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勇者不在のレコンキスタ編
第35話 ここまでなのか、俺たちの旅は
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「これで、ライフラインは無くなったよ。適合者の君たち」
言って、奴はニヤリと右頬を釣り上げた。しかし、動きに全く隙はない。
「……俺たちを、知ってるのか?」
「当然だよ。実は、今地獄ではチョットした有名人なのさ。久しぶりに、ここまで来る人間が現れるんじゃないかとね。掛け金のオッズは、約12万倍だ」
俺たちを使って、賭けをしているだと?人間の命運は、奴らにとって娯楽でしかないというのか?それに、何が12万倍だ。俺たちだって、確実に強くなっている。そんなに実力の差があるだなんて、あっていいワケがない。
「ナメた事を」
「そんな事は無い。先代の勇者は289万倍だったし、その前は334万倍だった。それに比べれば、素晴らしい倍率だろう。キータ君」
……名前を呼ばれたことで、全てを理解した。
そうか。俺の考えなんて、最初からお見通しだったのか。俺たちがここに来た事を聞いたのか、ここに来る事が出来る人間を俺たちだと予想していたのか、それは分からない。しかし、さっきの言葉から察するに、こいつは一人で俺たちを相手に出来ると確信しているから、こうしてここに居るのだろう。
どこまでも、ナメ腐ってくれる。つまり、こいつはカチョーレベルなんて優しい相手ではないということだ。
「お前が、ブチョークラスの悪魔という事か」
「そうだが、役職で呼ばれるのは、あまり好きではないんだ。私のことは、是非バーレニィと呼んでくれ。魔王様から授かった、大切な名前さ」
妙な事に拘る奴だと、そんなことを考えてしまった。名前を大切にしているというのは、俺を人間と呼ばなかった事からも間違いないのだろう。
「さて、前置きはこれくらいにして。やろうか」
不敵な笑みを浮かべたバーレニィに、一歩だけ後ろに後ずさってしまう。しかし、まずは二人の回復だ。何とか隙を作って、スキルの発動をしなければ。
「行くぞッ!トロサさんはアオヤ君と前に!モモコちゃんは俺が二人を回復するまでの支援を!スキル、ライブレイブ!」
言って、バフを掛けた瞬間にアオヤ君が飛び出し、モモコちゃんはバーレニィの攻撃に備えていつでも反撃出来るようにホーリーロッドを構えた。そして、俺は回復を……。
「おや、アオヤ君だけかね。立ち向かってくるのは」
その言葉を聞いて、ようやく事態に気が付いた。残った三人が、戦意を失って立ち尽くしている事に。
「な、何やってるんですか?ダメージを与えられなくても、攻撃を防ぐ事は出来るんです。戦わないと、死ぬんですよ?」
「む、無理だ。足が竦んで、動けないんだよ」
「そんなこと言ったって!やらなきゃやられるんですよ!?」
悪魔が、小さく笑う。
「まぁ、仕方ないさ。ただの人間の限界なんて、所詮その程度だよ」
「うるせえッ!なら、彼らのヒールを任せる!みなさん、頼みますよ!」
「……戦略を捨てた戦略家が、戦えるとでも?君は、残された唯一の勝ち筋を手放すのか」
弓を構え、矢を引く。照準の向こうのバーレニィは、先程までの楽しそうな表情とは打って変わって、期待外れを嘆くような、落胆を浮かべていた。
「もういい。私が相手をするまでもない。おいで、グラナカカ」
すると、突然ダンジョン全体が震え始めた。そして、壁に大きな穴が空いたかと思うと、勢いよく飛び出してきた何かがとぐろを巻いてバーレニィの周囲を囲った。
とんでもないサイズだ。体は顔よりも更に大きすぎて部屋に入りきっておらず、横穴に体を残したままだ。大きな口からは、どういうわけか大量の血を流している。
「お前……ッづぁ!アァァああァぁッ!!」
それは、シロウさんを飲み込んだ巨大なワームだった。しかし、姿を見た瞬間に、またもやモモコちゃんの周囲を黒い炎が逆巻いた。怒りが再び、燃え上がったんだ!
