10 / 71
チッターの野望編
第10話 勇者パーティの新人研修、ザコ編
しおりを挟む
× × ×
数時間後。俺たちはマルティナさんの教えてくれた通りに海へ出て、そこから船に乗って小さな島へ向かった。海岸からも見える程度の距離だったから、特に苦労もなく辿り着けて良かった。
「さて、じゃあ行こうか」
シロウさんは、宝具を背中に担いで内部へと進んでいった。ホーリーランスとホーリーロッドは船の中。二人は、マルティナさんに借りた槍と杖を持っての出発だ。
因みに、杖にはスキルの威力や効果を高める力がある。なくてもスキルを唱えられるけど、遠距離の攻撃スキルを多く覚えているモモコちゃんなら、あるに越した事は無い。
「おっ、早速それっぽい奴らがいるぜ」
視線の先には、見張りだろうか。何体かの魔物を従えた、怪しげな男の姿がある。
「アオヤ、レッスン2と行こうか」
「何教えてくれんですか~?」
「お前の戦闘を見る感じ、翻弄して攻撃を躱す『回避盾』が合ってるだろう。だから、俺が連中を遊撃出来るように……」
「コロスコロスコロス」
シロウさんの言葉を遮って出て行こうとするモモコちゃんだったが、シロウさんに捕まって、俺に身柄を預けられてしまった。
「着かず離れずの距離で攻撃を誘い出すんだ。やり方は、ここに来る途中に教えた通りだ。出来るか?」
「ちょっとわかんないけど、やってみます」
二人は、何の違和感も無く会話を再開した。慣れるの早すぎない?
「さて、問題はこっちのドラ猫だが」
「……なんですか」
ジトっとした目でシロウさんを見上げているが、注意されたから抑えているのか、これまでよりも大分マシな興奮度だった。
「お前、回復スキルは使えるのか?」
「使えますけど、フラケアしか覚えていません」
「なら、ヒーラーは無理だな。キータ、お前ライケア覚えてたよな」
「はい。後は、ポーションを何本かストックしてあります」
言って、鞄の中を確認すると、パワーポーションとヒールポーションが三つずつ。そして、緊急時の薬草が何枚か入っている。
「じゃあ、キータには斥候からヒールまで、少し範囲の広めなサポートを任せる。その代わり、しばらくは攻撃には参加しなくていい」
「なら、シロウさんは?」
「俺はリベロ的な、後ろ見ながらフォロー入って柔軟にやっていくわ。フェザケアくらいなら使えるしな」
「分かりました」
「いいか?モモコ。アオヤと息を合わせるんだぞ?アオヤが突破口を開いたら、一体ずつ片付けて行くんだ」
「……やってみます」
「うっし。じゃあ、頼むぜ。若者たちよ」
言うと、二人は草むらから出て行って、戦闘を始めた。
「いいんですか?シロウさん。いつもは、先手必勝、見敵必殺っとか言って、相手の頭から叩いてるじゃないですか。悠長に魔物の相手してたら、島中から応援を呼ばれてしまいますよ」
「それが狙いさ。ちょいとスパルタだが、今回は先の事を考えての実践訓練って感じだな」
「なるほど。見たところ低級の魔物みたいですし、悪魔と比べれば戦いやすい敵ですもんね」
「そゆこと。キータは、そっちの木の上から二人をサポートしてやってくれ」
「分かりました」
早速木の上に登って三人を見下ろすと、モモコちゃんは意外にもアオヤ君と協力をして魔物と戦っていた。後ろから襲い掛かってきそうな個体を射抜きつつ、予想通り次々に現れる魔物たちを相手にする彼らを観察する。
「スキル、『ギャザーボイス』」
ギャザーボイスは、敵の意識を集める声を発するスキルで、タンクが覚えるべき最も初歩的なスキルだ。コツさえ覚えれば誰でも習得出来る為、ここに来るまでにシロウさんが教えていたのだ。あれを使った戦闘を積んでいけば、上手な使い方や新しい敵の集め方を覚えていけるはずだ。
「モモコ、チャンスっぽくない?」
「グギギギ……。わ、分かってる」
「おぉ、我慢した」
思わず、呟いてしまった。なんか、あぁやって人が成長していくのを見るのは、感慨深いモノがあるな。後は、次の悪魔戦でもあぁやって我慢してくれる事を願うばかりだ。
やがて、敵の数は減っていき、場は落ち着きを見せた。どうやら、あの二人はかなり戦闘センスが高いらしい。柔軟な思考でシロウさんの教えを吸収し、そして実践する勇気が備わっている。
「ちょっと、上手くいきすぎだけどな」
「あれ、シロウさん。もういいんですか?」
「あぁ、あとは残党狩りだ。俺は、チッターが逃げる前に見つけ出して捕まえてくる。軌跡を残していくから、適当な頃に追って来てくれ」
そう言って、彼は一人でどこかへ走って行ってしまった。どうやら、倒した人間の持ち物から手掛かりを見つけたらしい。手には、どこかの鍵と何かの記されたメモを持っていた。
「了解です」
背中に答えて、木から降りると二人の元へ向かう。そこには、多くの屍の上で息を切らして、互いに肩を支え合う二人の姿があった。ライケアを掛けてポーションを渡すと、彼らをそれ飲んでからしゃがみ込んだ。
「疲れたっすよ~。でも、なんか思ったよりも上手くいったんでよかったっす」
「お疲れ、二人とも、よく出来てたと思うよ」
「私は、かなり消化不良ですけどね」
言って、彼女は転がった魔物の死体を蹴とばした。
数時間後。俺たちはマルティナさんの教えてくれた通りに海へ出て、そこから船に乗って小さな島へ向かった。海岸からも見える程度の距離だったから、特に苦労もなく辿り着けて良かった。
「さて、じゃあ行こうか」
シロウさんは、宝具を背中に担いで内部へと進んでいった。ホーリーランスとホーリーロッドは船の中。二人は、マルティナさんに借りた槍と杖を持っての出発だ。
因みに、杖にはスキルの威力や効果を高める力がある。なくてもスキルを唱えられるけど、遠距離の攻撃スキルを多く覚えているモモコちゃんなら、あるに越した事は無い。
「おっ、早速それっぽい奴らがいるぜ」
視線の先には、見張りだろうか。何体かの魔物を従えた、怪しげな男の姿がある。
「アオヤ、レッスン2と行こうか」
「何教えてくれんですか~?」
「お前の戦闘を見る感じ、翻弄して攻撃を躱す『回避盾』が合ってるだろう。だから、俺が連中を遊撃出来るように……」
「コロスコロスコロス」
シロウさんの言葉を遮って出て行こうとするモモコちゃんだったが、シロウさんに捕まって、俺に身柄を預けられてしまった。
「着かず離れずの距離で攻撃を誘い出すんだ。やり方は、ここに来る途中に教えた通りだ。出来るか?」
「ちょっとわかんないけど、やってみます」
二人は、何の違和感も無く会話を再開した。慣れるの早すぎない?
