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第三章 二つの傷
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俺はイマイチ何が起きたのか理解していなかった。
色んな奴を俺と彼の因縁に巻き込んで、最終的に思いつく限り一番最悪な方法で解決してしまったとで深刻な悩みを抱えたと思ったら、妹がキスの一つであっという間に解決してしまった。……ということでいいのか?
「大丈夫だよ」
本当かと疑いたくなったが、夢子の目を見ているとどうでもいい気分になってしまった。これは所謂、わからされたというヤツなんじゃないだろうか。
何も言えなくなってしまった俺は首を赤べこのように何度も振ると、トラの元へ向かって手伝いをすることにした。とはいえ、大体のことはもう片付いていたから騒ぎをでかくしてしまって申し訳ないと謝るくらいしかやることはない。
その後は変わらず皆はバーベキューを楽しんでいた。俺はというと、呆けたように(というか呆けてた)ずっと空を見上げていた。途中何度かサークルメンバー達が話しかけてくれたが、俺は「そうだな」だの「へえ」だの、適当な相槌しか返すことが出来なかった。
× × ×
あれから数週間が経って、中根はすっかり部室に入り浸るようになっていた。いつもは何人かの手下を従えているが(とはいえ、あれは以前とはまた性質の違う男たちだから問題はないはずだ)、今日は珍しく一人のようだ。俺は「やあ」と挨拶をして部室に入ると、そのまま彼女の正面に座った。
「一人?」
俺が一人じゃない時を探す方が難しい。この時間に部室に来るのも、大抵誰も来ないからだからな。
返事を返して、俺はこの前買ったばかりの文庫本を開いた。……が、何か読む気になれなくてすぐに閉じてしまった。
「夢子元気?」
「そうだな。ただあいつもバイト始めたから、最近はあまり会わなくなった」
通学も俺が一限に講義を入れているときくらいしか、一緒に家を出ることもない。
「へえ、何のバイトしてんの?」
「本屋。駅裏のヤツ」
「あんたんちの近くのヤツか。客の数めっちゃ増えてそう」
俺もそう思う。
会話は一度終わり、俺は窓の外を、中根はスマホを見ていた。何度かあくびを繰り返して目を閉じたり開けたり、特に意味のない事をしていると中根がスマホを机の上に置いた。
「夢子の前で手出させるような真似して悪かった」
「いいよ。丸く収まったんだ」
サークルのメンバーも実際の腹の中ではどう思っているか知らないが、以前と変わらずに接してくれている。そもそも、普通に生活して入れば喧嘩なんてすることは滅多にないだろうからな。
「ただ、あそこまで規格外だとは思ってなかった。あんた、一体どんな生活してきたのよ」
「別に何も。ただ他の人より少しエネルギーが余ってただけだ」
「意味わかんない。ほんと変な奴」
小さく笑うと、中根は俺の隣に座った。
「どうした」
「前に色々教えてあげるって言ったじゃん」
俺の膝の上に手を置いた。
「待て待て。マジでどうした」
「どうせ夢子ともまだ何にもしてないんでしょ?」
その通りだった。
「誠実なのもいいけど、それじゃ夢子がかわいそう」
中根は体制を変えると、俺の上に被さる様になった。明らかに体躯と不釣り合いな胸が、俺の腹の当たりに形が変わる程強く押し付けられている。俺はのけ反って後ろに手を付き、生唾を飲み込んだ。
「あの子にキスまでさせておいて、本当ヘタレなんだから」
顔が近い。吐息が当たっている。
「見てたのか?」
「当たり前でしょ」
彼女は太ももを絡ませて腰をくねらせる。カーディガンの前を少し開けると、そのまま俺の顔に唇を。
「まっ、マジで!本当にちょっと!」