「モモコちゃん!!」
「……ほう。モモコ君は、ソレを扱えるのか。驚いたね、随分と懐かしい技だ」
マズい!もしここで奥義を放てば、モモコちゃんまで戦えなくなってしまう!
「ダメだ!アオヤ君、ホーリーロッドに攻撃をぶつけるんだ!」
しかし、一番前を走っていた彼が、そんな言葉に反応出来るはずがないのは、司令を出した俺が一番良くわかっている。俺が矢を撃つしかないのに。もう、自分でも何を言っているのかが分からない。そして。
「あ……っ」
矢は、力無い俺の手の隙間をすり抜けて、地面に落ちていった。拾っている時間なんて、もうない。
奥義は、当たるのか?否、ありえない。バーレニィは、俺たちの手を知り尽くしている。だからこそ、あんなにも余裕でいるのだ。
モモコちゃんが動けなくなれば、俺とアオヤ君の二人だけ。セイクリッドストライクは?無理だ。振りかぶった瞬間に、あの光で貫かれる。
なら、回復。いや、間に合わ……。
「繝倥Ν」
彼女の言葉の意味は、分かる。あれはきっと、ヘルプロミネンスだ。
時間が、止まったような感覚。伸ばす手の速度は、ゼロに近い。脳裏を過る景色は、まるで全ての終わりを示しているようだ。
ここまでなのか、俺たちの旅は。
……シロウさん。
「ブった斬れ!チャカぁ!」
「スキル、ザングレイズ!!うぉぉォォオオぉぉッッ!!」
瞬間、ワームのとぐろを巻く喉の辺の一部が内側から弾け、凄まじい程の血飛沫をあげて肉片とともに壁まで吹き飛んだ。そして、その中から勢いよく現れたのは、血塗れの大男と、彼に抱えられ、無骨な銀の剣を握り締めた一人の少年だった。
言って、奴はニヤリと右頬を釣り上げた。しかし、動きに全く隙はない。
「……俺たちを、知ってるのか?」
「当然だよ。実は、今地獄ではチョットした有名人なのさ。久しぶりに、ここまで来る人間が現れるんじゃないかとね。掛け金のオッズは、約12万倍だ」
俺たちを使って、賭けをしているだと?人間の命運は、奴らにとって娯楽でしかないというのか?それに、何が12万倍だ。俺たちだって、確実に強くなっている。そんなに実力の差があるだなんて、あっていいワケがない。
「ナメた事を」
「そんな事は無い。先代の勇者は289万倍だったし、その前は334万倍だった。それに比べれば、素晴らしい倍率だろう。キータ君」
……名前を呼ばれたことで、全てを理解した。
そうか。俺の考えなんて、最初からお見通しだったのか。俺たちがここに来た事を聞いたのか、ここに来る事が出来る人間を俺たちだと予想していたのか、それは分からない。しかし、さっきの言葉から察するに、こいつは一人で俺たちを相手に出来ると確信しているから、こうしてここに居るのだろう。
どこまでも、ナメ腐ってくれる。つまり、こいつはカチョーレベルなんて優しい相手ではないということだ。
「お前が、ブチョークラスの悪魔という事か」
「そうだが、役職で呼ばれるのは、あまり好きではないんだ。私のことは、是非バーレニィと呼んでくれ。魔王様から授かった、大切な名前さ」
妙な事に拘る奴だと、そんなことを考えてしまった。名前を大切にしているというのは、俺を人間と呼ばなかった事からも間違いないのだろう。
「さて、前置きはこれくらいにして。やろうか」
不敵な笑みを浮かべたバーレニィに、一歩だけ後ろに後ずさってしまう。しかし、まずは二人の回復だ。何とか隙を作って、スキルの発動をしなければ。
「行くぞッ!トロサさんはアオヤ君と前に!モモコちゃんは俺が二人を回復するまでの支援を!スキル、ライブレイブ!」