「さて、問題はこっちのドラ猫だが」
「……なんですか」
ジトっとした目でシロウさんを見上げているが、注意されたから抑えているのか、これまでよりも大分マシな興奮度だった。
「お前、回復スキルは使えるのか?」
「使えますけど、フラケアしか覚えていません」
「なら、ヒーラーは無理だな。キータ、お前ライケア覚えてたよな」
「はい。後は、ポーションを何本かストックしてあります」
言って、鞄の中を確認すると、パワーポーションとヒールポーションが三つずつ。そして、緊急時の薬草が何枚か入っている。
「じゃあ、キータには斥候からヒールまで、少し範囲の広めなサポートを任せる。その代わり、しばらくは攻撃には参加しなくていい」
「なら、シロウさんは?」
「俺はリベロ的な、後ろ見ながらフォロー入って柔軟にやっていくわ。フェザケアくらいなら使えるしな」
「分かりました」
「いいか?モモコ。アオヤと息を合わせるんだぞ?アオヤが突破口を開いたら、一体ずつ片付けて行くんだ」
「……やってみます」
「うっし。じゃあ、頼むぜ。若者たちよ」
言うと、二人は草むらから出て行って、戦闘を始めた。
「いいんですか?シロウさん。いつもは、先手必勝、見敵必殺っとか言って、相手の頭から叩いてるじゃないですか。悠長に魔物の相手してたら、島中から応援を呼ばれてしまいますよ」
「それが狙いさ。ちょいとスパルタだが、今回は先の事を考えての実践訓練って感じだな」
「なるほど。見たところ低級の魔物みたいですし、悪魔と比べれば戦いやすい敵ですもんね」
「そゆこと。キータは、そっちの木の上から二人をサポートしてやってくれ」
「分かりました」
早速木の上に登って三人を見下ろすと、モモコちゃんは意外にもアオヤ君と協力をして魔物と戦っていた。後ろから襲い掛かってきそうな個体を射抜きつつ、予想通り次々に現れる魔物たちを相手にする彼らを観察する。
「スキル、『ギャザーボイス』」
ギャザーボイスは、敵の意識を集める声を発するスキルで、タンクが覚えるべき最も初歩的なスキルだ。コツさえ覚えれば誰でも習得出来る為、ここに来るまでにシロウさんが教えていたのだ。あれを使った戦闘を積んでいけば、上手な使い方や新しい敵の集め方を覚えていけるはずだ。
「モモコ、チャンスっぽくない?」
「グギギギ……。わ、分かってる」
「おぉ、我慢した」
思わず、呟いてしまった。なんか、あぁやって人が成長していくのを見るのは、感慨深いモノがあるな。後は、次の悪魔戦でもあぁやって我慢してくれる事を願うばかりだ。
やがて、敵の数は減っていき、場は落ち着きを見せた。どうやら、あの二人はかなり戦闘センスが高いらしい。柔軟な思考でシロウさんの教えを吸収し、そして実践する勇気が備わっている。
「ちょっと、上手くいきすぎだけどな」
「あれ、シロウさん。もういいんですか?」
「あぁ、あとは残党狩りだ。俺は、チッターが逃げる前に見つけ出して捕まえてくる。軌跡を残していくから、適当な頃に追って来てくれ」
そう言って、彼は一人でどこかへ走って行ってしまった。どうやら、倒した人間の持ち物から手掛かりを見つけたらしい。手には、どこかの鍵と何かの記されたメモを持っていた。
「了解です」
背中に答えて、木から降りると二人の元へ向かう。そこには、多くの屍の上で息を切らして、互いに肩を支え合う二人の姿があった。ライケアを掛けてポーションを渡すと、彼らをそれ飲んでからしゃがみ込んだ。
「疲れたっすよ~。でも、なんか思ったよりも上手くいったんでよかったっす」
「お疲れ、二人とも、よく出来てたと思うよ」
「私は、かなり消化不良ですけどね」
言って、彼女は転がった魔物の死体を蹴とばした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる