【R18】亡国の聖女は、魔王の最愛になりました。

白木ゆか

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第7話 リリスの息抜き

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城の中でも、言葉は勝手に形を変えていた。

ミレイアは与えられた部屋から出ることがほとんどない。廊下を歩くことも、城内を見て回ることも許されていなかった。扉の外に気配があれば、それだけで背筋が強張る。ここは安全だと、誰もが言う。だが、その言葉を信じ切れるほど、彼女はまだ慣れていなかった。

扉が軽く叩かれる。

「失礼しまーす」

返事を待たずに入ってきたのは、リリスだった。両腕いっぱいに布包みを抱えている。

「今日はね、完全に私の息抜き」

そう前置きして、勝手に部屋の中央を占領する。

「仕事が大変すぎてさ。こういうことしてないと、やってられないのよ」

布包みが解かれ、色とりどりの衣服が広げられる。柔らかな布、淡い色合い。どれも実用よりも、見た目を優先したものだった。

「ほら。せっかくだから、可愛いの着たいでしょ?」

問いかけは軽いが、断る余地はない。ミレイアは小さく頷き、立ち上がった。

「それにしても」

衣服を選びながら、リリスが続ける。

「アシュレイってば、意外と一途なのね。私にちっとも手を出してくれなかったのに!」

笑い混じりの声だった。からかう調子で、悪意はない。

「魔王の寵愛、ってやつ? 城の中でも、そういう話になってるわよ」

ミレイアは何も言えず、袖を通されるまま、次々と着替えさせられる。鏡の前で向きを変えられ、紐を結ばれ、裾を整えられる。

「うん、こっちもいい。あ、色変えてみよ」

頬に指が触れ、髪が梳かれる。粉を軽く乗せられ、唇に色が足される。作業は手慣れていて、無駄がない。

やがて、椅子に座らされる。

「ちょっと肩、触るわよ」

断る前に、両手が肩に置かれた。指が筋を探るように動き、ゆっくりと力が加わる。

「……っ」

思わず、小さな声が漏れる。

「力、抜いて。ほら」

言われるままに息を吐くと、指が深く入る。凝り固まった部分を押され、喉の奥から熱を含んだ息がこぼれた。

「……あ……」

自覚のない声だった。艶を帯びた音に、自分で驚く。

「そんな声出るのね」

リリスは楽しそうに笑い、指の動きを緩めない。

「ほら、こっちも」

肩から首筋へ。少し触れられるだけで、身体が正直に反応する。ミレイアは視線を伏せ、唇を噛んだ。

「……ん……」

抑えようとしても、声は完全には消えなかった。

そのとき、扉の外で足音が止まる。

「……リリス」

低い声が、静かに割り込んだ。

振り返ると、アシュレイが立っている。状況を一目見て、軽く眉を動かした。

「声だけ聞くと、いかがわしいことをしているみたいだぞ」

責めるでもなく、淡々とした指摘だった。

リリスは一瞬きょとんとし、それから声を上げて笑う。

「なにそれ。アシュレイったら、ヤキモチ?」

さらに楽しそうに手を離す。

「ほら、楽しくなっちゃう!」

ぱん、と手を打ち、

「続きはまたね。私は仕事戻るから。楽しんで!」

そう言い残して、軽やかに出ていった。

部屋に残った静けさが、急に濃くなる。

ミレイアは整えられた衣服のまま立ち尽くし、鏡に映る自分を見た。見慣れない姿だが、不快ではない。ただ、落ち着かない。

何か、リリスに勘違いされている気がする。

考えかけたところで、アシュレイが近づき、小さな包みを差し出した。

「軽食だ」

短い言葉。

受け取ると、温かさが掌に伝わる。香りに、自然と喉が鳴った。

「……ありがとうございます」

それだけ言って、包みを開く。口に運ぶと、思考が途切れる。味が、はっきりしていた。

アシュレイはそれを確認すると、距離を保ったままソファへ向かう。

ミレイアは食べながら、胸に残った違和感を、ひとまず脇に置いた。
今は、それでよかった。
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