありがとう」
バレンタイン商戦、なんて世間では呼ばれているらしいがその実チョコレートの行き先は自分だ。
もはやチョコレートを買って男性にあげるのではなく、自分のために買う。それがここ2,3年の流れだ。
それは私も例外ではなくて。おととし辺りから営業部の女性社員でお金を出し合って男性社員に同じ物を渡す。
反対にホワイトデーは男性社員がお金を出し合って同じ物を女性に返す、というみんなが平等に貰えるシステムが出来上がっていた。
私はこっそり恋人である和希さんに視線を向けるとにこやかに受け取っていたのが見えた。
そして彼の机の横にある紙袋の中には営業部の女子社員から渡した物以外の箱がたくさんある。
(他の部からも人気だっていうのは分かってたけど……!)
営業部内ではそういうシステムにしているけれど他の部が同じとは限らない。
それに個人的に渡す人だっているだろう。袋の中に詰め込まれているチョコレートが少しだけ憎い。
(食べ物に罪はないし、渡した人だって義理の人ばっかりだろうけど……!)
心の中のモヤモヤを沈める様に自分で自分の機嫌を取ろうとするけれど、やっぱり難しい。
私と和希さんの関係は営業部の人は知っているけれど他の部の人までは知らないかもしれない。
そう思えば思うほど、自分と和希さんが釣り合ってるのかな、なんて不安もなってしまう。
「笹村。あとでこの資料メールで送って」
「あ、はい。わかりました」
悶々と考えていると仕事モードの和希さんにメモを渡された。そこには確かに資料の名前と帰りの待ち合わせ場所が書いてあった。
それを見ただけでさっきまで悩んでいたのがどこかにいってしまう。
「定時まで頑張ろうっと」
自分でも単純だなと思いながら、パソコンの画面に向かうのだった。
***
「で? お前からの本命は?」
今年のバレンタインは金曜日だからどちらかの家にお泊まりをしようとなり私の家にきていた。
仕事終わりに待ち合わせて二人で少しだけ良いところでご飯を食べて。
バレンタインに渡したいものを準備していたから、私の家に誘ったのだけれど、来て早々言われてしまうと焦ってしまう。
「えっと……あります。けど……」
冷蔵庫で寝かせているフォンダンショコラを温めるだけだ。
でも今日は和希さんとずっと一緒についてきた紙袋が気になってしまう。
「だよな。お前が家に誘うってことは何かあるんだって期待してた」
「う……はい。持ってきます……」
何がいいか考えながら珍しくお菓子のレシピ本を見ていた時に目についたフォンダンショコラ。
暖かい方がいいし、家に呼ぶ口実になるかな、なんて浮き足だっていた数週間前の自分がおめでたい。
「お待たせしました……」
レンジで温めて生クリームを添えて和希さんの目の前に置いた。
初めは失敗してしまったけれど、何度か練習しているうちにうまく作れるようになった渾身のフォンダンショコラだ。
「ほぅ……フォンダンショコラか。いただきます」
大人になってから甘い物にハマってしまった私は甘党である自覚はある。
甘すぎないかな、でも和希さんも甘い物が好きだったよね、などと内心はドキドキだ。
「ん……美味いな。これ店でも出せるんじゃないか?」
「ホントですか……!ありがとうございます! マスターとか常連さんにも味見してもらってたから良かったぁ」
「え……?」
「え?」
和希さんの手が一瞬止まる。
何かマズイことを言ってしまったかと見つめると和希さんは眉間に皺を寄せた。
「俺の前に、他のやつがこれ食ったのか?」
「だって、失敗作を和希さんに渡すわけにはいかないですし……」
「ふーん……」
すると和希さんは面白くなさそうな返事をしてぱくぱくと平らげてしまった。
(どうしたんだろう……?)
「ごちそうさまでした」
「えっと……コーヒーのおかわりいれますね」
その場にいたたまれなくなって立ち上がろうとすると和希さんに腕を掴まれた。
「待って」
「えっ……んっ……」
腕を引き寄せられると和希さんの唇が私の唇を塞いだ。唇を開かれて舌が絡まる。
食べ終わったフォンダンショコラの香りと甘さが私の口の中まで広がってくる。
「ん……あっ……」
「はぁ……こっちも、ごちそうだま」
唇が離れて行くと和希さんは舌なめずりをしてニヤリと笑った。
「……何するんですか」
「だって、俺の前にも食わせたやつがいるっていうから、悔しくて」
「……!」
拗ねたような口調でそう話す和希さんが少し子供っぽく見えて、なんだか安心する。
(嫉妬してたのって私だけじゃなかったんだ)
それが分かると私も和希さんの腕に抱きついた。
「それなら私だって、その紙袋一杯に入ってるチョコの差出人に嫉妬してます」
「……はぁ、これな。お返しするの大変なんだぞ」
「モテる人は大変ですね!」
少し嫌味のつもりでそう言うと和希さんはため息をついた。
「……いっそのこと、お前と結婚するか」
「え!?」
「だって、そうすればこんなにもらうこともなくなるだろ」
「え、いや、そうじゃなくて……」
さも当たり前のように言われて私の頭の中は混乱する。
和希さんと付き合い初めて「結婚」を意識したことがないと言えば嘘になるけれど、
こんな風に突然言われてしまえばその真意が分からない。
「あ、別にバレンタインがどうのこうのじゃなくて……ちゃんとお前とのこと、考えてるってことだから」
ふいっと視線を逸らされてしまったけれど、和希さんの耳が赤いのが分かる。
私は以前贈り物でもらった指輪をつけているけれど、和希さんはつけていない。
別につけてはいけない規則があるわけではないけれど、和希さんなりのけじめなのかもしれない。
「嬉しいです。あ、でも御挨拶とかもあるし……」
和希さんのおうちの事は聞いたことはある。でも、私の家のことを考えると正直気は進まない。
「それはどうにでもなる。今度の休み、うちの実家に行こうか」
「……はい!」
不安に思っていたことも和希さんの一言で安心に変わってしまうから不思議だ。
それぐらい、私の心は和希さんに寄りかかっている。
「それじゃ、恋人からの贈り物も堪能したし……」
和希さんにぐっと腰を抱き寄せられた。
鼻先が近づくぐらいの至近距離でお互いの吐息が触れる。
「恋人本人も堪能させてもらおうかな」
バレンタインってこういう日だったっけ?と一瞬脳裏に浮かんだけれど、
少し強引で熱い和希さんの唇に流されるように身を委ねるのだった。
Happy Valentine's Day!
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