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第五章 義理の妹と結婚するまで
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「……言って」
「何を?」
「もう一回、その……」
顔が真っ赤になっている。薄々気が付いてはいたが、夢子は攻撃は得意だが防御は下手くそなようだ。かといって何度も告白されているのなら、そこまで気を張る必要もないように思える。
そう考えて思う。夢子は、俺の事を好きでいてくれているのだろうと。だから。
「好きです。恋人になってください」
俺も正座になって、そう伝えた。
俺はまっすぐ夢子の目を見ているが、夢子は一瞬見るだけですぐに逸らしてしまう。
「えっと、私のどこが、好きなんデスカ……」
自分は散々アタックしていたのに、どうして俺が追いかけるとこうなってしまうのだろうか。まるでクリスマスの時とは正反対の、自信のなさそうな様子だ。
全部と言って肯定するのは簡単だが、夢子がそれよりも喜ぶ言葉を俺は知っている。
「優しくしたくなるところ。ずっと見ていたくなるところ」
「はわわ」
自分の顔を隠して、指の隙間から俺を見ている。それを見つめると、夢子は四足歩行(所謂ハイハイというヤツだ)でこちらに近づき、俺の首に腕を回して肩に顎を乗せた。
「み、見るの禁止、です」
敬語になってしまった。背中を叩いて落ち着くように促すが、夢子の少し荒い息使いは一向に止む気配がなかった。
「……見てくれてたの?」
「あの日からずっと」
「妹なんだよ?」
「俺にとってはもう違う」
「だって私……」
「大丈夫」
遮るように言って、頭を撫でる。
「大丈夫だ。大好きだよ」
見ると、夢子は泣いていた。
「本当によく泣くよな」
指で涙を拭っても、後から後からこぼれる。
「だって、ずっと好きだったから。本当にずっと好きだったの」
俺も目の奥が熱くなる。
「今まで開き直ってるつもりだったの。でも一緒に暮らしてるのにお兄ちゃんがどんどん離れて行ってるような気がしてたの。前は頭も撫でてくれたのに、それもほとんどなくなったんだもん」
俺が夢子を意識したせいで、逆に悲しませてしまっていたようだった。
皮肉なものだ。物語では、大切なモノ程離れて行ってしまうというのをよく見る。あれは、こうした思い違いをきっかけに発生する別れなのだとわかった。そしてきっと、両想いでしか起こりえない。
「本当は絶対に叶わないんじゃないかって。お兄ちゃんは別の方法を考えるんじゃないかって。私ずっと不安だったの。兄妹でなんて異常だってわかってるんだもん。でも好きなんだもん」
俺もだよ。
「好きでいていいのかもわからない。だって初めてなんだもん。諦められないのが悲しくて、嫌われるのが怖くて。隣で眠っているのに誰よりも遠い気がしてたの」
「大丈夫だ」
優しく抱きしめる。
「でも……っ」
何度でも言ってやる。
「大丈夫」
「……ずっと一緒にいられるの?」
「もちろん」
それを聞くと、夢子は俺にしがみ付いてから声を上げて泣いた。嗚咽が漏れて、体が何度も小刻みに揺れる。今まで塞き止められていた感情が流れ出したのだろう。その細い腕が壊れそうなくらいに、俺を強く求めている。
俺はその全てを受け止めた。震えが治まる様に、心が温まる様に、優しく抱きしめて。
しばらくしてから夢子は顔を上げた。指で前髪を分けると、その瞳は真っ赤に充血している。頬は赤く、口も閉じたり開いたりを繰り返す。いつもの彼女とはまるで違う顔だ。だが、今までのどの瞬間よりも。
「綺麗だ」
そう、強く思った。
……夢子は目を閉じた。俺を待っている。ずっと前から待っていてくれていた。だから、これ以上何も考えるようなことはない。それに応えるように目を閉じて。
「んっ……」
口づけを交わした。
俺たちの世界から音が消えた。視界には彼女の姿しか映っていない。それは夢子も同じだ。そう言える理由なんてない。ただ、絶対だ。
「大好き」
その言葉を何度も聞きたくて、だから俺も彼女を強く求めた。
× × ×
あれから二週間後の朝。俺はいつも通り駅まで夢子を見送ってから家に戻り、(俺は春休みだ)本を読みながらラジオを聞いていた。
