追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
37 / 71
勇者不在のレコンキスタ編

第35話 ここまでなのか、俺たちの旅は

しおりを挟む
「これで、ライフラインは無くなったよ。適合者の君たち」


 言って、奴はニヤリと右頬を釣り上げた。しかし、動きに全く隙はない。


「……俺たちを、知ってるのか?」
「当然だよ。実は、今地獄ではチョットした有名人なのさ。久しぶりに、ここまで来る人間が現れるんじゃないかとね。掛け金のオッズは、約12万倍だ」


 俺たちを使って、賭けをしているだと?人間の命運は、奴らにとって娯楽でしかないというのか?それに、何が12万倍だ。俺たちだって、確実に強くなっている。そんなに実力の差があるだなんて、あっていいワケがない。


「ナメた事を」
「そんな事は無い。先代の勇者は289万倍だったし、その前は334万倍だった。それに比べれば、素晴らしい倍率だろう。キータ君」


 ……名前を呼ばれたことで、全てを理解した。
 そうか。俺の考えなんて、最初からお見通しだったのか。俺たちがここに来た事を聞いたのか、ここに来る事が出来る人間を俺たちだと予想していたのか、それは分からない。しかし、さっきの言葉から察するに、こいつは一人で俺たちを相手に出来ると確信しているから、こうしてここに居るのだろう。


 どこまでも、ナメ腐ってくれる。つまり、こいつはカチョーレベルなんて優しい相手ではないということだ。


「お前が、ブチョークラスの悪魔という事か」
「そうだが、役職で呼ばれるのは、あまり好きではないんだ。私のことは、是非バーレニィと呼んでくれ。魔王様から授かった、大切な名前さ」


 妙な事に拘る奴だと、そんなことを考えてしまった。名前を大切にしているというのは、俺を人間と呼ばなかった事からも間違いないのだろう。


「さて、前置きはこれくらいにして。やろうか」


 不敵な笑みを浮かべたバーレニィに、一歩だけ後ろに後ずさってしまう。しかし、まずは二人の回復だ。何とか隙を作って、スキルの発動をしなければ。


「行くぞッ!トロサさんはアオヤ君と前に!モモコちゃんは俺が二人を回復するまでの支援を!スキル、ライブレイブ!」


 言って、バフを掛けた瞬間にアオヤ君が飛び出し、モモコちゃんはバーレニィの攻撃に備えていつでも反撃出来るようにホーリーロッドを構えた。そして、俺は回復を……。


「おや、アオヤ君だけかね。立ち向かってくるのは」


 その言葉を聞いて、ようやく事態に気が付いた。残った三人が、戦意を失って立ち尽くしている事に。


「な、何やってるんですか?ダメージを与えられなくても、攻撃を防ぐ事は出来るんです。戦わないと、死ぬんですよ?」
「む、無理だ。足がすくんで、動けないんだよ」
「そんなこと言ったって!やらなきゃやられるんですよ!?」


 悪魔が、小さく笑う。


「まぁ、仕方ないさ。ただの人間の限界なんて、所詮その程度だよ」
「うるせえッ!なら、彼らのヒールを任せる!みなさん、頼みますよ!」
「……戦略を捨てた戦略家が、戦えるとでも?君は、残された唯一の勝ち筋を手放すのか」


 弓を構え、矢を引く。照準の向こうのバーレニィは、先程までの楽しそうな表情とは打って変わって、期待外れを嘆くような、落胆を浮かべていた。


「もういい。私が相手をするまでもない。おいで、グラナカカ」


 すると、突然ダンジョン全体が震え始めた。そして、壁に大きな穴が空いたかと思うと、勢いよく飛び出してきた何かがとぐろを巻いてバーレニィの周囲を囲った。
 とんでもないサイズだ。体は顔よりも更に大きすぎて部屋に入りきっておらず、横穴に体を残したままだ。大きな口からは、どういうわけか大量の血を流している。


「お前……ッづぁ!アァァああァぁッ!!」


 それは、シロウさんを飲み込んだ巨大なワームだった。しかし、姿を見た瞬間に、またもやモモコちゃんの周囲を黒い炎が逆巻いた。怒りが再び、燃え上がったんだ!


「モモコちゃん!!」
「……ほう。モモコ君は、を扱えるのか。驚いたね、随分と懐かしい技だ」


 マズい!もしここで奥義を放てば、モモコちゃんまで戦えなくなってしまう!


「ダメだ!アオヤ君、ホーリーロッドに攻撃をぶつけるんだ!」


 しかし、一番前を走っていた彼が、そんな言葉に反応出来るはずがないのは、司令を出した俺が一番良くわかっている。俺が矢を撃つしかないのに。もう、自分でも何を言っているのかが分からない。そして。


「あ……っ」


 矢は、力無い俺の手の隙間をすり抜けて、地面に落ちていった。拾っている時間なんて、もうない。


 奥義は、当たるのか?否、ありえない。バーレニィは、俺たちの手を知り尽くしている。だからこそ、あんなにも余裕でいるのだ。
 モモコちゃんが動けなくなれば、俺とアオヤ君の二人だけ。セイクリッドストライクは?無理だ。振りかぶった瞬間に、あの光で貫かれる。


 なら、回復。いや、間に合わ……。


「繝倥Ν」


 彼女の言葉の意味は、分かる。あれはきっと、ヘルプロミネンスだ。


 時間が、止まったような感覚。伸ばす手の速度は、ゼロに近い。脳裏をよぎる景色は、まるで全ての終わりを示しているようだ。


 ここまでなのか、俺たちの旅は。


 ……シロウさん。


「ブった斬れ!チャカぁ!」
「スキル、ザングレイズ!!うぉぉォォオオぉぉッッ!!」


 瞬間、ワームのとぐろを巻く喉の辺の一部が内側から弾け、凄まじい程の血飛沫をあげて肉片とともに壁まで吹き飛んだ。そして、その中から勢いよく現れたのは、血塗れの大男と、彼に抱えられ、無骨な銀の剣を握り締めた一人の少年だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...