「う・そ」
言って、中根は俺の口に人差し指を当てた。
「はえ?」
「わかる?紗彩がちょっと本気出したらそんなもんなの。もうちょっと耐性つけろって」
そういうと中根は俺から離れて服の乱れを直した。後ろを向いてしまったから、その表情はわからない。
顔面が火を噴いたように熱い。耳たぶをつまむと、指先が燃えているようだった。俺は恥ずかしくなって両手で顔を覆うと、机に両肘をついた。
「本当にやめろっての、つーか帰れよ……」
いくら人が来ない時間とはいえ、部室というシチュエーションもよくない。俺の知らない部員が入ってきても何もおかしくはないからな。
「紗彩の勝ち?ねぇ、紗彩の勝ち?」
再び顔を近づけてくる中根。
「負けた。俺の負けだって」
中根、お前がナンバーワンだ。
彼女は満足したのか、対面の席に座り直すとニヤニヤしながら話始めた。
「まあ、紗彩は超かわいいから仕方ないけど」
何も言えなくしてからマウント取ってくるのはずるいぞ。
「あんたたち兄妹はおちょくり甲斐があって本当に面白いわ」
そういえば、バーベキュー中も中根は夢子を弄って遊んでいたような気がする。
「でも心配するんじゃないの?あんたがそんなに耐性ないとさ」
「そんな気はしてる」
実際、俺の意気地なしは筋金入りだ。嫌われたくないという気持ちが先行してしまって、どうしても手が伸びないのだ。
「……本当に教えてあげよっか?」
中根は妙に真剣な顔をしていた。
「あー。えっとだな」
「冗談だってば、バカ」
「だったらもっと面白おかしくやってくれ」
心臓に悪い。
「あんたがヘタレなのがいけないんでしょ?そんじゃ、紗彩は講義行くから」
中根が鞄を持って立ち上がる。
「あぁ。またな」
部室から出ていく姿を見送って、俺も鞄を持ち上げた。本当は俺も別棟で講義があったのだが、今日はもう何もやる気にならなかった。
……夢子の事、しっかり考えないとな。そう思いながら部室を出て、部屋に鍵をかけた。
色んな奴を俺と彼の因縁に巻き込んで、最終的に思いつく限り一番最悪な方法で解決してしまったとで深刻な悩みを抱えたと思ったら、妹がキスの一つであっという間に解決してしまった。……ということでいいのか?
「大丈夫だよ」
本当かと疑いたくなったが、夢子の目を見ているとどうでもいい気分になってしまった。これは所謂、わからされたというヤツなんじゃないだろうか。
何も言えなくなってしまった俺は首を赤べこのように何度も振ると、トラの元へ向かって手伝いをすることにした。とはいえ、大体のことはもう片付いていたから騒ぎをでかくしてしまって申し訳ないと謝るくらいしかやることはない。
その後は変わらず皆はバーベキューを楽しんでいた。俺はというと、呆けたように(というか呆けてた)ずっと空を見上げていた。途中何度かサークルメンバー達が話しかけてくれたが、俺は「そうだな」だの「へえ」だの、適当な相槌しか返すことが出来なかった。
× × ×
あれから数週間が経って、中根はすっかり部室に入り浸るようになっていた。いつもは何人かの手下を従えているが(とはいえ、あれは以前とはまた性質の違う男たちだから問題はないはずだ)、今日は珍しく一人のようだ。俺は「やあ」と挨拶をして部室に入ると、そのまま彼女の正面に座った。
「一人?」
俺が一人じゃない時を探す方が難しい。この時間に部室に来るのも、大抵誰も来ないからだからな。
返事を返して、俺はこの前買ったばかりの文庫本を開いた。……が、何か読む気になれなくてすぐに閉じてしまった。
「夢子元気?」
「そうだな。ただあいつもバイト始めたから、最近はあまり会わなくなった」
通学も俺が一限に講義を入れているときくらいしか、一緒に家を出ることもない。
「へえ、何のバイトしてんの?」
