義理の妹が結婚するまで

夏目くちびる

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第二章 春休み(夢子の場合)

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 見られてしまったけど、それに対して怒っているわけではない。私は普段の生活からプロポーションに関しては割と気を使っている方だし、むしろお兄ちゃんに見てもらう為に努力をしているのだから、怒る理由なんてない。



 気に食わないのは、見たのに何のリアクションもなかったことだ。少しくらい褒めてくれてもいいんじゃないの?



 しかし、私は割とお兄ちゃんの体を見ているし、(夏場よく上裸で過ごしていた)それに関して何か感想を言ったこともないから、逆に考えれば当たり前なのかもしれない。



 というより、兄妹間で体の感想言うってすごく変態っぽい。私は一体何を考えているのだろう。



 まあ、私はきっと変態だけど。



 ただそれはそれだ。気に食わないのだから、少しくらい文句も言う。こっちは真剣なのだ。当然といえば当然だ。



 淡いピンクのパジャマに袖を通して下へ降りた。



 部屋に入ってきた私を見て、お兄ちゃんは早速ペコペコ謝りだした。そんな風にされたら、何も言えなくなる。



 「いるなら言ってよね。もう」



 無茶な話だ。「帰ってきた」とわざわざ風呂場にまで伝えに来いとでもいうのだろうか。あまりにも馬鹿げている。しかし、お兄ちゃんのこういう自分が悪くもないのに謝ってしまうところに、私は少し苛立っている。今口にしているのは体を見たことへの文句だが、本当に伝えたいのはそんなことではなかった。



 ……これ以上何かを言ってしまうと、本音の部分まで口に出してしまいそうだった。いくら何でもそれはない。今この場に関係のないことは言ってはいけない。だから「気を付けてね!」と言って、さっさと夕飯の準備をすることで感情に蓋をした。



 いくつかの会話をしながらごはんを食べる。傍から見ればイチャついているように見えなくもない。のだろうか。一度、誰から客観的な意見を聞いてみたい。ここに理子と真琴を招待してみるのもいいかもしれない。



 食べ終わってお兄ちゃんが皿を洗っているのを見ていると、次第に申し訳なさがこみあげてきた。どうしてさっき、あんなことを考えてしまったのだろう。危うく、言ってしまうところだった。



 ……。



 こうして体をくっつけるのは、罪悪感に押しつぶされそうだったから。私の心が、お兄ちゃんに寄り掛かったのだ。



 「お兄ちゃん。今日はどこ行ってたの?」



 「バイト。ピザ届けたり作ったりしてた」



 「ふーん。そうなんだ」



 わかっている。冷蔵庫の中を見ている。なんでもいいからあら捜しをして、ちょっと小突いてみたくなっただけ。しかし、言葉は出てこず、お兄ちゃんの背中に回す手に力が入るばかりだった。



 このまま全て預けてしまえばいいのに、変なところで理性が働く。私はお兄ちゃんが皿洗いをしにくそうだったから、手を離した。



 この前買ったオールレーズンを齧る。甘くておいしかった。しばらくしてこっちを見たお兄ちゃんが一枚欲しがったのを見て、ようやく「だめ」と意地悪を言うことができた。



 その後、自室へ戻って気持ちを落ち着かせてから再び下へ降りた。紅茶でも飲もうと思っていたのだが、ふと軒先に出てとぼけているお兄ちゃんの姿が視界に入った。



 「あれが北極星だよ」



 特に意味はない。ただ会話をするきっかけを作っただけだ。



 そういえば、私は一人で舞い上がっているだけで明日の約束をしていなかった。お兄ちゃんに何か用事があるとは思わないけど、念のために確認。答えはもちろん大丈夫だった。ほっ。



 約束を取り付けてしばらく黙っていると、唐突に。



 「彼氏はいないのか?」



 と訊かれた。



 「いると思う?」



 それしか言いようがない。こういう時、妹の立場が恨めしい。



 お兄ちゃんは察したのか、「まあ作ってみれば、男への価値観も変わるかもしれないな」と言った。わかっている。けどそれを許さないのもお兄ちゃんなんだよ。



 心が、痛い。



 そのあと、お兄ちゃんは何かを言っていたが、パトカーのサイレンの音と混じってよく聞こえなかった。だから代わりに。



 「お兄ちゃんは彼女いないの?」



 どうして聞いてしまうのだろう。傷つくだけなのに。



 「いないよ。受験前に別れた」



 ……ん?



 思わずお兄ちゃんの顔を見てしまった。遠くを見ている、悲しい顔。そうだったんだ。知らなかった。てっきりまだあの人と付き合っているものだと。



 いや、クリスマスもバレンタインもバイトだとは言っていたけど、まさか本当にバイトだったとは。全く、なら早く言ってよ。



 心境の変化はまるでジェットコースターだ。お兄ちゃんの言葉一つで、上へ下へ乱れてしまう。



 「そうなんだ。じゃあデートのつもりで出かけてあげるね」



 憎まれ口を叩いていると、上に立った気がして楽しかった。



 その夜。一人になってから「別れた」といったお兄ちゃんの表情を思い出してなんだか切なくなってしまったから、お兄ちゃんのベッドで眠ることにした。



 いつもそうだ。もしもっと器用に慰めてあげられるのなら、お兄ちゃんは私を好きになってくれるのだろうか。



 そんなことを考えながら頭を撫でて、私は隣で目を閉じた。
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