駅へ向かう学生やスーツ姿のサラリーマンと逆に進んでいると、少しだけ優越感を覚える。しかし、俺もいずれはあんな辛そうな顔をして出勤するようになるのだろうか。今のうちから覚悟をしておいた方が、その時の俺が救われるかもしれない。
炬燵に入ってまどろんいでいると、いつも聞いているラジオ番組が始まった。それはつまり、時刻が十時になったという事だ。
ラジオDJの良く通る落ち着いた声が(何となく竹藤先生に似ている)、本日のトピックスとリクエスト曲の名前を読む。ハードカバーを閉じて聞き入っていると、最後に届いたはがきを読み上げた。
「それでは次のお便り、ラジオネーム『メルカトル』さんからです」
思わず声を漏らしてしまった。恐らくこれは俺が出したはがきだ。ちなみに、メルカトルとは俺の好きなミステリー小説の主人公で、ラジオネームはそれに由来している。
挨拶と応援コメントを呼んで感想を言うと、DJは早速本題を読み上げた。
「『私は男なのでわかりませんが、女性にとって母親とはどういうものなのでしょうか。知人が関係の縺れから困っているようなので、何かアドバイスを頂けると嬉しいです』か。……なるほど」
俺はその答えを待ちわびた。
「そうだね。同性には同性特有の感情があるのは確かだね。嫉妬だってするだろうし、負けたくないって気持ちもあるんだと思うな」
ライバル関係という事だろうか。
「近い関係であればあるほど、それだけ同性意識も高まるよ。お互いに引けないのであれば、その子たちは親子というよりも友達に近いんじゃないかな」
なるほど。俺は父を尊敬しているから先に納得がいくが、夢子の場合はむしろ理子や真琴と同じ風に見えているのかもしれない。よく正面から意見を言い合っているのを思い出した。
「参考になったかな。僕も男だからこれが正解とは言えないけど、メルカトルさんがその子の力になれる事を願うよ」
そう言って、彼は別のはがきの読み上げに移った。
結論から言えば、それはかなり有益な情報だった。決めつけるわけではないが、恐らく彼の言う通りあの二人は友達に近いのだと思う。
だとすれば、俺が夢子の為にやれる事の方向性が決まった。そう思って、俺は旅行以来の連絡を彼女にした。
「何を?」
「もう一回、その……」
顔が真っ赤になっている。薄々気が付いてはいたが、夢子は攻撃は得意だが防御は下手くそなようだ。かといって何度も告白されているのなら、そこまで気を張る必要もないように思える。
そう考えて思う。夢子は、俺の事を好きでいてくれているのだろうと。だから。
「好きです。恋人になってください」
俺も正座になって、そう伝えた。
俺はまっすぐ夢子の目を見ているが、夢子は一瞬見るだけですぐに逸らしてしまう。
「えっと、私のどこが、好きなんデスカ……」
自分は散々アタックしていたのに、どうして俺が追いかけるとこうなってしまうのだろうか。まるでクリスマスの時とは正反対の、自信のなさそうな様子だ。
全部と言って肯定するのは簡単だが、夢子がそれよりも喜ぶ言葉を俺は知っている。
「優しくしたくなるところ。ずっと見ていたくなるところ」
「はわわ」
自分の顔を隠して、指の隙間から俺を見ている。それを見つめると、夢子は四足歩行(所謂ハイハイというヤツだ)でこちらに近づき、俺の首に腕を回して肩に顎を乗せた。
「み、見るの禁止、です」
敬語になってしまった。背中を叩いて落ち着くように促すが、夢子の少し荒い息使いは一向に止む気配がなかった。
「……見てくれてたの?」
「あの日からずっと」
「妹なんだよ?」
「俺にとってはもう違う」
「だって私……」
「大丈夫」
遮るように言って、頭を撫でる。
「大丈夫だ。大好きだよ」
見ると、夢子は泣いていた。
「本当によく泣くよな」
指で涙を拭っても、後から後からこぼれる。
「だって、ずっと好きだったから。本当にずっと好きだったの」
俺も目の奥が熱くなる。
「今まで開き直ってるつもりだったの。でも一緒に暮らしてるのにお兄ちゃんがどんどん離れて行ってるような気がしてたの。前は頭も撫でてくれたのに、それもほとんどなくなったんだもん」
俺が夢子を意識したせいで、逆に悲しませてしまっていたようだった。