「本屋。駅裏のヤツ」
「あんたんちの近くのヤツか。客の数めっちゃ増えてそう」
俺もそう思う。
会話は一度終わり、俺は窓の外を、中根はスマホを見ていた。何度かあくびを繰り返して目を閉じたり開けたり、特に意味のない事をしていると中根がスマホを机の上に置いた。
「夢子の前で手出させるような真似して悪かった」
「いいよ。丸く収まったんだ」
サークルのメンバーも実際の腹の中ではどう思っているか知らないが、以前と変わらずに接してくれている。そもそも、普通に生活して入れば喧嘩なんてすることは滅多にないだろうからな。
「ただ、あそこまで規格外だとは思ってなかった。あんた、一体どんな生活してきたのよ」
「別に何も。ただ他の人より少しエネルギーが余ってただけだ」
「意味わかんない。ほんと変な奴」
小さく笑うと、中根は俺の隣に座った。
「どうした」
「前に色々教えてあげるって言ったじゃん」
俺の膝の上に手を置いた。
「待て待て。マジでどうした」
「どうせ夢子ともまだ何にもしてないんでしょ?」
その通りだった。
「誠実なのもいいけど、それじゃ夢子がかわいそう」
中根は体制を変えると、俺の上に被さる様になった。明らかに体躯と不釣り合いな胸が、俺の腹の当たりに形が変わる程強く押し付けられている。俺はのけ反って後ろに手を付き、生唾を飲み込んだ。
「あの子にキスまでさせておいて、本当ヘタレなんだから」
顔が近い。吐息が当たっている。
「見てたのか?」
「当たり前でしょ」
彼女は太ももを絡ませて腰をくねらせる。カーディガンの前を少し開けると、そのまま俺の顔に唇を。
「まっ、マジで!本当にちょっと!」
「う・そ」
言って、中根は俺の口に人差し指を当てた。
「はえ?」
「わかる?紗彩がちょっと本気出したらそんなもんなの。もうちょっと耐性つけろって」
そういうと中根は俺から離れて服の乱れを直した。後ろを向いてしまったから、その表情はわからない。
顔面が火を噴いたように熱い。耳たぶをつまむと、指先が燃えているようだった。俺は恥ずかしくなって両手で顔を覆うと、机に両肘をついた。
「本当にやめろっての、つーか帰れよ……」
いくら人が来ない時間とはいえ、部室というシチュエーションもよくない。俺の知らない部員が入ってきても何もおかしくはないからな。
「紗彩の勝ち?ねぇ、紗彩の勝ち?」
再び顔を近づけてくる中根。
「負けた。俺の負けだって」
中根、お前がナンバーワンだ。
彼女は満足したのか、対面の席に座り直すとニヤニヤしながら話始めた。
「まあ、紗彩は超かわいいから仕方ないけど」
何も言えなくしてからマウント取ってくるのはずるいぞ。
「あんたたち兄妹はおちょくり甲斐があって本当に面白いわ」
そういえば、バーベキュー中も中根は夢子を弄って遊んでいたような気がする。
「でも心配するんじゃないの?あんたがそんなに耐性ないとさ」
「そんな気はしてる」
実際、俺の意気地なしは筋金入りだ。嫌われたくないという気持ちが先行してしまって、どうしても手が伸びないのだ。
「……本当に教えてあげよっか?」
中根は妙に真剣な顔をしていた。
「あー。えっとだな」
「冗談だってば、バカ」
「だったらもっと面白おかしくやってくれ」
心臓に悪い。
「あんたがヘタレなのがいけないんでしょ?そんじゃ、紗彩は講義行くから」
中根が鞄を持って立ち上がる。
「あぁ。またな」
部室から出ていく姿を見送って、俺も鞄を持ち上げた。本当は俺も別棟で講義があったのだが、今日はもう何もやる気にならなかった。
……夢子の事、しっかり考えないとな。そう思いながら部室を出て、部屋に鍵をかけた。
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