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第1章--1話--
始まりは、雲の隙間から
しおりを挟む「ねえ、今日、世界が終わるって知ってた?」
放課後の屋上で、君が突然そんなことを言った。
制服のまま、フェンスにもたれて、空を見上げながら。
「はいはい。占いか? 陰謀論か? それとも厨二病再発か?」
俺は笑って流した。
でも君は真顔だった。からかってる雰囲気でも、冗談でもなかった。
「ほんとに終わるの。今日の23時59分に。だからさ……いろんなこと、終わらせたいなって思って」
⸻
君は不思議なやつだった。
髪はちょっと明るくて、声は小さめで、でもなぜか目立つ。
クラスでもいつも窓際で、ノートに何か書いてた。
誰ともつるまないくせに、誰からも嫌われてなかった。
俺は…というと、まぁ、普通。
部活帰りにコンビニ寄って、どうでもいい話して笑って、そんな日々の繰り返し。
だけどその日から、君はちょっとずつ俺に話しかけてくるようになった。
「もし、あと1日しか生きられなかったら、何食べたい?」
「どんな音楽、最後に聴きたい?」
「誰に会いたい?」
変な質問ばっか。でも、なんか答えたくなる。
そして、少しずつ俺たちは放課後、屋上で会うようになった。
⸻
「世界が終わるならさ、好きな人にはちゃんと伝えたいじゃん」
ある日、君が言った。
夕焼けがすごくきれいだった日。空が、真っ赤で、泣きそうなくらい鮮やかで。
「……言ったの? その人に」
「ううん、まだ。怖くて。だって……フラれたら、そのまま世界が終わったら、二重に最悪でしょ?」
そう言って笑った君の横顔、
なんか、無性にドキッとした。
……もしかして俺、今さら気づいた?
世界が終わるとかどうでもよくて、
君と過ごす時間が、ちょっとだけ特別になってきてるってことに。
⸻
そして、運命のその日。
12月31日。
君は言った。「今日、23時59分で世界はほんとに終わるよ」って。
俺はなんとなく、信じてみたくなった。
だって、もし終わるなら――
「俺、伝えたいことがある」
屋上の風が冷たくて、手がちょっと震えた。
「たぶん、その好きな人って、俺のことなんじゃないかなって。……違う?」
君は一瞬だけ固まって、すぐに、ふふって笑った。
「そっか。ばれてたか」
「じゃあ……さ、俺の方から言っていい?」
「え?」
「好き。お前のこと」
君は目を見開いて、それから、ぽつり。
「世界、終わってもいいな、って初めて思った」
⸻
そして。
23時59分。
カウントダウンなんて、スマホの通知だけでよかった。
街は静かで、誰も騒いでなかった。
秒針が、0を指す。
……でも、世界は終わらなかった。
いつも通りの、1月1日が始まった。
⸻
「嘘だったのかよ」
「うん、ごめん。全部、うそ」
「は?」
「でも、本気で信じてくれたの、嬉しかった」
「いや、マジで信じてたし! 心臓もげるかと思ったし!」
「じゃあこれからも、もげない程度に一緒にいて?」
「……ったく、ほんとやべーやつだな」
でもたぶん、
俺は一生この“嘘つき”のことを好きでいる。
⸻
だって、あの日世界が終わらなかったおかげで、
俺の“好き”が、やっと始まったんだから。
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