皮肉なものだ。物語では、大切なモノ程離れて行ってしまうというのをよく見る。あれは、こうした思い違いをきっかけに発生する別れなのだとわかった。そしてきっと、両想いでしか起こりえない。
「本当は絶対に叶わないんじゃないかって。お兄ちゃんは別の方法を考えるんじゃないかって。私ずっと不安だったの。兄妹でなんて異常だってわかってるんだもん。でも好きなんだもん」
俺もだよ。
「好きでいていいのかもわからない。だって初めてなんだもん。諦められないのが悲しくて、嫌われるのが怖くて。隣で眠っているのに誰よりも遠い気がしてたの」
「大丈夫だ」
優しく抱きしめる。
「でも……っ」
何度でも言ってやる。
「大丈夫」
「……ずっと一緒にいられるの?」
「もちろん」
それを聞くと、夢子は俺にしがみ付いてから声を上げて泣いた。嗚咽が漏れて、体が何度も小刻みに揺れる。今まで塞き止められていた感情が流れ出したのだろう。その細い腕が壊れそうなくらいに、俺を強く求めている。
俺はその全てを受け止めた。震えが治まる様に、心が温まる様に、優しく抱きしめて。
しばらくしてから夢子は顔を上げた。指で前髪を分けると、その瞳は真っ赤に充血している。頬は赤く、口も閉じたり開いたりを繰り返す。いつもの彼女とはまるで違う顔だ。だが、今までのどの瞬間よりも。
「綺麗だ」
そう、強く思った。
……夢子は目を閉じた。俺を待っている。ずっと前から待っていてくれていた。だから、これ以上何も考えるようなことはない。それに応えるように目を閉じて。
「んっ……」
口づけを交わした。
俺たちの世界から音が消えた。視界には彼女の姿しか映っていない。それは夢子も同じだ。そう言える理由なんてない。ただ、絶対だ。
「大好き」
その言葉を何度も聞きたくて、だから俺も彼女を強く求めた。
× × ×
あれから二週間後の朝。俺はいつも通り駅まで夢子を見送ってから家に戻り、(俺は春休みだ)本を読みながらラジオを聞いていた。
駅へ向かう学生やスーツ姿のサラリーマンと逆に進んでいると、少しだけ優越感を覚える。しかし、俺もいずれはあんな辛そうな顔をして出勤するようになるのだろうか。今のうちから覚悟をしておいた方が、その時の俺が救われるかもしれない。
炬燵に入ってまどろんいでいると、いつも聞いているラジオ番組が始まった。それはつまり、時刻が十時になったという事だ。
ラジオDJの良く通る落ち着いた声が(何となく竹藤先生に似ている)、本日のトピックスとリクエスト曲の名前を読む。ハードカバーを閉じて聞き入っていると、最後に届いたはがきを読み上げた。
「それでは次のお便り、ラジオネーム『メルカトル』さんからです」
思わず声を漏らしてしまった。恐らくこれは俺が出したはがきだ。ちなみに、メルカトルとは俺の好きなミステリー小説の主人公で、ラジオネームはそれに由来している。
挨拶と応援コメントを呼んで感想を言うと、DJは早速本題を読み上げた。
「『私は男なのでわかりませんが、女性にとって母親とはどういうものなのでしょうか。知人が関係の縺れから困っているようなので、何かアドバイスを頂けると嬉しいです』か。……なるほど」
俺はその答えを待ちわびた。
「そうだね。同性には同性特有の感情があるのは確かだね。嫉妬だってするだろうし、負けたくないって気持ちもあるんだと思うな」
ライバル関係という事だろうか。
「近い関係であればあるほど、それだけ同性意識も高まるよ。お互いに引けないのであれば、その子たちは親子というよりも友達に近いんじゃないかな」
なるほど。俺は父を尊敬しているから先に納得がいくが、夢子の場合はむしろ理子や真琴と同じ風に見えているのかもしれない。よく正面から意見を言い合っているのを思い出した。
「参考になったかな。僕も男だからこれが正解とは言えないけど、メルカトルさんがその子の力になれる事を願うよ」
そう言って、彼は別のはがきの読み上げに移った。
結論から言えば、それはかなり有益な情報だった。決めつけるわけではないが、恐らく彼の言う通りあの二人は友達に近いのだと思う。
だとすれば、俺が夢子の為にやれる事の方向性が決まった。そう思って、俺は旅行以来の連絡を彼女にした。
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