追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
12 / 71
チッターの野望編

第12話 教団さん、行間で即落ちしてしまう

しおりを挟む
「行こうよ」
「……えっ?」


 二人は、俺を見て顔を見合わせた。


「他の冒険者より危険は多いし、旅の途中はお金も多くは貰えない、国が抱えているとは思えないような、クソみたいなブラックパーティだけどさ」


 遠くで、シロウさんのくしゃみの音が聞こえた。


「でも、楽しいよ。命削って本気で戦うのも、その日の夜にお酒を飲むのも、あの人と一緒に働くのも」


 きっと、大人としてはここで「やめとけ」と言ってやるのがいいんだろう。もしくは、シロウさんのように、考えさせるのが正しい対応なんだろう。
 でも、俺にはそんな事は出来ない。そんなに大人じゃないし、強くもない。だから、もし彼らに行きたいという気持ちが少しでもあるのなら、背中を押してやろうって思ったんだ。


「まぁ、僕は行きますよ。なんだかんだ、シロウさんいつも奢ってくれるし。それに、レッスンも2までしか受けていませんから」


 ほんと、この子は大物だな。


「モモコちゃんは?」
「……逆に聞きますけど、私を受け入れてくれるパーティって、ここ以外にあるんですか?」


 自覚、あったんだね。


「よし、じゃあ行こうか。チッターを捉えたんだし、国に引き渡せばそこそこの報酬も期待できそうだ」
「確かに。僕、めちゃくちゃ肉食べたいっすね」
「私も、なんかすっごくお肉が食べたいです」
「……そうだね。じゃあ、次の街に着いたら、とびきり美味しいステーキを食べに行こうか」


 実は、俺は自分の初めての後輩がすぐに辞めちゃうんじゃないかって、内心ビクビクしていたんだ。でも、シロウさんがクロウを追放した理由がようやく分かったから。本当の意味で、俺がやるべき事が分かったから。彼らが残ってくれて、本当に良かったと思ったんだ。


「ありがとう」


 × × ×


 ギリギスに着くと、シロウさんはチッターをブィー・グワン信徒の前に晒して、洗脳が全てが嘘だったと白状させた。更に、その足で教団が根城としている教会へ赴き、悪い噂の発端がどこにあるのかを、教会中を文字通りひっくり返して探した。すると、地下にはレストランや肉屋から強奪した冷凍肉がたくさんため込んであって、おまけにそれを教会の司祭連中が食べている事が分かったのだ。


「あとは、あんたらで決めなよ。殺してもいいし、生かしてもいい」


 捉えた司祭をマルティナさんたちへ明け渡し、シロウさんはそう言った。どうやら、こいつらが、街のブィー・グワン信徒へ良からぬ知恵を吹聴していたようだ。


「……彼らを殺しても、何も解決しません」
「そうなんだよな。でも、何事にも決着は必要だぜ。洗脳を解いてやれなかった詫びに、俺がブチ殺してやってもいい」
「ひ……っ。どうか、命だけは……」


 嘘だ。彼は、人を絶対に殺さない。


「いいえ、その必要はありません。彼らがテロリズムを止めて、元の平和な生活を送る事が出来れば、それでいいのです」
「……だってよ、ブルジョワ共。絶対そういう風に信徒どもに指導しろよ。お前ら、この命の恩人に仇を討つようなマネしやがったら、今度は助からねえと思えよ」
「あ、ありがとうございます!」
「マルティナ。これ、俺への『ホットラインクリスタル』。もしなんかあったら、連絡しな」


 そう言って、司祭たちに見せびらかしながら渡したのは、シロウさんがいつも使っている青いモノとは違う、緑色のクリスタルだった。ホットラインと言うくらいだから、使えば彼に直接連絡が行くのだろう。


「助かります。あなたのような勇者は、近年では珍しいですね」
「誉めるなら、こいつらを褒めてやんなよ。特に、このアオヤとモモコは、ほとんど二人で敵をやっつけちまったんだぜ。この街救ったのは、こいつらさ」
「まぁ、そうだったんですか。若いのに偉いですねぇ、よしよし」


 言うと、マルティナさんは二人の頭を撫でた。二人とも、まんざらでもなさそうだ。


「……それでは、占いの結果を。この紙に記してありますので、北門から抜けてハードポイントという街へ向かって下さい。その街の近くに、カチョークラスの幹部のいるダンジョンがあります」
「分かったよ」
「ただ、気を付けてください。そこのカチョーは、恐らく『タタキアゲ』です」
「とうとう来たか。骨が折れそうだな」
「すいません。タタキアゲってなんすか?」


 アオヤ君が訊くと、マルティナさんは彼に目を向けた。


「悪魔ではない、悪魔幹部の事です。本来、悪魔幹部は生まれながらの悪魔種族が担当する事になっていますが、稀に下級の魔物から実力だけでのし上がって来た幹部が居るのです。それが、タタキアゲと呼ばれている悪魔幹部です」
「……えーっと。つまり、かなりヤバいって事ですか?」
「その通りだ。多分、今の俺たちの実力で考え無しに突っ込んだら、殺される」
「なるほど。でも、それなら普通の冒険者も挑戦出来るんじゃないですか?」
「そうだったらよかったんだけどね。タタキアゲも、幹部へ昇格するときに『サカズキ』と言う形で悪魔の血を体内に取り込むんだ。もちろん、ここで拒絶反応を起こして死んじゃうこともあるんだよ。でも、幹部として生きているってことは、そこのカチョーはサカズキにも耐えた強力な魔物ってことになるんだ。まぁ、たまにそれでも戦える冒険者が現れたりするんだけどね」


 話を聞きながら武者震いするモモコちゃんを、マルティナさんが頭を撫でて抑えている。


「じゃあ、シャチョーとかもそのタタキアゲなんですかね」
「いいや。いくら実力とは言え、センム以上の悪魔は格が違う。タタキアゲが居るのは、精々ブチョーまでだな」
「……なんか、思ったより大変そうっすね」
「だから、お前らには頑張ってもらわねえとな。よろしく頼むぜ」


 そして、俺たちは次の街、ハードポイントへ向かった。途中で何度かの修練を行ったけど、この程度のスキルアップで勝てるとは、とても思えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...