言って、バフを掛けた瞬間にアオヤ君が飛び出し、モモコちゃんはバーレニィの攻撃に備えていつでも反撃出来るようにホーリーロッドを構えた。そして、俺は回復を……。
「おや、アオヤ君だけかね。立ち向かってくるのは」
その言葉を聞いて、ようやく事態に気が付いた。残った三人が、戦意を失って立ち尽くしている事に。
「な、何やってるんですか?ダメージを与えられなくても、攻撃を防ぐ事は出来るんです。戦わないと、死ぬんですよ?」
「む、無理だ。足が竦んで、動けないんだよ」
「そんなこと言ったって!やらなきゃやられるんですよ!?」
悪魔が、小さく笑う。
「まぁ、仕方ないさ。ただの人間の限界なんて、所詮その程度だよ」
「うるせえッ!なら、彼らのヒールを任せる!みなさん、頼みますよ!」
「……戦略を捨てた戦略家が、戦えるとでも?君は、残された唯一の勝ち筋を手放すのか」
弓を構え、矢を引く。照準の向こうのバーレニィは、先程までの楽しそうな表情とは打って変わって、期待外れを嘆くような、落胆を浮かべていた。
「もういい。私が相手をするまでもない。おいで、グラナカカ」
すると、突然ダンジョン全体が震え始めた。そして、壁に大きな穴が空いたかと思うと、勢いよく飛び出してきた何かがとぐろを巻いてバーレニィの周囲を囲った。
とんでもないサイズだ。体は顔よりも更に大きすぎて部屋に入りきっておらず、横穴に体を残したままだ。大きな口からは、どういうわけか大量の血を流している。
「お前……ッづぁ!アァァああァぁッ!!」
それは、シロウさんを飲み込んだ巨大なワームだった。しかし、姿を見た瞬間に、またもやモモコちゃんの周囲を黒い炎が逆巻いた。怒りが再び、燃え上がったんだ!
「モモコちゃん!!」
「……ほう。モモコ君は、ソレを扱えるのか。驚いたね、随分と懐かしい技だ」
マズい!もしここで奥義を放てば、モモコちゃんまで戦えなくなってしまう!
「ダメだ!アオヤ君、ホーリーロッドに攻撃をぶつけるんだ!」
しかし、一番前を走っていた彼が、そんな言葉に反応出来るはずがないのは、司令を出した俺が一番良くわかっている。俺が矢を撃つしかないのに。もう、自分でも何を言っているのかが分からない。そして。
「あ……っ」
矢は、力無い俺の手の隙間をすり抜けて、地面に落ちていった。拾っている時間なんて、もうない。
奥義は、当たるのか?否、ありえない。バーレニィは、俺たちの手を知り尽くしている。だからこそ、あんなにも余裕でいるのだ。
モモコちゃんが動けなくなれば、俺とアオヤ君の二人だけ。セイクリッドストライクは?無理だ。振りかぶった瞬間に、あの光で貫かれる。
なら、回復。いや、間に合わ……。
「繝倥Ν」
彼女の言葉の意味は、分かる。あれはきっと、ヘルプロミネンスだ。
時間が、止まったような感覚。伸ばす手の速度は、ゼロに近い。脳裏を過る景色は、まるで全ての終わりを示しているようだ。
ここまでなのか、俺たちの旅は。
……シロウさん。
「ブった斬れ!チャカぁ!」
「スキル、ザングレイズ!!うぉぉォォオオぉぉッッ!!」
瞬間、ワームのとぐろを巻く喉の辺の一部が内側から弾け、凄まじい程の血飛沫をあげて肉片とともに壁まで吹き飛んだ。そして、その中から勢いよく現れたのは、血塗れの大男と、彼に抱えられ、無骨な銀の剣を握り締めた一人の少年だった。
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